
ルネサンス美術/10分でわかるアート
2021年11月2日
ヒロシマ🍅トマト 司修展/ちひろ美術館・東京
ちひろ美術館・東京では現在、画家・小説家と多方面で活躍する司修(つかさ おさむ、1936-)の展覧会が開催中です。
展覧会タイトルは「ヒロシマ🍅トマト」。
今回の展覧会の開催にあたり、司が考えたタイトルとロゴです。
「ヒロシマ🍅トマト」というタイトルには、「子どもでもわかるようなことばで、展覧会に興味を持ってもらえたら」という、司の願いが込められています。
広島と長崎に原爆が落とされてから80年を迎える節目の年である2025年。戦争体験者の方が少なくなる中、その記憶は徐々に薄れつつあります。
本展では絵本『まちんと』を核として、平和の尊さを考えていきます。
司修は1936年、群馬県前橋市に生まれました。
9歳の時に前橋で空襲を体験し、焼け野原を見たという司。その時の記憶が彼の創作の核となり、社会への絶え間ない問題意識と結びついています。
司の作品は絵本や絵画だけにとどまらず、本の装幀、文筆活動、映像やインスタレーションなど幅広いジャンルに及びます。
司修《カプセルに包まれたドーム》2005年 個人蔵
宇宙空間に浮かんでいるような黄色いカプセルの中に注目。中央に小さく原爆ドームが描かれています。
《カプセルに包まれたドーム》は、親交のあった小説家・大江健三郎の著作『治療塔惑星』(1991年 岩波書店)に触発されて描いた作品です。
描かれている原爆ドームは、まるで琥珀の中で永遠に時を止める虫を連想させます。
本作は第16回「両洋の眼」展に出品され、司はその図録の中で「ヒロシマ、ナガサキを思い出してください。」と記しています。
記憶が風化することなく、残り続けてほしい。そんな司の願いを感じる作品のひとつです。
司修 『まちんと』(偕成社)より 1978年/ 1983年 ちひろ美術館蔵
『まちんと』は、広島で被爆し、トマトをねだりながら亡くなった少女を主人公とした絵本です。
司は、絵本に広島の原爆を描くにあたり、自身が思うような恐ろしい原爆の図を描くわけにはいかないと、1年以上悩み続けていました。
戦争の悲惨さを伝える絵本と聞くと、モノクロームな絵が思い浮かびます。
司も当初は、黒一色のリトグラフで1冊分を描き上げたといいます。
しかしその後、全場面を鮮やかな色彩に描き直しました。
司修 『まちんと』(偕成社)より 1978年/ 1983年 ちひろ美術館蔵
改定版ではすべての場面に手を加え、広島の原爆は過去ではないという場面として、2つの場面が描き足されています。
司修 『まちんと』(偕成社)より 1978年/ 1983年 ちひろ美術館蔵
本展では、その描き足された場面も展示。左下には、「池袋サンシャインビル展望台から、新宿方面を見る。1983.6 スモッグに煙る」と書かれています。
20代の初めに、絵を描くために前橋から上京してきた司。
自身に子どもが生まれたことをきっかけに、絵本の仕事に関心を持つようになりました。
児童書の出版社に絵を持ち込みしていたころ、偕成社からある依頼を受けます。それは、児童文学者の浜田廣介の「ひろすけ童話」シリーズに絵をつけることでした。
司修『みにくいあひるのこ』(偕成社)より 1965年 ちひろ美術館蔵
本展では、絵本を描くために描いた水鳥のスケッチと、最初に手掛けた絵本『みにくいあひるのこ』の原画を展示。
スケッチや絵本原画からは、初めて絵本に取り組む司の意気込みが感じられます。
「アンデルセン生誕220年 ちひろ見つめるアンデルセン」も、同時開催中です。
デンマークの作家ハンス・クリスチャン・アンデルセン(1805-1875)が遺した物語は、今もなお、たくさんの人たちに親しまれています。
いわさきちひろ 窓辺の人魚姫『にんぎょひめ』(偕成社)より 1967年
いわさきちひろも、アンデルセンの物語を愛した人のひとりです。
絵本や絵雑誌、童話集、紙芝居などさまざまな分野で、くり返しアンデルセンの物語を画材、構図を工夫を重ねて描きました。
ちひろはアンデルセンのどのようなところに惹かれていったのでしょうか。
本展では、ちひろの絵やことばを通して、アンデルセンの魅力を紐解きます。
展示室の真ん中には、ちひろが愛用した深緑のソファーが置かれています。
こちらは、自由に座ってOK。
体を包み込む柔らかなソファーに腰を掛け、作品をゆっくりと眺めるのもオススメです。
*館内ミュージアムショップの利用は、ご入館された方に限ります。
館内ミュージアムショップ*では、絵本『まちんと』など、展示関連書籍も販売しています。
平和の尊さを考える、ちひろ美術館・東京の夏の展覧会。この機会に、親子で平和を考えてみてはいかがでしょうか。