2021年12月10日

東京都美術館で、戦前・戦後に公募展を舞台に活躍した6名の女性作家を紹介

上野アーティストプロジェクト 2021 「Everyday Life : わたしは生まれなおしている」/東京都美術館

上野恩賜公園内やその周辺に、美術館・博物館、動物園が集まる文化的な地域として親しまれている東京・上野。2020年春にJR上野駅公園口の移転工事が完了したことで、ますます利便性が良くなり、賑わいを見せています。

スフマート Sfumart 取材レポート 上野アーティストプロジェクト 2021 「Everyday Life : わたしは生まれなおしている」 東京都美術館
(左から)川村紗耶佳《Bon voyage Ⅴ》2019年/川村紗耶佳《rain sound Ⅳ》2020年/川村紗耶佳《rain sound Ⅱ》2020年 いずれも作家蔵

そんな上野エリアに建つ東京都美術館は、日本初の公立美術館として知られています。同館では現在、2017年から始まった展覧会シリーズ「上野アーティストプロジェクト」が開催中です。

毎年異なるテーマを設けて、公募展を舞台に活躍する作家たちを紹介する本展。その第5弾となる今回は、「Everyday Life」をテーマに、戦前から現代にいたる6名の女性作家の作品を取り上げます。

※展覧会詳細はこちら

上野アーティストプロジェクトとは

1926年5月、東京都美術館は日本初の公立美術館として創設され、美術団体などの発表の場として親しまれてきました。開館当時の名称は「東京府美術館(以下、府美術館))」。その後、1943年の東京都制施行により現在の「東京都美術館」と改称します。

当時の上野公園では同館が創立するよりも前に、9月に院展(日本美術院)と二科展(二科会)が、10月には文展(文部省美術展覧会)がすでに開催されていました。やがて東京都美術館(当時は府美術館)が、これらの会場となります。

さまざまな芸術家の発表と成長の場として大きな役割を果たしてきた、「公募展のふるさと」とも呼ばれる東京都美術館。

その歴史の継承と未来への発展のために、2017年より毎年異なるテーマで、公募展を舞台に活躍する作家を紹介する展覧会シリーズ「上野アーティストプロジェクト」の開催を始めました。

2021年で5回目となる本展では、戦前から現代にいたる6名の女性作家を紹介。戦前に活躍した作家までに視野を広げることで、日本の公募展の歴史の一端に迫ります。

美術団体における女性作家の活動を振り返る

女性が画家として認められる土台を作った、桂ゆき

東京・千駄木に生まれ育った画家、桂ゆき(1913-1991)。子どものころから絵を描くことに関心をもち、油絵を学ぶことを望むものの、両親は認めてくれませんでした。

代わりに、高等女学校に入学したころから日本画家、池上秀畝(しゅうほ)の画塾に通います。しかし、当時は女性が油絵を描き、自己を表現することは「はしたない」または「男のまね」だなどと言われる時代でした。

スフマート Sfumart 取材レポート 上野アーティストプロジェクト 2021 「Everyday Life : わたしは生まれなおしている」 東京都美術館
(左から)桂ゆき《ひまわりの咲く午後》1948年 茨城県近代美術館蔵/桂ゆき《くらし》1950年 栃木県立美術館蔵

そんな女性画家にとって風当たりの強い時代を生きた桂。

戦前から二科会を舞台に活躍し、戦後は女流画家協会創立にも参加するなど、女性が画家として認められることが難しい時代から長きにわたり、画壇において常に注目を集める存在であり続けました。

彼女の作品には、布や紙、落ち葉などの植物といった、身近にある「もの」が使われています。

私たちの「肌になじむ」身近なもので表現された温かみのある桂の作品を観ると、息苦しい現代を生きる人びとに希望を与えてくれる、そんな気持ちになります。

戦後の女性写真家の草分けの一人、常盤とよ子

生涯を横浜で暮らし、戦後の女性写真家の草分けの一人として活躍した写真家、常盤とよ子(1928-2019)。

1956年の個展で発表された、横浜・真金町に当時存在していた赤線地帯に潜入した一連の作品で注目を集めました。

赤線地帯とは、GHQによる公娼廃止指令(1946)から、売春防止法の施行(1958)までのあいだに、半ば公認で売春が行われていた地域のこと。常盤は、ここで働く女性たちをテーマとした作品を発表しています。

スフマート Sfumart 取材レポート 上野アーティストプロジェクト 2021 「Everyday Life : わたしは生まれなおしている」 東京都美術館
常盤とよ子 展示風景より

社会問題に強く心を寄せた常盤は、こうした女性のほかに戦争孤児などを被写体に撮影を続け、後進の指導にも力を注ぎました。

75歳を過ぎてから初めて絵筆を持った、丸木スマ

丸木スマ(1875-1956)は、広島の農村で生まれ育ちました。畑仕事や家族の世話と忙しい日々を過ごしていた丸木。画家である長男夫婦(丸木位里・赤松俊子)の勧めにより、70歳を過ぎたころ初めて絵筆をとります。

