アートな街歩き(小田急線・千代田線沿線編)ざわつく日本美術、浦沢直樹の原画展、藤子・F・不二雄の世界、そして多彩な版画表現へ

2025年8月8日

アートな街歩き(小田急線・千代田線沿線編)ざわつく日本美術、浦沢直樹の原画展、藤子・F・不二雄の世界、そして多彩な版画表現へ

この夏は、千代田線から小田急線を巡ります。
乃木坂、豪徳寺、向ヶ丘遊園、町田へ。

アート初心者でも思わず引き込まれる“ざわめき”から始まる日本美術、浦沢直樹の原画展、藤子・F・不二雄が描いた科学と魔法、そしてミロや草間彌生の作品にふれる版画の旅へ。

日常からふと抜け出して、東京近郊の街をめぐりながら、自分だけの「心が動く瞬間」を探してみませんか。各会場で待っているのは、ここでしか味わえないアートとの出会いです。

<乃木坂>
心のざわめきでひもとく日本美術

サントリー美術館で開催中の「まだまだざわつく日本美術」。

「ぎゅうぎゅう」「おりおり」「らぶらぶ」「ぱたぱた」「ちくちく」「しゅうしゅう」という6つのユニークなテーマを入り口に、日本美術を“心のざわめき”から楽しもうという試みです。


会場のエントランス

作品を前にしたときに思わずこぼれる「えっ?」「おっ!」「うわぁ…」といった直感的な感情を大切に、絵巻物や工芸品、仏像など多彩な作品が展示されています。

たとえば「おりおりする」では、お祝いの席で見かける金屛風の定番の折り方から一歩踏み込み、過去の絵巻などに描かれた自由な折り方を再現展示。

屛風本来の役割や使い方を知りながら、折り方の違いがもたらす構図の変化や奥行きを体験できます。


会場のようす

「ぱたぱたする」では、漆器や陶器、ガラスなど立体作品に施された模様に注目。展開図とともに紹介することで、波のうねりや兎の跳ねる姿といったデザインのつながりや工夫が見えてきます。

知識がなくても作品の面白さに引き込まれるような仕掛けが随所にあり、五感で日本美術を楽しめる展覧会。

日常の感覚と重ね合わせながら、自分だけの“ざわめき”と出会える時間が待っています。

展覧会名:まだまだざわつく日本美術
開催期間:7月2日~8月24日
会場:サントリー美術館
公式サイト:https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2025_3/index.html

<豪徳寺>
100年洋館に広がる、浦沢直樹の描線とドラマ

東京都世田谷区豪徳寺にある水色の洋館・旧尾崎テオドラ邸は、1888年、英国出身の令嬢・尾崎テオドラ英子の来日にあわせて、父・尾崎三良男爵が建てた邸宅が起源。

1933年に現在地へと移築され、戦後は英文学者の住居としても使われ、地域に親しまれてきました。


建物外観

老朽化により解体の危機に直面しましたが、クラウドファンディングなど多くの支援を受けて保存・再生が実現。

2023年には「尾崎テオドラ邸」として新たにオープンし、現在は喫茶スペースとギャラリーを中心とした文化交流の場として活用されています。


喫茶室のキッチン

『20世紀少年』『YAWARA!』『MONSTER』などで知られる漫画家・浦沢直樹は、緻密な構成と圧倒的な画力で世界中にファンを持つ日本を代表するストーリーテラーです。

現在連載中の最新作『あさドラ!』は、1959年の名古屋を舞台に、災害・戦後・オリンピック・巨大生物など“昭和の激動”を背景に、たくましく生きる少女・アサの物語を描いた作品です。


ギャラリーエントランス

本展では、その『あさドラ!』の原画を中心に、浦沢作品の創作の裏側に迫ります。ネーム(設計図)と完成原稿の比較展示や、1話分の生原稿の展示も見どころ。構図、表情、動き―すべてに意味が込められた珠玉の線に、浦沢の“本気の創作”が宿ります。

『20世紀少年』『YAWARA!』のカラー原画、浦沢が8歳のときに描いた貴重な初期作品、さらに描き下ろし原画やオリジナルグッズの販売も。喫茶室ではコラボメニューも楽しめ、作品世界に浸る特別な時間を過ごせます。

展覧会名:浦沢直樹 テオドラ邸deあさドラ!展
開催期間:7月19日~9月2日
会場:旧尾崎テオドラ邸
公式サイト:https://ozakitheodora.com/gallery-post/urasawanaoki-asadora/

<向ヶ丘遊園>
藤子・F・不二雄の原点と想像力に出会う

『ドラえもん』や『パーマン』『オバケのQ太郎』『キテレツ大百科』など、子どもたちに夢と笑いを届けてきた藤子・F・不二雄。

藤子・F・不二雄ミュージアムは、彼の創作世界と、温かくユーモラスな作品の魅力を未来へ伝える文化施設です。


建物外観

藤子・F・不二雄(本名・藤本弘)は1933年、富山県高岡市に生まれました。小学生時代に出会った安孫子素雄(のちの藤子不二雄Ⓐ)と共に漫画を描き始め、1951年「天使の玉ちゃん」でデビュー。1954年には上京し、伝説のトキワ荘に入居して本格的に漫画家の道を歩み始めました。

子どもたちの心に寄り添う作品を数多く手がけた彼は、晩年を川崎市多摩区で過ごし、地域の子どもたちのために創作を続けました。没後、夫人の「応援してくれた子どもたちへ恩返しをしたい」という想いから、世代を超えて作品の魅力を伝えるこのミュージアムが誕生しました。

常設展示では、藤子・F・不二雄作品の原点ともいえる「まんが原画」の数々を紹介。コミックスのカバー用に描き下ろされたカラー原画や貴重な資料が並び、“原稿をめくるように”物語の息づかいを感じられる展示空間です。


企画展エントランス

企画展では、「科学」と「魔法」をテーマに、子どもたちの空想を形にした作品を紹介。ひらめきと想像力から生まれたまんが世界の奥行きを、原画を通じてじっくり楽しめます。

展覧会名:藤子・F・不二雄が描く チチンプイ!科学と魔法のまんが展
開催期間:2024年10月30日~2025年10月26日
会場:川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム
公式サイト:https://fujiko-museum.com/exhibition.html

<町田>
知らなかった版画に出会える展覧会

版画といえば、同じ絵を何枚も作り出せる“複製の技術”として始まった表現方法ですが、いまでは数多くのアーティストがこの技法を活かし、自由で創造的な作品を生み出しています。


建物内観

町田市立国際版画美術館で開催中の「版画=紙に刷られた絵」というイメージをくつがえす、多彩でユニークな作品群に出会える展覧会。

アートに詳しくなくても、たくさんの「?」と出会いながら、版画の奥深い魅力を体感できる絶好の機会です。

見どころは、デューラー、ピカソ、ジョアン・ミロ、草間彌生、福田美蘭といった、国内外の著名アーティストたちによる作品が一堂に会すること。

なかでも、ミロの全長約9メートルにもおよぶ大作《マキモノ》は、広げた状態で展示され、そのスケール感と色彩に圧倒されます。


会場のようす

会場では、凸版、平版、凹版、孔版といった、一見すると違いがわかりにくい版画の技法も、会場では動画や図解パネルを使って丁寧に解説されています。

技法の特徴や工程を知ることで、作品に込められた表現の工夫にも気づけるようになり、鑑賞がさらに楽しくなる展示です。

展覧会名:版画ってアートなの?
開催期間:7月5日~9月21日
会場:町田市立国際版画美術館
公式サイト:https://hanga-museum.jp/exhibition/index/2025-595