妃たちのオーダーメイド セーヴル フランス宮廷の磁器/渋谷区立松濤美術館

フランス宮廷を彩った華麗なセーヴル磁器の世界【渋谷区立松濤美術館】

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2025年4月22日
フランス宮廷を彩った華麗なセーヴル磁器の世界【渋谷区立松濤美術館】

(左から)《金地色絵婦人図カップ&ソーサー》 1815年 Masa’s Collection蔵、 《瑠璃地色絵金プラチナ彩婦人図カップ&ソーサー》1809年 個人蔵

渋谷区立松濤美術館にて、「妃たちのオーダーメイド セーヴル フランス宮廷の磁器 マダム・ポンパドゥール、マリー=アントワネット、マリー=ルイーズの愛した名窯」が、2025年6月8日まで開催されています。

セーヴル磁器は、18世紀のフランスで生まれた、西洋磁器の最高峰とも言える存在です。
華やかな色彩や流行を反映したデザイン、絵画のような表現は、日本人がイメージする西洋磁器そのものといえるでしょう。

この展覧会では、ルイ15世からナポレオンの時代を中心に、国内の貴重なコレクションによってその魅力を紹介します。

(左から)《ビスク彫像「アルプスの羊飼い」》 原型:1766年 実年代:1770年頃 個人蔵、《ビスク彫像「クラバットの飾り結び」》 原型:1766年 実年代:1770年頃 個人蔵

ポンパドゥール侯爵夫人が愛したセーブルの美

セーヴル磁器の歴史は、1740年頃にパリ東部のヴァンセンヌ窯から始まります。

のちにポンパドゥール侯爵夫人の居城近くのセーヴルへ移転し、「セーヴル窯」と改称。
1759年には「王立磁器製作所」として運営されることになり、ルイ15世の全面的な支援のもと、大きく発展しました。

初期のセーヴル磁器は、華やかなロココ美術を反映し、花や鳥、天使、子ども、恋人たちなどが絵付けのモチーフとして好まれました。

(左から)《瑠璃地紅彩金彩天使図蓋付ミルク入》 1754年 個人蔵、《瑠璃地紅彩金彩天使図皿》 1754年 個人蔵、《瑠璃地紅彩金彩天使図双耳蓋付ミルクカップ&ソーサー》カップ:1755年 ソーサー:1758年 個人蔵

ロココ美術を代表する画家フランソワ・ブーシェの絵をもとにした作品も多いです。

こちらの深い瑠璃色の「ブルー・ラピ」と白磁、金彩の縁取り、ピンクの絵付けの対比が美しい《瑠璃地紅彩金彩天使図皿》もそのひとつです。

「セーヴル フランス宮廷の磁器」渋谷区立松濤美術館

「王の青」と呼ばれた「ブルー・セレスト(天青色)」や、「ポンパドゥール・ピンク」と称された淡いピンク色など、セーヴル磁器ならではの美しい色もこの時代の特徴です。

「セーヴル フランス宮廷の磁器」渋谷区立松濤美術館

装飾品として作られたセーヴル磁器もあります。

さまざまな種類の花を磁器で精巧に作り上げた《色絵花》。
薄い花びら一枚一枚まで丁寧に形作られ、リアルに再現されています。

《色絵花》1750年代-1760年代 個人蔵

本展を担当した大平奈緒子学芸員は、「250年以上前のものがこれだけきれいに残っているのも、今回の見どころのひとつ」と語っています。

《緑地色絵金彩人物図花瓶一対》 1761年 個人蔵

チュー リップの流行発信地にちなんで「オランダ花瓶」と呼ばれる植木鉢は、上下に分かれ、下部から水を補充できる独特の構造になっています。

ヴェルサイユ宮殿を彩った華やかな磁器

ルイ16世は、セーヴル磁器をこよなく愛しました。
ヴェルサイユ宮殿をはじめとする王宮をセーヴル磁器で飾り、王妃マリー=アントワネットへの贈り物や、外交・政治の道具として活用しました。