スフマート Sfumart 取材レポート 上野アーティストプロジェクト 2021 「Everyday Life : わたしは生まれなおしている」 東京都美術館
(左)丸木スマ《簪》1955年 原爆の図丸木美術館蔵

自身が暮らした山村の風景や身の回りの動植物を、墨や水彩、クレヨンなどで自由に表現した作品は、当時の画壇に驚きをもって迎え入れられました。

本展では、1955年の再興第40回院展に出品し入選した作品《簪(かんざし)》を、東京都美術館で再展示します。

戦前から戦後にかけて活躍してきた3名の作家から、同時代の美術団体における女性作家の活躍を振り返ります。

美術館での初展示作品も!

現在も美術団体で活躍中の川村紗耶佳(1989-)による木版画や、貴田洋子(1949-)による津軽こぎん刺し作品、また小曽川瑠那(1978-)のガラス作品など現役作家3名の作品も展示します。

これらの作品のなかには新作や本邦初公開の作品も含まれており、いずれもまとまった点数を美術館で紹介する初めての機会とのことです。

スフマート Sfumart 取材レポート 上野アーティストプロジェクト 2021 「Everyday Life : わたしは生まれなおしている」 東京都美術館
小曽川瑠那 展示風景より

編集部イチオシの作品は「津軽こぎん刺し」の作品です。本作を手がけた貴田洋子は、青森県・大鰐(おおわに)町に生まれました。

貴田は10代のころ、近世以降の津軽地方で、野良着の補強と防寒のために発展・継承された津軽ごぎん刺しと出会い、教本を片手に独学で身につけたといいます。

スフマート Sfumart 取材レポート 上野アーティストプロジェクト 2021 「Everyday Life : わたしは生まれなおしている」 東京都美術館
(左から)貴田洋子《森に生きる》2005年/貴田洋子《色取りの舞》2009年/貴田洋子《ふるさと・あのころを舞う》2018年 いずれも作家蔵

彼女が本格的にこぎん刺しにのめり込むようになったのは、1985年以降で、2000年前後からは公募展に挑戦し始めます。

《暮雪の飛翔》は第46回日本現代工芸美術展に、《色取りの舞》が改組第41回日展にそれぞれ初入選を果たします。これらの公募展で初めて「津軽こぎん刺し」というジャンルで入選を果たした貴田。以降、現在まで毎年、両展への出品を継続しています。

現在も活躍中の3名は、会場内にて作家紹介の映像が上映されています。展示とともに、こちらの映像も鑑賞してみてはいかがでしょうか。

スフマート Sfumart 取材レポート 上野アーティストプロジェクト 2021 「Everyday Life : わたしは生まれなおしている」 東京都美術館

こちらの作家紹介の映像は、展覧会公式サイトでもオンライン配信されています。おうちでゆっくりと観ることもできますよ。

展覧会公式サイトはこちら

同時開催:〈上野〉の記録と記憶

ギャラリーBでは、観覧無料の展覧会「東京都コレクションでたどる〈上野〉の記録と記憶」が開催中です。東京都が所蔵する美術コレクションの中から、〈上野〉に関連する約60点の作品・資料を展示します。

スフマート Sfumart 取材レポート 東京都コレクションでたどる〈上野〉の記録と記憶 東京都美術館
東京都美術館アーカイブス資料 展示風景より

編集部が注目したのは、東京都美術館アーカイブズ資料が並ぶ展示ケースです。
同館がまだ「東京府美術館」だったころの貴重な資料が展示されています。

スフマート Sfumart 取材レポート 東京都コレクションでたどる〈上野〉の記録と記憶 東京都美術館

左に展示されている写真は、昭和50年(1975)に建てられた現在の赤レンガの東京都美術館と、老朽化により取り壊しが決まっていた旧館を空から撮影したものです。
新館の後ろにある旧館が存在していたのは、わずか数か月だったとのこと。新旧の東京都美術館が並んで建つようすをとらえた、貴重な写真資料です。

本展で、多くの表現者たちをひきつけた〈上野〉の魅力を再発見するとともに、かつてここであった出来事や存在した人びとのことについて、思いをはせてみては?

 

ギャラリーA・Cと、ギャラリーBで開催中の展覧会についてご紹介しました。両展は、2022年1月6日まで開催中です。

なお、上野アーティストプロジェクト 2021 「Everyday Life : わたしは生まれなおしている」は、12月12日まで開催されている特別展「ゴッホ展──響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」の半券を提示すると無料で入場可能!

ゴッホ展の帰りに、本展を鑑賞するのもおすすめです。