「広重 ―摺の極―」/あべのハルカス美術館

広重作品のすばらしさを再発見!単館開催の貴重な展覧会です【あべのハルカス美術館】

2024年7月20日

あべのハルカス美術館開館10周年記念「広重 ―摺の極―」

《三代歌川豊国 広重の死絵》安政5年(1858)大判錦絵 版元:魚屋栄吉 彫師:横川竹次郎 ジョルジュ・レスコヴィッチ氏蔵[前後期展示]

歌川広重の初期から晩年までの画業を紹介する展覧会が、あべのハルカス美術館で開催中です。

北斎と比較すると、広重だけの大規模展覧会は開かれてきませんでした。

初摺り、保存状態の良いものだけを厳選し、三大揃物シリーズの代表作や代表的揃物の全作品を含む338点、前後期でほぼ展示替えとなります。

また、展示作品の約80%がレスコヴィッチコレクションです。

広重は、定火消(じょうびけし:江戸城の火災に対応するための組織)の屋敷に生まれ、15歳頃に歌川豊広に入門します。

天保3年(1832)3月に引退するまでは、火消同心と絵師のWワークをこなしていました。

広重が模索した独自の表現

浮世絵師としては恵まれたスタートだった広重。

独自の画風を模索しながら、役者絵、美人画の連作、武者絵、摺物や時事主題などを制作していました。


《五代目松本幸四郎の鉄門喜兵衛、七代目市川団十郎の渡辺綱》文政元年(1818) 間判錦絵 山口屋藤兵衛 ジョルジュ・レスコヴィッチ氏蔵[前期展示]

籠細工の見世物の酒呑童子や鬼にも注目!


《江戸の花 大江山酒呑童子》文政2年(1819) 大判錦絵3枚続 岩戸屋喜三郎 ジョルジュ・レスコヴィッチ氏蔵 [前期展示]
文政7年、江戸両国橋西詰で亀井斎の籠細工興行に取材した作品

広重と言えば・・「東海道五拾三次」

広重は独自のスタイルの風景画を確立し、保永堂版「東海道五拾三次」が大ヒットします。

その名声は確固たるものとなり、上方や江戸の風景画シリーズを制作しました。

隅田川の川開きに打ち上げられる花火が濃い藍の川面に映えますね。


《江戸名所之内 両国花火》天保3~6年(1832~35)頃 横大判錦絵5枚揃のうち 和泉屋市兵衛 個人蔵 [前期展示]
上下に砂子模様を摺り込んでいることから砂子摺「江戸名所」と呼ばれているシリーズ

雪がほとんど降らない蒲原は寂寥感漂う夜の雪景色も。


《東海道五拾三次之内 蒲原 夜之雪》天保4~6年(1833~35)頃 横大判錦絵55枚揃のうち 竹内孫八 ジョルジュ ・レスコヴィッチ氏蔵 [前期展示]

広重の上方三部作、純粋風景画の「近江八景」、人物中心の「浪花名所図会」と名所風俗画ともいえる「京都名所」。


《京都名所之内 四条河原夕涼》天保5~6年(1834~35)頃 横大判錦絵10枚揃 川口屋宇兵衛 ジョルジュ・レスコヴィッチ氏蔵 [前期展示]
今も続く鴨川の納涼床風景

円熟した広重の魅力を知る

渓斎英泉が24図を描いた後を引き受けて、「木曽海道六拾九次」を刊行します。

キャリアを積んだ広重の魅力がますます発揮され、広重名所絵の完成形と言えます。この時期には、重要なシリーズも刊行しています。


《木曽海道六拾九次之内 和田》天保7~8年(1836~37) 横大判錦絵70枚揃のうち 伊勢屋利兵衛 ジョルジュ ・レスコヴィッチ氏蔵 [前期展示]

「本庁名所」は、旅行のスケッチが生かされた作品群です。


《本朝名所 三州鳳来寺行者越》天保 8年(1837)頃 横大判錦絵15枚揃 藤岡屋彦太郎 ジョルジュ・レスコヴィッチ氏蔵 [前期展示]

