ピエール=オーギュスト・ルノワール/10分でわかるアート
2021年11月17日

栃木県宇都宮市・大谷町に、アートと食の複合施設大谷グランド・センターがオープンしました。
東京から日帰りできる距離で、自然の石を取り入れた建築と、アーティスト・YOSHIROTTEN(ヨシロットン)による光と音に包まれる没入型のアート作品、そして地元食材を使ったスイーツや食事が楽しめる、“石のまち”の新スポットです。
「大谷グランド・センター」は、昭和の終わりごろまで「山本園大谷グランドセンター」として親しまれてきた場所。建物が岩山に抱きつくような特徴的な建物は、ひとりの石工に寄って建てられたともいわれています。

大谷グランド・センター 外観
かつては食事処や大浴場があり、多くの観光客で賑わうスポットでしたが、閉業後は30年以上にわたり廃墟となっていたそう。長いあいだ時が止まったままの施設が、アートと食をテーマにした複合施設として再スタートしました。
屋外の階段をのぼって建物に近づくと、ビューテラスからは、大谷の岩山の風景や大谷寺の大きな平和観音が見渡せます。

大谷グランド・センター ビューテラス
この建物の旧大浴場をまるごと作品に変えたのは、アーティストのYOSHIROTTEN。
自然や土地の歴史をリサーチし、それをデジタルの映像やインスタレーションで可視化する作品で知られています。
今回は、大谷石の採石場でフィールドリサーチを行い、ハンドスキャナーで石の表面を読み取ったり、音を採集したりしながら作品を創り上げていきました。
ここでは、大きく3つの展示室で作品が構成されています。
最初の展示室「Introduction」は、天井も壁も外の岩肌も、すべてがオレンジ一色に染まった空間。「太陽の方を向いたまま瞳を閉じると目の前がオレンジ色に見えること」に着想を得た作品です。
本来は見えないはずの色が表現された空間で、作品を観ていくための準備運動のように気持ちが整えられていきます。

「Introduction」
階段を下ると、ガラス越しの屋外に、巨大な岩と赤いネオン管が組み合わされた作品が現れます。
自然物と人工物を融合させたこの作品のタイトル《Transtone》は、かつて、大谷石の産業や文化を地下空間に集めた未来都市をつくろうとしていた計画「大谷テクノパーク構想」のなかの「とらんすとーんエリア」に由来するもの。
この土地ならではの自然と産業が融合した、過去に描かれた未来予想図に思いを馳せられる作品です。

YOSHIROTTEN《Transtone》 2025年
メインとなる作品《大谷石景》は、かつて大浴場だった広大な空間を使ったインスタレーション。

YOSHIROTTEN《大谷石景》 2025年
大谷石の表面の凹凸や、大谷石特有の「みそ」と呼ばれる模様をスキャンしたイメージがデジタルドローイングとして展開され、浴場の空間全体に投影されていきます。
さらに、現地で録音された水音や、草をかき分ける音などをもとにしたアンビエントサウンドに包まれる、幻想的な空間です。

YOSHIROTTEN《大谷石景》 2025年
かつての賑わいを感じさせるレトロな浴室のタイル、長い間廃墟だったことをうかがわせる剥き出しのコンクリート、その土地をずっと見つめ続けてきた自然ーーそして、それを観る現代の私たちの感覚とが一つの空間で交差していきます。

YOSHIROTTEN《大谷石景》 2025年
館内には、YOHIROTTENの代表作である「SUN」のインスタレーションが、オープニングを記念して期間限定で展示されています。(5月12日まで)。屋内と屋外が緩やかにつながる個性的な展示スペースも魅力的です。

大谷グランド・センター アートスペース
作品を体験した後には、2階にあるレストラン・パティスリー・カフェでひと休み。
大きな窓からは岩山に囲まれた大谷の風景が広がり、テラスに出ると、建物と一体化した巨岩のスケール感に圧倒されます。

大谷グランド・センター レストラン客席
地元の食材を生かした料理やスイーツも充実していて、特に栃木名物のいちごを使ったデザートは、アートの余韻に浸るひと皿にぴったり。

大谷グランド・センター パティスリー・カフェのスイーツ
入館チケットは、アートスペースへの入場とドリンクチケットがセットになっているので、アートとドリンクがあわせて楽しめるのもうれしいポイントです。
屋上のルーフトップテラスからは、作品制作のためにYOSHIROTTENが訪れた稲荷山の石切場も見渡すことができます。
大谷グランド・センターを起点に、周辺のスポットも合わせて巡る“半日さんぽ”もおすすめ。
YOSHIROTTENがインスピレーションを得た稲荷山にそびえ立つ石切場の石壁は大迫力です。(※安全のため石窟内部への立ち入りはできません)

稲荷山の石切場
石切り場の巨大な地下空間を歩ける「大谷石資料館」や、日本最古級の磨崖仏といわれる大谷磨崖仏が安置された「大谷寺」も徒歩圏内。大谷の石の文化を体感できます。
東京駅からは、まずは東北新幹線または在来線で宇都宮駅へ。
宇都宮駅からバスで「大谷観音前」までか、タクシーやレンタカーで30分程度。新幹線を使えば東京駅から1時間半程度、在来線でも2時間半程度と、東京からでも日帰りしやすく、“小旅行”気分で楽しめます。
長いあいだ時間が止まっていた施設が、再び灯りをともした大谷グランド・センター。
昭和の観光施設の華やかな雰囲気と現代の洗練された雰囲気が融合した建物、長い間この土地を見続けてきた大谷石の特徴を取り入れた光と音のインスタレーション、そして石のまちならではの景色と食が、一度に味わえる場所です。
週末に小旅行気分で足を運んでみてはいかがでしょうか?