没後80年 小原古邨 ―鳥たちの楽園/太田記念美術館

花鳥画の絵師、小原古邨の展覧会。原宿で開催中【太田記念美術館】

2025年4月9日
花鳥画の絵師、小原古邨の展覧会。原宿で開催中【太田記念美術館】

小原古邨「酸実に緋連雀」個人蔵

明治末から昭和前期にかけて活躍した、花鳥画の絵師・小原古邨(おはらこそん、1877-1945)の展覧会が、太田記念美術館で開催中です。

小原古邨は、しばらく日本ではその存在が忘れられていた絵師です。

しかし、2018年に茅ヶ崎市美術館で「小原古邨展―花と鳥のエデン―」(2018年9月9日-11月4日)が開催されると、多くのメディアに取り上げられ、注目されるようになりました。

茅ヶ崎市美術館と同時期に、太田記念美術館でも「小原古邨展」(2019年2月1日-3月24日)を開催。
多くの美術ファンは、この愛らしい「踊る狐」を覚えている方も多いのではないでしょうか。

(左)小原古邨「踊る狐」(試摺)個人蔵/(右)小原古邨「月に兎」個人蔵

小原古邨没後80年を記念し、太田記念美術館では6年ぶりの開催となる本展。
前回の小原古邨展に出品していない作品もあります。

前回観た人はもちろん、初めて小原古邨の作品を観る人も楽しめる本展の見どころをご紹介します。

※写真はすべて、前期展示(4月3日~4月29日)

小原古邨の花鳥画約130点を展示

展示風景

長く、歴史に埋もれていた小原古邨。6、7年前までは、浮世絵専門家でも知らない人が多かったといいます。

専門書にも、小原古邨の活躍については「日露戦争の錦絵を描いた」としか書かれていなかったのだとか。

本展で紹介されている花鳥画については、取り上げられていませんでした。

小原古邨「木蓮に九官鳥」個人蔵

小原古邨は、日本画家の鈴木華邨(すずきかそん)に日本画を学び、のちに木版画を手がけました。

日本画を学んでいた影響もあるのでしょうか。
私たちが連想する色がパキッとした江戸時代の浮世絵とは異なり、グレーを基調とした落ち着いた色合いが特徴です。

本展では、明治末に制作した作品を中心に展示。
前後期合わせて約130点の作品を紹介します。

水墨画みたい
いえいえ「木版画」です

(左)小原古邨「月に猿」個人蔵/(右)小原古邨「猿と蜂」個人蔵

小原古邨は、鳥や花、獣たちを、江戸時代から受け継がれた伝統的な浮世絵版画の技法によって描きました。

鳥や獣たちへの温かなまなざしに満ちた古邨の花鳥画は、木版画とは思えないほどの淡く繊細な色彩です。

小原古邨「桜に烏」個人蔵

現代人の感覚だと、あまり縁起の良くない鳥と思われているカラス。
実は、小原古邨の作品の中には多く登場します。

本作は、白い桜の花びらとカラスの黒、そして背景のぼんやりとした薄い灰色のコントラストが美しい作品です。

一見すると水墨画のようですが、ちゃんと木版画ですよ。

墨をぼかして淡い色彩を演出しています。

この優れた小原古邨の技術にも注目してみてくださいね。

人気作品「踊る狐」は前後期で展示

小原古邨「踊る狐」(試摺)個人蔵

小原古邨と聞くと、「踊る狐」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。前期では、試摺を展示しています。

試摺では、背中や腹の部分に矢印が引っ張られ、修正すべき箇所が指摘されています。

小原古邨「踊る狐」(試摺)個人蔵

修正された本摺は、後期に展示されます。
この試摺よりも、きつねの毛並みが良くなっているかも?

前期だけはなく、後期も足を運んでみてください。

鳥好きな人にも鑑賞してほしい展覧会

小原古邨の作品は、愛らしい鳥たちを描いたものが多いです。

小原古邨「雪松に鷹と温め鳥」個人蔵

鷹の腹部からぴょっこり雀の姿が見えますね。
こちらは、「温め鳥(ぬくめどり)*」を描いた作品です。

*温め鳥:冬の寒い夜、鷹が小鳥を捕まえて自分の腹部で温めること、またはその小鳥のこと。

翌朝、鷹は小鳥を放すのですが、恩を返すために、その日は小鳥が飛び去った方向には行かないのだとか。

鷹は一晩、暖かい思いをしたことでしょう。しかし、小鳥にとっては「食べられる」と肝の冷える思いをしたことでしょうね。

小原古邨「木菟と雀」個人蔵

また、一見ほっこりする場面ですが、鳥の習性を知る人だと違って見える作品も。

ミミズクの左下に、三羽の雀が描かれた本作。
この雀は自分たちの縄張りに入ってきたミミズクを警戒し、鳴いているといいます。

小原古邨は多くの種類の鳥を描いています。
美術ファンだけではなく、鳥が好きな人も楽しめる展覧会ですよ。

小原古邨「田鳧」個人蔵

江戸・明治の花鳥画もあわせて紹介

展示風景

江戸時代や明治時代、さまざまな絵師たちによって個性あふれる花鳥画が制作されました。

本展では、歌川広重や河鍋暁斎、また、近年注目を集める渡辺省亭(わたなべせいてい)の花鳥画も紹介します。

 

小原古邨没後80年を記念する本展。

伊藤若冲を代表するように、花鳥画というジャンルは近年注目を集めています。

日本の歴史の中で、花や鳥はよく描かれていた重要な画題です。

ぜひこの機会に、太田記念美術館で花鳥画の魅力に触れてみてはいかがでしょうか。

Exhibition Information

展覧会名
没後80年 小原古邨 ―鳥たちの楽園
開催期間
2025年4月3日~5月25日
会場
太田記念美術館
公式サイト
https://www.ukiyoe-ota-muse.jp/
注意事項

※前後期で全点展示替え
前期:4月3日~4月29日
後期:5月3日~5月25日