「諸国名所」は、広重の団扇絵の最初のシリーズです。
箱根の夜の山道を急ぐ一行の心持ちも伝わってきます。


《諸国名所 豆相箱根山夜行之図》天保6~7年(1835~36)頃 廣重画 団扇絵判錦絵 伊場屋仙三郎 個人蔵 [前期展示]

浮世絵の変革期

天保の改革の「贅沢禁止令」やそれに伴う文化統制で美人画や役者絵を描いていた浮世絵師は大打撃を受けましたが、風景画や花鳥画で知られていた広重にはさほど大きな影響はなかったようです。

一方、広重自身は新鮮味が薄れていくのを打破するため、新境地へ踏み出します。

「不二三十六景」は、北斎画「富嶽三十六景」に倣い、画中に富士山を入れた名所絵で、小さいサイズ(北斎の半分のサイズ)に主題だけを描きました。


《不二三十六景 相模七里ヶ浜風波》嘉永4年(1851)頃 横中判錦絵36枚揃のうち 佐野屋喜兵衛 ジョルジュ・レスコヴィッチ氏蔵 [前期展示]


展示風景

「名所江戸百景」は、縦長サイズで俯瞰の構図が多く、極端な近景拡大型構図が多いのが特徴です。

懐かしい江戸情緒あふれる情景を描きだし、高く評価されています。

雪月花三部作、「木曽路」が雪、「金沢」が月、「鳴門」は花(波の花)、広重風景画の一到達点です。


《阿波鳴門之風景》安政4年(1857) 大判錦絵3枚続 岡沢屋(松坂屋)太平次 ジョルジュ・レスコヴィッチ氏蔵 [前期展示]

広重の花鳥画も見られます

広重は、花鳥画の名手でもありました。

さまざまなサイズや形で晩年まで描き続け、短冊版は広重花鳥画の代名詞となっています。


《月に松上の木莵》天保3~6年(1832~35) 中短冊判錦絵 川口屋正蔵(同一の版木に彫られている「雨中の杜鵑」が川口屋正蔵版) ジョルジュ・レスコヴィッチ氏蔵 [前期展示]

こんな「魚づくし」シリーズも。左上には狂歌が書かれています。


《(魚づくし)伊勢海老・芝蝦》天保5~6年(1834~35)頃 横大判錦絵10枚揃のうち ジョルジュ・レスコヴィッチ氏蔵 [前期展示]

秋の七草を描いたうちわは、ミュージアムショップで購入できます。


《月に秋草》天保11年(1840)廣重画「子」「極」(天保11年) 団扇絵判錦絵 伊場屋久兵衛 ジョルジュ・レスコヴィッチ氏蔵 [前期展示]

挿絵や肉筆画などの多彩な活動

狂歌本の挿絵などの絵本版本、制作量が多い張交絵(はりまぜえ)や団扇絵、絵封筒や摺物、絵すごろくに千社札まで、広重は驚くほどに依頼されればなんでも描いていました。人気もあったのでしょう。

広重が描いた千社札は、同好者間で交換するための鑑賞用の札(交換納札)です。


左から:《東海道五十三次 品川》、《東海道五十三次 京都 三条大橋》いずれも 天保12年(1841) 彩色摺千社札(二丁札)58枚揃のうち ジョルジュ・レスコヴィッチ氏蔵[前期展示]

また、広重の肉筆画も見ることができます。

展示されているのは「天童広重」と呼ばれる、出羽天童藩織田家の依頼を受けて制作した掛軸で、嘉永2~4年(1849-51)に100組、200幅以上制作されました。


《京都嵐山の桜、楓図》嘉永2~4年(1849~51)頃 絹本着色2幅 ジョルジュ・レスコヴィッチ氏蔵 [前期展示]

美しい摺作品で広重の画業を通覧する展覧会です。

詩情豊かな風景版画や大胆な構図の名所絵は、旅情を誘うガイドブックでもあったでしょう。


ミュージアムショップもありますよ

Exhibition Information

展覧会名
あべのハルカス美術館開館10周年記念 「広重 ―摺の極―」
開催期間
2024年7月6日~9月1日 終了しました
会場
あべのハルカス美術館
公式サイト
https://www.aham.jp/
注意事項

※会期中、展示替えがあります
前期:7月6日~8月4日、後期:8月6日~9月1日[予定]