塩田千春の作品から他者との「つながり」を考える。圧巻のインスタレーションに注目
2024年10月3日
よみがえる正倉院宝物 ―再現模造にみる天平の技―/サントリー美術館
奈良県・東大寺の倉であった正倉院正倉。その正倉院に収められていた宝物を紹介する展覧会が、サントリー美術館で開催中です。
正倉院宝物は、聖武天皇ゆかりの品をはじめ、多彩な分野の宝物のことを指します。その数は約9000件にもおよびます。
「御大典記念 特別展 よみがえる正倉院宝物 ―再現模造にみる天平の技―」展示風景
これまで正倉院宝物は、その貴重さ、脆弱さから、毎年秋に奈良で一部が展覧される以外はほとんど公開されてきませんでした。
本展では、これまで製作された再現模造作品から厳選された宝物を紹介します。天平の美を感じ、そして日本の伝統技術を継承することについても考えられる展示となっています。
※展覧会情報はこちら
正倉院は、奈良時代に東大寺大仏殿の裏手に建つ倉庫でした。つくりは、柱を使わず三角形の木材を、井桁(井の字型の木組みのこと)に組んで壁にする校倉造(あぜくらづくり)の伝統的な建物で、北倉・中倉・南倉の三倉からなっています。
また、倉のなかは天皇の許可以外では入ることが許されない、勅封(ちょくふう)という制度によって厳しく管理され、人の手により守り伝えられてきました。現在、宝物はより保存をしやすい新宝庫に移されましたが、この制度は変わっていないそうです。
正倉院宝物はもともとは、聖武天皇ゆかりの宝物でした。しかし、聖武天皇崩御の際、東大寺大仏に捧げられ、正倉院に保管されることになりました。
その内容は、調度品、楽器、遊戯具、武器・武具、文房具、仏具、文書、染織品など、ほとんどが奈良時代に制作されたものです。また、天平文化を伝えるものだけでなく、西域や唐からもたらされた品、東大寺に関する資料なども収蔵されており、これらすべてを正倉院宝物と呼んでいます。
「御大典記念 特別展 よみがえる正倉院宝物 ―再現模造にみる天平の技―」展示風景
保存状態の良い宝物からは、天平の美と技、そして諸外国との交流もうかがい知ることができます。
展示室には宝物の再現模造作品が並ぶのはもちろんですが、正倉院のつくりについて分かりやすく説明したVR映像も流れています。映像内には内部も映っており、1300年も前に建てられたとは思えないしっかりとしたつくりで驚きますよ。こちらもぜひ鑑賞してみてください。
正倉院宝物はどれもが優品であり、当時の技術が結集したものばかりですが、本記事ではその一部を紹介します。
正倉院宝物は、当時の工芸技法を駆使した調度品であふれています。
そのなかでもひときわ目を引くのが、聖武天皇のゆかりの品であり、世界で唯一現存する五絃の琵琶です。
模造 螺鈿紫檀五絃琵琶 一面
[木地]坂本曲齋(三代)[象嵌]新田紀雲 [加飾]北村昭斎、松浦直子[絃]丸三ハシモト株式会社
平成23~30年(2011~18) 宮内庁正倉院事務所蔵
【全期間展示】
この琵琶を再現模造するのはとても難しいことでした。すでに現物に大幅な修理が施されており、経年劣化した色や装飾はもちろん、楽器としても演奏可能な状態を推測するところから始まったそうです。
琵琶は本来、絃が4本のものが主流で、5本の作例が本作しかなかったことから、琵琶師などと協力しつつ、CT撮影により内部構造を解明することに成功しました。
また、この材料を集めるのも簡単なことではありませんでした。
メインの材料は、紫檀(したん)という大変希少な木材です。こちらは厚みが必要なことから丸太で入手することが必要だったそうです。優美な装飾には、螺鈿でよくつかわれる夜光貝による螺鈿(らでん*)や、現在では輸入が禁止されている玳瑁(たいまい、ウミガメの甲羅)が用いられています。
漆芸家や絵画模写師、唐木細工師など多くの作り手を必要とし、完成するのに8年もかかったそうです。
*螺鈿:ヤコウガイなど、真珠光を放つ貝がらを文様に切って、木地や漆塗りの面にはめこんだり、貼りつけたりする漆工芸の技法のこと。
奈良時代、大仏を擁する東大寺では壮麗な儀礼と仏前への献物が盛んに行われました。
正倉院に格納された仏具は、律令制や護国体制といった時代背景をもとにつくられたものです。
模造 黄銅合子 一合
[鋳造]般若勘溪 [彫金]浦島紫星
平成16年(2004) 宮内庁正倉院事務所蔵
【全期間展示】
黄銅合子は、仏前で用いた香の容器だったと考えられています。
模造するための調査を進めていくと、構造がとても複雑なことが分かりました。
上のふた部分は50枚以上もの部品が重ねられて、鋲で留められています。また、この均等な丸みを帯びたフォルムも、ろくろで手作業で行われたのだから驚きです。レベルの高い技術、そしておおらかな美意識からは、天平芸術のすばらしさを実感できます。
正倉院には、古代の武器・武具なども納められています。なかでも一番装飾性のある武具が、金銀鈿荘唐大刀です。
正倉院の宝物の目録である『国家珍宝帳』にも記載があり、名に「唐」とあることから、中国から伝わったものだと考えられています。
模造 金銀鈿荘唐大刀 一口
明治時代 19世紀 宮内庁正倉院事務所蔵
【全期間展示】
鞘(さや)には金蒔絵*で鳥獣・唐草・花雲などの文様が施されています。色とりどりのガラス玉も埋め込まれており、細部まで妥協なくこだわった刀です。
奈良時代は争いが続いた時代でもあり、正倉院から武器が出蔵されることもあったそうですが、こうした華やかに彩られた儀礼用のものから実用性のあるものまで、55口が現存しています。
*蒔絵・・・漆工芸の装飾技法の一つ。漆で絵や文様を描き、その漆が固まらないうちに蒔絵粉を蒔いて表面にくっつけます。
正倉院は厳しく管理されていたこともあり、江戸時代までは公開されることがありませんでした。
明治時代になってから、奈良・東大寺で開催された奈良博覧会をきっかけに、正倉院宝物の模造製作が始まりました。
「御大典記念 特別展 よみがえる正倉院宝物 ―再現模造にみる天平の技―」展示風景
模造製作は当初は、修理と一体の事業として取り組まれましたが、昭和47年(1972)からは宝物を管理する宮内庁正倉院事務所によって、忠実な再現模造が行われるようになります。以来、多くの技術者の協力のもと、100件以上の宝物が製作されてきました。
製作当時と同じ材料と技術を使って製作される再現模造作品は、当時の技法なども推測しながら製作されるため、学術的な意義もあります。
模造 螺鈿箱 一合
[素地]川北良造 [髹漆・加飾]北村大通 [嚫]高田義男
昭和51~52・54年(1976~77・79) 宮内庁正倉院事務所蔵
【全期間展示】
正倉院宝物はどれも素晴らしい逸品ばかりですが、本展は、人間国宝を含む現代の名工の技に触れることのできる展覧会でもあります。展示室内では模造製作の際の映像や関連資料なども作品とともに紹介されていますよ。
正倉院宝物を、間近で鑑賞できる本展。
全国を巡回してきた本展もいよいよ終盤。東京会場のあとは、長野会場で閉幕となります。
また、サントリーの公式YouTubeでは、関連動画を視聴することもできます。
こちらもぜひ、鑑賞前にご覧になってください。