塩田千春の作品から他者との「つながり」を考える。圧巻のインスタレーションに注目
2024年10月3日
UESHIMA MUSEUM エントランス
2024年6月1日、渋谷に新たな私設美術館UESHIMA MUSEUMがオープンします。
地上6階、地下1階のミュージアムに展示されるのは、事業家・投資家として多彩な顔を持つ植島幹九郎のコレクション。
「同時代性」をテーマとした現代アートのコレクションをフロアごとにさまざまなテーマで紹介するオープニング展のようすを、オープンに先駆けてレポートします。
UESHIMA MUSEUMは、2024年6月にオープンする新たな美術館。
アクセスは渋谷駅から徒歩10分ほど。明治通りを原宿方面に進み、渋谷キャストの前から遊歩道へ。渋谷教育学園渋谷中学校・高等学校の先を右折したところにエントランスがあります。
2023年まで学校が入居していた地下1階から地上6階までの建物全体をリノベーションし、フロアごとに個性を持ったミュージアムとして生まれ変わりました。
UESHIMA MUSEUMに展示されるのは、事業家・投資家として多彩な顔を持つ植島幹九郎のコレクションである「UESHIMA COLLECTION」。
植島が本格的に現代アートのコレクションを開始したのは2022年から。2022年には500点、2023年は150点ほどをコレクションし、現在は約670点にのぼるそう。
UESHIMA MUSEUM 地下1階「絵画における抽象―その開拓精神」展示風景
コレクションしたアートを世界中の人に共有したいという思いから、作品はすべてホームページで3カ国語(日英中)の解説入りで公開してきました。
コレクションのテーマとなっているのは「同時代性」。長年活動している著名なアーティストの作品も、そのアーティストが「今」の時代を感じながら制作した近年の作品を中心に構成されています。
美術館のオープンを飾る本展は、キュレーターの山峰潤也と神谷幸江がアドバイザーを務め、フロアごとにテーマを持った展示が展開されています。
エントランスとなる1階では、名和晃平(なわ こうへい)の作品が迎えてくれます。
名和晃平《PixCell – Deer 40》 2015年 UESHIMA COLLECTIOM
こちらのフロアでは、ミカ・タジマによるインタラクティブな立体作品や、岡崎乾二郎の彫刻と絵画作品などが展示されていました。
ミカ・タジマ《You Be My Body For Me (Unit 3)》2020年 UESHIMA COLLECTIOM
地下1階のテーマは「絵画における抽象・その開拓精神」。
元体育館だった天井高のある空間には、植島が現代アートに興味を持つきっかけとなったゲルハルト・リヒターの作品をはじめとした抽象絵画の作品が並びます。
UESHIMA MUSEUM 地下1階「絵画における抽象―その開拓精神」展示風景
綿密に計画したプロセスとその中に生まれる偶然性から、絵画を描くことの意味を追求しつづける画家ベルナール・フリズは、UESHIMA COLLOECTIONの第一号となったアーティスト。
本展では高さ2mを超える大判作品が展示され、作品と対峙する距離によっても色彩の印象が変化します。
ベルナール・フリズ《Coam》 2002年 UESHIMA COLLECTIOM
2階は「同時代の表現、個の表現世界」をテーマに、アーティストひとりずつにスポットを当てた展示空間がつくられています。
現在、森美術館で大規模個展を開催中のシアスター・ゲイツの展示室には、アメリカの黒人のうち奴隷が占める割合を時系列で示したチャートをネオンで表現した作品や、タール素材を使った作品が並び、アンビエント・ミュージックが流れます。
UESHIMA MUSEUM 2階 シアスター・ゲイツ作品 展示室風景
植島とシアスター・ゲイツは親交があり、シアスター本人が空間に合う音楽を提供したり、アイデアを加えて展示空間を作りあげたといいます。
本フロアには、作品にあわせてつくられた空間も。
さまざまなデータの可視化から世界のあらたな認識の方法を探ってきた池田亮司の作品は、奥行きのある空間に設置され、空間を進みながら映像と音に没入していきます。もともと学園の渡り廊下だった空間が、本作品のための展示室に生まれ変わりました。
池田亮司《data.scan [n°1b-9b]》 2011/2022年 UESHIMA COLLECTIOM
