塩田千春の作品から他者との「つながり」を考える。圧巻のインスタレーションに注目
2024年10月3日
Nerhol 水平線を捲る/千葉市美術館
いま注目のアーティストデュオ「Nerhol(ネルホル)」の、美術館では初となる大規模個展「Nerhol 水平線を捲る」が、11月4日(月・祝)まで千葉市美術館で開催中です。
Nerholは、グラフィックデザイナーの田中義久と彫刻家の飯田竜太が2007年に結成したアーティストデュオです。
写真と彫刻を融合させた新しい表現方法で、いま国内外で注目を集めています。
企画展 「水平線を捲る」 は、Nerholの重要な作品や未発表作品を、アーティスト独自の視点によって再構成した展覧会。
人物の連続写真を重ねて彫る初期のポートレートや、植物をテーマとした作品、訪れた土地の風景や歴史をモチーフにした作品など、Nerholの活動の軌跡をたどる内容になっています。
建築家の西澤徹夫と協働した展示空間も見どころのひとつ。
展示は8階、7階、1階の3つのフロアに分かれていて、8階から順に展示をたどっていくと、さまざまなシリーズが徐々につながっていくように構成されています。
Nerholは2012年、独創的な「ポートレートシリーズ」を発表し、大きな注目を集めました。
このシリーズでは、人物を数分間にわたって撮影したものから抽出した印刷物を、何十枚も重ね合わせて彫刻のように彫り刻むという手法を用いています。
作品は一見すると1枚のモザイクがかった写真に見えますが、近くでよく見ると立体的な表現になっていることがわかります。
人物の表情の変化や時間の流れを表現するこの独自の手法は、後にさまざまな形で発展し、Nerholの活動の中心になっています。
2024年にメキシコで開催された個展では、メキシコ在住の日本人の子孫をモチーフとした作品を制作しました。
紙を素材として活動しているNerholにとって、紙の原料となる植物は重要なモチーフです。
《multiple-roadside tree》は、伐採された街路樹を細かく切断し、年輪が見える部分を撮影、その写真を重ねて彫刻にした作品。
これにより、Nerholは木の外見だけでなく、木の成長や変化のようすを表現しようとしました。
Nerholの作品は、見る角度や距離によって印象が異なります。ぜひ、さまざまな視点から眺めてみてください。
Nerholは近年、人や植物の「移動」をテーマに表現の幅を広げています。
会場では、帰化植物(きかしょくぶつ、日本に持ち込まれて野生化した外来植物)や珪化木(けいかぼく、長い時間をかけて石化した木)などをモチーフにした作品も展示されています。
訪れた地域の歴史や文化をリサーチし、それを独自の視点で表現した作品も手がけています。
2024年に太宰府天満宮で開催された展覧会では、神事と関わりのある麻(ぬさ)を含んだ和紙をつくり、それを重ねて彫刻したほか、キャンバスのような作品も制作しました。
また最近では、過去の記録映像や写真など多様な素材に目を向け、表現世界の幅を広げています。
2020年にVOCA賞を受賞した《Remove》は、インターネットで公開されている動画を使って制作したもの。
Nerholならではの視点と技法で、時間と空間の関係が表現されています。
美術館1階のさや堂ホールでは、ここでしか見ることができない、千葉市をテーマとした大規模なインスタレーションが展開されています。
Nerholは、市の花である「蓮(オオガハス)」を一部素材として使用した和紙で、ホールの床全体を覆い尽くし、歴史的建造物と現代アートが織りなす幻想的な空間を創り出しました。
Nerholが選んだ千葉市美術館のコレクション42点と、彼らの作品のコラボレーションも見どころのひとつです。
菱川師宣、伊藤若冲などの江戸絵画から現代アートまで、選ばれた作品は時代もジャンルもさまざま。
作品そのものを楽しむだけでなく、なぜ選ばれたのか、どのようにNerholの作品とつながるのか、想像しながら鑑賞できるのも、この展覧会の大きな魅力です。
会場では、スマートフォンを使ったデジタルスタンプラリーも実施中。
QRコードをスキャンしながら作品を巡ると、NerholによるNFT作品がもらえる特典も用意されています。
会期中は、アーティストトークや、Nerholが講師を務めるワークショップなど、展覧会がより楽しめるイベントも用意されています。
事前申込が必要なイベントもありますので、詳細は千葉市美術館ホームページでご確認ください。
Nerholの活動の軌跡をたどりながら、新たな挑戦も感じられる展覧会です。
この機会に、彼らの多彩な表現世界を千葉市美術館で体感してみてはどうでしょうか。