「セーヴル フランス宮廷の磁器」渋谷区立松濤美術館

真珠や翡翠、ルビーを模した豪華な装飾が特徴的な本作は、ルイ16世が外交的な贈り物にのみ使うように指示したという、特別な品です。

《色絵金彩婦人図花瓶》1774-75年 個人蔵

ルイ16世の妹の姿が描かれた花瓶は、肖像画としても見事な逸品です。

《色絵金彩花文皿》1781年 個人蔵

マリー=アントワネットが主役の時代には、彼女の好みを反映したデザインの作品が登場しました。
これは、彼女が初めて自ら注文した食器セットの中の1枚です。

(皿)《臙脂地色絵金彩真珠花文台皿》1784年 個人蔵、(カップ)《臙脂地色絵金彩真珠花文カスタードカップ》1784年 個人蔵

この皿とカップは、「マリー=アントワネットの豪華な縁飾り」と称される、同じデザインで揃えられたサーヴィス(食器セット)の一部。

作品を通して、当時の華やかな宮廷文化に想いをはせることができそうです。

ナポレオン帝政時代の新たな展開

フランス革命後、セーヴル窯は王侯貴族のための細々とした器種ではなく、公的な行事で用いられる大型の壺などを多く手がけるようになりました。

また、ナポレオン皇帝は、セーヴル磁器を外交や贈答に積極的に利用。
皇后ジョゼフィーヌやマリー=ルイーズも、セーヴル磁器を愛用しました。

(左から) 《瑠璃地金彩飾り壺3点セット》 18世紀末-19世紀初頭 Masa’s Collection蔵、《淡黄地色絵金彩花文動物図スープカップ》1804年 個人蔵、《金地色絵昆虫文台皿付砂糖壺》1807年 Masa’s Collection蔵

中央はナポレオンの戴冠を記念して作られたもの。右はナポレオン1世が使用したとされる、エジプト的なデザインの砂糖壺です。

(左から) 《淡褐地色絵金彩「セロリの葉をした薔薇図」皿》 1821年 個人蔵、《瑠璃地色絵金彩花文皿》1828年 個人蔵

左は、マリー=アントワネットとジョゼフィーヌが支援した花の画家、ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテの『薔薇図譜』をもとにした皿。

描かれているのは、ジョゼフィーヌのバラ園にあった、珍しい品種のバラです。

《色絵陶板「モナ・リザ」》1810年 個人蔵

《色絵陶板 「モナ・リザ」》は、レオナルド・ダ・ヴィンチの名画を磁器に描いた作品です。
写真のない時代、色あせない「磁器画」はとても貴重なものでした。

《青地白花蘭図大壺一対》 1868年 個人蔵

《青地白花蘭図大壺一対》は、フランス共和国大統領から、駐ドレスデン英国大使への贈答品。
新しい技法を用いて、花々が優美な文様に仕立て上げられています。

両側の台座は製作当時のもので、どのように飾っていたのかうかがい知ることができます。

カップ&ソーサーでたどるセーヴルの歴史

町田市立博物館(*)が所蔵する「河原勝洋コレクション」は、ヴァンセンヌ窯とセーヴル窯のカップ&ソーサーに特化したコレクションです。

今回はその中から選りすぐりの30件を紹介。
西洋独自の飲食器文化の流れをたどることができます。

*2029年春頃に「(仮称)町田市立国際工芸美術館」として開館予定。

「セーヴル フランス宮廷の磁器」渋谷区立松濤美術館

フランスの歴史を彩った女性たちが愛したセーヴル磁器の数々は、私たちを優雅で華やかなフランス宮廷文化の世界へと誘います。

ふだん目にする機会の少ない貴重なコレクションを通して、その奥深い魅力に触れてみてはいかがでしょうか。