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クロード・モネの世界にひたる。日本初公開作品を含む〈睡蓮〉などを堪能【国立西洋美術館】
2024年11月1日
「10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。
作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。
今回は、ベル・エポック期のパリで流行した美術様式「アール・ヌーヴォー」について詳しくご紹介。
「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。
アール・ヌーヴォーとは、19世紀末から20世紀初頭にかけてヨーロッパ全土に広まった装飾様式です。建築や絵画、工芸、グラフィックデザインまで、幅広いジャンルで流行しました。広く知られているのは「アール・ヌーヴォー」という呼び名ですが、国によってはモダンスタイル(アメリカ)、ユーゲントシュティール(ドイツ)とも呼ばれています。
(左)アルフォンス・ミュシャ《モナコ=モンテカルロ》1897年
(中央)ルネ・ラリック《電気式常夜灯 パヒューム・ランプ》
(右)アントニ・ガウディ《サグラダ・ファミリア》
花や草木などの有機的なモチーフや曲線を組み合わせて生み出す装飾性と、鉄やガラスといった新素材の利用が特徴とするアールヌーヴォー。特にデザインの分野では、ポスターが流行してアルフォンス・ミュシャやアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックなどの画家が活躍しました。
家具調度品などの工芸の分野では、エミール・ガレやルネ・ラリックがガラス工芸などによって名を馳せ、また建築の分野ではサグラダ・ファミリアで有名なアントニ・ガウディ、ベルギーの建築家であるヴィクトール・オルタが同じくアールヌーヴォーの影響を受けている作家として知られています。
ヨーロッパ全土で流行した美術様式であるアール・ヌーヴォーがもっとも栄えたのは、芸術の都・パリでした。
19世紀末から20世紀初頭にかけてのパリは、かつてにほどの繁栄を迎えており、この時期のパリは「ベル・エポック(美しい時代)」と呼ばれています。
1860年以来の都市改造により、パリは放射線状に大通りが広がる明るくて開放的な街に変化しました。パリを象徴するエッフェル塔は1889年、第4回パリ万国博覧会の開催を機に建造されました。
当時の人びとは、新素材である鉄を使った塔が美しいとは思わなかったそうですが、新しいパリの象徴としてエッフェル塔を受け入れたといいます。
パリ地下鉄入り口(ポルト・ドーフィーヌ駅)
さらに、1900年の第5回パリ万国博覧会の開催されると、パリ市内に地下鉄が開通します。この入口を飾ったのが、建築家エクトル・ギマールの鉄のオブジェです。曲線を多用したこのデザインは、アール・ヌーヴォー建築の代表作とされています。
ポルト・ドーフィーヌ駅は、パリ市民の憩いの場であるブーローニュの森の近くにあります。当時は着飾った女性たちが、このブーローニュの森で余暇を過ごすために訪れていたといいます。
1880年、当時オーストリア帝国支配下の現チェコ共和国に生まれたアルフォンス・ミュシャ。父がチェコの裁判所に勤めていたため、ミュシャは裁判所の書記として働きながらデッサンに励みます。
その後、プラハの美術アカデミーに受験をしますが、失敗。支援者を得てドイツのミュンヘン美術学校へ留学し、卒業後はベル・エポック期のパリに向かいます。
パリに出た当時は無銘画家であったミュシャ。1894年に舞台女優サラ・ベルナールと出会いその人生は一変します。
アルフォンス・ミュシャ《ジスモンダ》1894年
ミュシャがポスター画家として華々しいデビューを飾った、サラ・ベルナールの舞台宣伝用のポスターである《ジスモンダ》。この舞台『ジスモンダ』は、劇作家ヴィクトリアン・サルドゥーによるギリシャが舞台のメロドラマです。サラ自らが製作・監督・出演を担い、1894年に初演されました。
サラが演じるジスモンダがシュロの枝を持ち夢を見るような横顔を見せ、まるで女神のような美しいサラの姿を描いたミュシャ。完成したポスターを見たサラは大喜びしたといいます。
※アルフォンス・ミュシャについてもっと知りたい方はこちら