オラファー・エリアソンの《Eye see you》は、黄色い単一周波数ライトを使ったインスタレーション。
展示室に入ると、すべての人の肌や服の色が同じ色に見え、人種や立場も関係なく、皆が同じ人間であるということを感じられる作品です。イギリスのテート・モダンのインスタレーションを参照し、美術館内の本作品展示室壁面を合わせ鏡とし無限に増幅する光のインスタレーションとして展観します。
オラファー・エリアソン《Eye see you》 2006年 UESHIMA COLLECTIOM
同階では、ドイツ現代写真を作りあげたベッヒャー派のトーマス・ルフとアンドレアス・グルスキーの写真作品が向かい合う形で展示されるほか、チームラボ、村上隆、塩田千春、ライアン・ガンダーといった著名なアーティストの作品も並びます。
左 トーマス・ルフ《Substrat 7 III》 2002年 UESHIMA COLLECTIOM
右 トーマス・ルフ《neg◊bal_01》 2014年 UESHIMA COLLECTIOM
3Fは「女性画家のまなざし」。デジタル時代の世界観を絵画で捉え直す今津景の大判の絵画作品のほか、近藤亜樹、津上みゆき、今井麗ら、日本の女性画家の絵画作品が並びます。
左 今津景《Drowsiness》 2022年 UESHIMA COLLECTIOM
右 今津景《Mermaid of Banda Sea》 2024年 UESHIMA COLLECTIOM
4Fのテーマは「変わるもの、消えゆくもの」。
さわひらきによる《/home, /home (absence)》は、作家のかつての自宅であり、両親の転居にともない空虚となった室内が2つの画面に映し出され、そのうちのひとつの画面には飛行機が飛び回ります。空になった部屋の広さを際立たせるようです。
さわひらき《/home, /home (absence)》 2021年 UESHIMA COLLECTIOM
このほか、宮永愛子のナフタリンで制作された変化する彫刻作品や、三嶋りつ惠の繊細なガラス彫刻など、「儚さ」を感じさせる作品が取り上げられています。
宮永愛子《くぼみに眠るそら-寝虎- / valley of sleeping sky -prone tiger-》 2022年 UESHIMA COLLECTIOM
5階は「松本陽子の絵画」として、1960年から現在まで、色彩と形による強靭な構造を持った自律した絵画の追求を続ける画家・松本陽子にフォーカス。
1990年代の作品から、今年1月にロンドンで発表されたばかりの新作まで展示されています。
松本陽子《The Day I Saw the Evening Star》 2023年 UESHIMA COLLECTIOM
なお、4F, 5Fは土曜日のみの公開となっています。
通常非公開の6F展示室には、加藤泉や杉本博司、草間彌生らの作品が並びます。
UESHIMA MUSEUMがその名前を「ギャラリ−」ではなく「ミュージアム」としたのには、作品を見せるだけではなく、作品や展示を通じて積極的に社会と関わり合っていくという意思が込められているといいます。
植島幹九郎氏
隣接する渋谷教育学園と連携した鑑賞体験の提供などの教育の機会の提供や、若手キュレーターへの機会の提供といった展開も構想しているとのことで、今後の展開にも注目です。
「同時代性」というひとつの軸をもちつつも、アーティストひとりひとりとの出会いや、作品と出会った際の衝撃などの個人の体験から形成されたコレクションからは、公共の美術館のコレクションとはまた違った熱量が感じられます。
階段には、杉本博司の写真作品がフロアごと、年代順に並びます。
その想いを起点に作りあげられた、アーティストごとの展示空間や、フロアごとにテーマを持った展示構成。そして、各作品には詳しい解説がつけられ、写真や撮影の動画も可能。鑑賞者が作品を観て、考えて、楽しめる展示となっていました。
UESHIMA MUSEUMのオープニング展は、2024年12月末まで開催されます。
Exhibition Information
展覧会名:UESHIMA MUSEUM オープニング展
開催期間:2024年6月1日 (土) ― 2024年12月末
開催時間(事前予約制) | 11:00 – 17:00(最終入場16:00)
休館日: 月曜 / 日曜 / 祝日 ※4F・5Fは土曜日のみ公開
会場:UESHIMA MUSEUM (東京都渋谷区渋谷一丁目21番18号 渋谷教育学園 植島タワー)