
国宝「風神雷神図屏風」も。日本美術の名品が京都に集結【京都国立博物館】
2025年5月12日
戦後日本画壇の風雲児 日本画家 横山操展/佐川美術館
左:《川》1956年 福井県立美術館蔵 右:《網》1956年 福井県立美術館蔵
これが日本画?力強い線と大胆な構図。いわゆる日本画のイメージとは明らかに異質な世界観に驚かされます。
ダイナミックな画風で戦後の日本画界に新風を巻き起こした横山操(よこやま みさお)の、滋賀県では初となる回顧展が佐川美術館で開催されています。
美術館外観
佐川美術館は、佐川急便株式会社の創業40周年記念事業の一環として1998年に開館した美術館。
琵琶湖にほど近く、リゾート感のある眺めの良い場所にあります。広大な水盤は琵琶湖を思わせ、水面に浮かぶように3棟の建物を配した美しい美術館です。
会場入口
「日本画壇の風雲児」と呼ばれる横山操。彼の出発点は洋画でした。1934年、14歳で故郷新潟を離れ上京し洋画家を志します。
洋画家の石川雅山が経営するデザイン会社に住み込み、ポスターなどの仕事を手伝いながら洋画を学びはじめます。
戦前作品展示風景
洋画公募展で入選も果たしますが、師の勧めで日本画に転向。川端画学校日本画部で仕事と両立しながら日本画を制作しました。
1940年には、日本画の巨匠・川端龍子が主宰する青龍社の第12回青龍展に初入選。
本展では、青龍展入選作品や戦前にデザイン会社で手がけたポスターなど貴重な作品を見ることができます。
青龍社時代の作品展示風景
画家としての道を歩み始めた横山でしたが、時代は戦争へと突き進んでいきます。
横山も1940年12月に兵役召集され、終戦までの5年間を中国で転戦。終戦とともにソ連軍の捕虜となり5年間シベリアに抑留、炭鉱労働を余儀なくされます。10年もの間、画業から離れることになってしまいました。
横山は、復員するとその空白を埋めるかのように精力的に制作し、抑留生活を送ったシベリアの炭鉱の風景を描いた『カラガンダの印象』で青龍社へ復帰します。
左:《隧道》1960年 福井県立美術館蔵
それまで小さな空間で絵を観賞する「床の間芸術」とされていた日本画に対し、川端龍子が大画面の「会場芸術」を提唱して旗揚げした青龍社。日本画の常識をくつがえす異色の存在となりましたが、中でも横山の作品は大胆な構図と筆致で異彩を放ちました。
しかしグループ内でのさまざまな横やりに悩み、1962年、会のメンバーから『青龍展に出品する作品が師である川端龍子の作品より大きいのは問題』だと縮小を求められたのを機に、横山は青龍社を脱退します。
師を尊敬しながらも脱退の道を選ばざるを得なかったショックは大きかったようです。
中央:《ウォール街》1962年 東京国立近代美術館蔵
「ウォール街」は青龍社脱退の年の作品。高層ビル群が建ち並ぶコンクリートジャングル。
活気あふれる大都会・ニューヨークの中心で横山が描いたのは、都会の賑わいではなく、孤独や寂寥感でした。
ビルの間に覗く一筋の青空は、救いの現れなのでしょうか。
中央:《赤富士》1963年頃 雪梁舎美術館
無所属となった横山を一躍有名にしたのは「赤富士」でした。神々しい赤富士は爆発的な人気を呼び、次々に注文が入ります。
当時は高度成長期。横山操の赤富士を飾ると会社が発展する!という噂まで飛び交って、人気に拍車がかかったといいます。
展示風景 「中央公論」表紙絵 新潟県立近代美術館・万代美術館蔵
雑誌の表紙絵も手がけています。色紙大に描かれた作品は、大画面の大胆さとは異なってデザイン性が感じられます。
「瀟湘八景」展示風景 三重県立美術館蔵
「赤富士」や雑誌表紙など人気作品を手がける一方で、故郷や従軍した中国の風景に思いを馳せるようになります。
「瀟湘八景」は、中国の山水画の伝統的な画題。戦時中、中国で瀟湘八景の舞台・洞庭湖の周囲で戦った横山は、大画面の水墨画でその情景を表現しました。
水墨画というと「悟りの境地」を表現したもの。しかし、横山の水墨はまるで暴れているかのように荒々しい。近寄って観ると墨が光っています。墨に膠を多く入れて光らせた独特の表現だそう。一点一点異なる表現で水墨の可能性を示しています。
中央:《ふるさと》1965年 東京国立近代美術館蔵 右:《彌彦山》1967年 新潟日報社蔵
横山は故郷・越後の風景にも思いを馳せました。うねる川面と茜色に染まる空が印象的な作品です。
しかし1971年、横山は脳卒中で右半身不随になってしまいます。動かなくなってしまった右手。それでも横山は絵を描きたい一心でリハビリを続けて左手に絵筆を持ち、故郷や身近な風景を描き続けます。
しかしその2年後の1973年、横山は制作途中に53歳の生涯を終えました。
展示風景
画家を目指して14歳で上京。5年間の兵役、その後捕虜となりさらに5年間のシベリア抑留生活。復員後は失われた10年を取り戻すかのように描き続け、半身不随になっても筆を執り続けた横山の、激動の人生を凝縮した展覧会です。
本展は完全予約制です。Web予約ページから日時を予約してゆったりと観賞できます。
平山郁夫館展示風景
企画展の鑑賞後はぜひ常設館にも足を運びましょう。
日本画の巨匠・平山郁夫や彫刻家・佐藤忠良の珠玉のコレクションが観賞できます。
さらに、約450年の伝統を誇る「楽茶碗」で知られる樂吉左衞門館は必見!宇宙的建築空間でスポットライトに照らされる作品は、茶道に親しんでいない人でも感動すること請け合いですよ。