美術館で大航海 ! ~コレクションをたどって世界一周~/アサヒグループ大山崎山荘美術館

「美術館で大航海」を訪ねて―古今東西のコレクションの大海原へ【京都】

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2025年11月11日

こんにちは!
今回から、スフマートの読者レビュアーとして記事を書かせていただくことになりました。
どうぞよろしくお願いします。

アサヒグループ大山崎山荘美術館で開催中の展覧会「美術館で大航海!~コレクションをたどって世界一周~」へうかがってきました!


美術館外観

閑静な山あいに佇む美術館

JR京都線「山崎駅」から閑静な住宅街の中の坂道を10分ほど歩くと、美術館の入口トンネルが見えてきます。(阪急京都線「大山崎駅」からも徒歩10分ほど、他にJR・阪急それぞれの駅からの送迎バスもあります。)

トンネル前には文豪・夏目漱石が、大山崎山荘(現アサヒグループ大山崎山荘美術館)を訪問したことを示す記念碑がありました。


美術館入口


夏目漱石の山荘訪問の石碑

美術館に入る前に、持ち込み禁止物の看板がありました。

・リュックや傘、三脚、40cm×40cmを超える荷物等は不可(無料のコインロッカーがあります)
・筆記具は鉛筆のみ


本館出入口

坂道をのぼって、いよいよ美術館の建物が見えてきました!

この美術館は、もともと大正から昭和初期に実業家の加賀正太郎氏が別荘として自ら設計した山荘でしたが、アサヒビール株式会社や自治体によって復元され、美術館として整備が行われました。

本館はイギリスのチューダー・ゴシック様式で、一見すると木造のように見えますが、関東大震災を教訓に鉄筋コンクリートでしっかりつくられています。

また、「地中の宝石箱」(地中館)と「夢の箱」(山手館)は、建築家・安藤忠雄が設計したもので、本館や庭園になじむ設計になっています。

100件を超える古今東西のコレクション

館内は撮影禁止でしたので写真で紹介はできませんが、今回は印象に残った作品をいくつかご紹介します。展示は7つのエリアに分かれており、古今東西の美術を「航海するように」たどる構成でした。

順路1   イギリス
順路2   アメリカ・東欧・スペイン・イタリア・スイス・ドイツ・オランダ
順路3   オーストリア・カナダ・フランス
順路4   中近東
順路5   中国・朝鮮
順路6-7  日本
となっています。

それでは、たくさんの展示の中から、展覧会を代表していると思った7点をご紹介したいと思います。

「スリップウェア グリフィン図 大皿」

順路1のはじめに展示されていたこの大皿は、泥状の粘土で模様を描いた英国の伝統的な陶器で、異国の文様が生き生きと浮かび上がっていました。

スリップウェアは西洋から日本の民藝運動へと伝わり、互いの文化を結びつけた器でもあり、まさに大航海の幕開けにふさわしい「文化の旅のはじまり」を感じさせる作品でした。

「横たわる女」ピカソ

形が分解され、角度を変えて再び組み立てられた作品で、ひとつのものをさまざまな視点から描くキュビズムの手法は、芸術の新しい航海のようにも思えます。

世界中に広がっていったピカソの偉大さを改めて感じることができる作品でした。

「コンポジション」カンディンスキー

ピカソの構成的な考えをさらに抽象化し、線と色だけで音楽のようなリズムを感じました。

絵画が「目で見るもの」から「心で聴くもの」へと変化していくような、“内面の世界への航海”ともいえそうです。

「ヴェネツィア」シニャック

点描による光と空気感が印象的でした。解説によると、“彼はモネの筆触分割の考え方をもとに、光を細かな点で表現する新印象派を完成させた”とのことでした。

水面に反射する光の一瞬を描き出す筆づかいに、“技法の航海”ともいえると感じました。

「泥絵」

江戸時代に長崎へやってきたオランダ船を描いた作品で、西洋の遠近法や陰影の技法が取り入れられています。

当時の日本人が見知らぬ国の風景を想像しながら描いた姿が浮かんできます。航海によってもたらされた知識と驚きを感じる作品でした。

「窓辺の農夫」ゴッホ

晩年に描かれた静かな作品で、「ひまわり」のような強烈な色彩はなく、淡く寂しげな光が漂っていました。

ゴーギャンとの仲違いを経て心を病んでいた頃のゴッホの姿を思うと、この静けさの中にこそ彼らしさがあるように感じました。

「睡蓮」と「アイリス」モネ

印象派の代表画家であるモネは、自然の光と空気をそのまま描きとめた作品で有名ですが、実際に作品を前にすると、その大きさと筆づかいに圧倒される思いでした。

モネはジャポニズムの影響を受け、日本庭園を自宅に造り、四季の移ろいとともに睡蓮を描き続けました。近づいて見ると筆触分割の跡が立体的に感じられ、少し離れて見ると水面の揺らぎへと変化するのを実際にみると圧巻です。

キャンバスの端に残されたわずかな塗り残しを見て、ちょっと親しみを覚えました。

喫茶室の眺望と期間限定スイーツ

さて、絵の鑑賞を終えて、今回のもう1つの目的だった本館テラスからの眺望を楽しむために、2階喫茶室に行きました。

室内席もあるのですが、眺望を楽しめるテラス席がおすすめです。桂川や山の木々、穏やかな風を感じながら楽しむことができます!


会期中限定で販売されている

「アラビヤからの風」・・・中近東のお菓子バスブーサをベースにしたもの
「お茶会への招待」・・・・紅茶のロールケーキ
があり、私は食べたことがなかった「アラビヤからの風」を選びました!

レモンクリームのさっぱりとした甘さと、ココナッツがほどよく組み合わさって、おいしかったです。

庭園もおすすめ

また、この美術館がもともと山荘だったことから、広く美しい庭園も楽しむことができます。

まとめ

事前に作品リストを見ていたときから、私の中ではモネの「睡蓮」がいちばんじっくり見たい一枚でした。そこで、まず地下の展示室にあるモネの作品を訪ねました。静かに横たわる大作の前に立った瞬間、存在感に圧倒されました。

本やネットで何度も目にしてきた「睡蓮」ですが、実物の迫力はまったく違いました。筆触分割の筆づかいや絵の具の厚み、光の揺らぎ、絵のことは知識として知っていても、実物を見ると、呼吸をしているように感じられました。

キャンバスの端に残るわずかな塗り残しに、人間味や親しみを覚え、絵は生きているんだと思いました。

この展覧会では「大航海」というテーマをもとに、芸術がいかにして海を越え、文化や思想とともに広がっていったかを感じ取れる構成になっています。

大航海時代にヨーロッパが世界へ進出していったように、絵画もまた互いに影響し合いながら、新しい表現を生み出してきたのだと感じました。

「Bon Voyage!」という言葉のとおり、この展覧会は、美術という船で世界をめぐる旅でした。作品を通して、文化が海を越えてつながっていった軌跡を感じ、本物の絵画がもつ静かな力に心を動かされる一日となりました。