企画展「笹岡由梨子のパラダイス・ダンジョン」/滋賀県立美術館

怪しげな歌声に包まれた非日常空間・・・笹岡由梨子の世界【滋賀県立美術館】

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2026年2月17日
怪しげな歌声に包まれた非日常空間・・・笹岡由梨子の世界【滋賀県立美術館】

会場入口の看板は普通に常識的なんだけど

パラダイス・ダンジョン・・・ん?天国と迷宮?まずそのタイトルに戸惑いを覚えつつ。

美術館に足を踏み入れた瞬間から違和感が始まります。

普段なら静寂に包まれている館内に、遠くで鳴ってる街宣車?のような音で歌が響き渡ってるのです。

「♪愛するために~生まれてきたんだ~♪」

非日常的な空気に包まれた展覧会「笹岡由梨子のパラダイス・ダンジョン」。滋賀県立美術館で開催中です。

おどろおどろしい歌声が響く美術館で・・・

《ラヴァーズ》2024年 滋賀県立美術館蔵

歌声が聴こえる方に進んでいくと、現れたのは巨大な2つの顔!

よく見ると鼻は耳、目は口で、口は目の映像。野太く機械的なボーカルにあわせ、開いたり閉じたり。
作品タイトルは《ラヴァーズ》・・・うーん、入りっぱなから圧が強いぞ。

インタビュー映像から。作家の正装?というキョンシーのいでたち

《ラヴァース》の作者、笹岡由梨子氏。大阪に生まれ京都で学び、滋賀を拠点に制作を続ける現代アーティストです。

作品の映像インスタレーションに登場するキャラクターは彼女自身。先の《ラヴァース》の目、口、耳も本人です。

また笹岡作品で欠かせないのが「歌」で、彼女自身が作詞作曲しています。

会場では作家のインタビュー映像を観ることができます。

妖しげな別世界への通路をたどって

異世界への通路のようだがチープさが漂う

映像を多用したインスタレーションなので、展示スペースの多くは遮光。各コーナーをつなぐ通路にまで暗幕が吊られ、ネオンカラーの照明が誘惑するように天井を照らします。

昭和ノスタルジー、あるいは、東南アジアの湿った空気感。暗く妖しい空間に訪れた感覚。非日常的な世界へいざなわれます。

《イカロスの花嫁》2015-2016

通路の先の幕をめくると小さなシアターがありました。

暗闇に並べられた椅子にかけて寸劇を観ます。作品のテーマは西洋中心主義に対しての抵抗、だそう。

西洋の象徴であるギリシア神話に対し、侵食されていく日本のメタファであろう花嫁人形。

花嫁人形のヨリコは「ちょっと待った、それは違うよ」「啓発せよ!」と反発する。

登場するギリシア神話のイカロスとその父ダイダロスの操り人形は2mを超すサイズで、劇中は操作がたいへんだったそう。このあと登場する花嫁人形のヨリコは、笹岡本人が演じます。

《プラナリア》2020-2021年 滋賀県立美術館蔵

次の会場で上映されるのは、「死の儀式」をテーマにした《プラナリア》。

プラプラ吊り下がっている人形は、頭が魚。謎の司祭が、棺桶を模した祭壇に死体を掲げてろうそくに火を灯す儀式を執り行います。

背後では人が死に至る原因が歌い上げられます。

コロナ禍で近しい親族の死を経験した笹岡が、パンデミックに対する疎外感や無力感をモチーフとした作品。
「プラナリア」とは、切っても切っても再生する不死の生物です。

創作過程は、歌とドローイングから

ドローイングの展示

笹岡由梨子の創作は、歌とドローイングから始まるといいます。

浮かんできたイメージを歌い、そして描く。笹岡にとって歌と創作は切り離せないのです。

会場には、創作のイメージボードとなるドローイングが壁いっぱいに展示されています。

私の体はあなたたちからできている

《ポロニア》2025年 アダム・ミツキェヴィチ・インスティトゥート(IAM)蔵

ますます迷宮めいてきた会場、お次は「キュリー夫人」として知られる女性の「生」をモチーフとした映像インスタレーションです。

科学者であり母であり移民でもあったマリア・スクウォドフスカ=キュリー。
笹岡はポーランドでの滞在経験をもとに、「家族」「移住」「科学」という多面性を持つキュリーを通じて「生」を表現したといいます。

そして笹岡自身の体も、家族や社会などの多面性を受け継いだもの。「私の体はあなたたちからできている」ポロニアの最後の言葉です。

《私の身体》展示風景 2025年 アダム・ミツキェヴィチ・インスティトゥート(IAM)蔵

「あなたたちからできている」と歌った「私の身体」のインスタレーション。

科学実験のイメージなんでしょうか。心臓や脳や肝臓など、笹岡本人のCT断層画像をもとにしたビーズ造形が、ライトに照らされた水槽の泡の奥でゆらゆらとうごめいて見えます。

展覧会のための新作《タイマツ》

《タイマツ》2026年

最後は、この展覧会のために制作された《タイマツ》。
滋賀・大津市の就労継続支援B型作業所「蓬莱の家」利用者とのワークショップを経て完成した大作です。

万華鏡をモチーフにしたインスタレーションで、テーマは「料理」。
中華ではおめでたい食材の豚肉をはじめ、作品に出てくるのは「火を通す」ものばかり。

「タイマツを燃やせ!」というフレーズは、料理や祭りの火をおこす行為であり、生贄をささげる意があるといいます。

《タイマツ》のための蓬莱の家とのワークショップで一緒に開発した料理 2025年

「蓬莱の家」でのワークショップで考えたレシピの料理サンプルです。

笹岡はこれまでの作品を振り返り、今後に向けた決意を込めて制作にあたったそう。

かかっている歌をよく聞くと、調理の順番を歌っている中に、突如として笹岡の心の叫びのようなフレーズが現れて興味深いです。
会場で耳を傾けてみてください。

《Working Animals》2024-2025

会場の出口でお見送りしてくれたかわいい子豚さん。さっき《タイマツ》で食べられてたよね・・・と思うとちょっと複雑ですが。

あなたもパラダイス・ダンジョンの住人に!

ワークショップコーナーで、パラダイス・ダンジョンの住人に

館内には、観覧者がいつでも楽しめるワークショップも。仮面をつけて鏡をのぞけば、あなたもパラダイス・ダンジョンの住人です。

展覧会の冒頭では最初期の作品も展示されていて、彼女の創作歴を一覧できる展覧会になっています。

映像作品からスタートした笹岡ですが、近年は立体作品にディスプレイを取り付けたり、MIDIや制御系で音を鳴らすような手の込んだ作品が増えています。

そして彼女らしいチープでオリエンタルで懐古的な世界観を加速させている印象。今後、作品がどう変化していくのか楽しみです。

笹岡由梨子の世界をあなたも覗いてみませんか?

Exhibition Information