ジュエリーやガラス工芸などさまざまなジャンルの作品を手掛けたルネ・ラリック。彼は1860年、フランス・シャンパーニュ地方の小さな村に生まれました。
その後、家族とともにパリに引っ越します。1876年、ラリックが16歳の時に父が亡くなり、生活のために宝飾職人に弟子入りします。
1900年に開催された第5回パリ万国博覧会に作品を出品すると、ラリックのざん新なジュエリーはたちまち評判となり、連日展示ブースは人でごった返したといいます。
ルネ・ラリック コサージュ「トンボの精」
「トンボの精」は、ラリックの最高傑作と評されている作品です。幼少期、豊かな自然の中で育ったラリックは植物や昆虫、動物といった有機的なモチーフの作品を数多く制作しています。
このトンボは鳥のようなかぎ爪を持ち、大きく開かれた口からは女性の上半身が飛び出ています。この女性の肩からは腕の代わりにトンボの羽が生え、頭には左右に2匹の甲虫が飾られたメルメットのようなものをつけています。
昆虫と女性が一体化したデザインは美しいと思う反面不気味でもあり、このような対照的な要素の組み合わせは、アール・ヌーヴォーの特徴を表しています。
ラリックもミュシャ同様、サラ・ベルナールにその才能を見出された人物です。彼はサラが舞台で使う小道具や、彼女自身が身につける装飾品などを制作しました。
スペインのタラゴナ・レウスという街に生まれたガウディは、世界を代表する建築家のひとりです。日本では「サグラダ・ファミリアを設計した建築家」として広く知られています。
スペインのバルセロナに建つサグラダ・ファミリアは、カトリック教会です。1882年に着工し、その翌年からガウディが設計を引き受け、なんと2022年現在も建設中のガウディ未完の作品として知られています。
バルセロナとその近郊にあるほかのガウディの作品とともに、2005年「アントニ=ガウディの作品群」として世界遺産(文化遺産)に登録されました。
三菱一号館美術館は、19世紀後半から20世紀前半の近代美術を主題とする企画展を年3回開催しています。
特徴的な赤れんがの建物は、三菱が1894年に建設した「三菱一号館」(ジョサイア・コンドル設計)を復元したもの。
同館のコレクションも、建物と同時代の19世紀末西洋美術を中心に、ロートレックやルドン、ヴァロットン作品などを収蔵しています。
三菱一号館美術館とあわせて注目してほしいのが、東京駅です。
2012年に復元工事を終えた東京駅丸の内駅舎は、日本の近代建築の父である建築家・辰野金吾(1854-1919)が設計しました。国の重要文化財にも指定されています。
普段何気なく利用している東京駅の外観や内観の至るところに、アール・ヌーヴォー様式が取り入れられています。
東京駅に降りる機会があったら、天井や床、レンガ造りの外観などに注目してみてくださいね。曲線の美しいデザインがちりばめられていますよ。
2012年に復元されたドーム内部
関西方面では、約500点のアルフォンス・ミュシャのコレクションを持つ、堺 アルフォンス・ミュシャ館がおすすめ! フランスやアメリカ、 チェコで活躍したミュシャの初期から晩年にいたる多彩な創作活動を、 あらゆる角度から紹介する展覧会を開催しています。
国内にはアール・ヌーヴォーの影響を受けた建築や、その美術品を所蔵するミュージアムがたくさんあります。気になる方はぜひ、調べてみてくださいね。
19世紀末から20世紀初頭にかけて、流行した美術様式「アール・ヌーヴォー」について詳しく紹介しました。
ベル・エポック期のパリで特に盛り上がったアール・ヌーヴォーですが、1914年に勃発した第一次世界大戦を境に様式化が進みます。
コストの高いアール・ヌーヴォーのデザインは、流線型で直進的であり安価に製造できるモダニズム的なデザインへと変化していきました。この様式は「アール・デコ」と呼ばれています。
さて次回は、オーストリア、ウィーン分離派を代表する画家「グスタフ・クリムト」について、詳しくご紹介します。お楽しみに!
【参考書籍】
・早坂優子『巨匠に教わる 絵画の見かた』株式会社視覚デザイン研究所 1996年
・早坂優子『101人の画家 生きてることが101倍楽しくなる』株式会社視覚デザイン研究所 2009年
・岡部昌幸『西洋絵画のみかた』成美堂出版 2020年
・池上英洋『マンガでわかる「西洋絵画」の見かた 美術展がもっと愉しくなる!』誠文堂新光社 2016年
・千足伸行『ミュシャ――パリに咲いたスラヴの華』小学館 2013年