Chim↑Pom展:ハッピースプリング/森美術館

芸術実行犯Chim↑Pomが問う新しい美術館のあり方とは?

2022年3月11日

Chim↑Pom展:ハッピースプリング/森美術館

現代日本のアートシーンで注目を集めてきたアーティスト・コレクティブ、Chim↑Pom(チンポム、2005-)の初となる大回顧展「Chim↑Pom:ハッピースプリング」が森美術館にて開催中です。

本展は「都市と公共性」、「ヒロシマ」、「東日本大震災」などの10のセクションと「ミュージアム+アーティスト共同プロジェクト・スペース」で構成。結成17周年を迎えるChim↑Pomの仕事の全貌を観ることができる展覧会となっています。

アーティスト・コレクティブ、Chim↑Pomとは

Chim↑Pomとは、複数のアーティストが集まり協働する形態を指す「アーティスト・コレクティブ」で、メンバーは、卯城竜太、林靖高、エリイ、岡田将孝、稲岡求、水野俊紀の6名です。広島市の原爆ドーム上空に飛行機雲で「ピカッ」という文字を描いた《ヒロシマの空をピカッとさせる》(2009年)や、メンバーが東日本大震災の被災者の若者と円陣を組み100の言葉を順番に叫んだ映像作品《気合い100連発》(2011年)など、物怖じせずに社会の問題に切り込んだ作品を制作しています。また、メンバーのほとんどが美術大学などで正規の美術教育を受けていないことも特徴で、それぞれがアートとユニークな出会い方をしています。

ところで「Chim↑Pom」というユニークな名前の由来はなんでしょうか。作家の辻仁成さんが尋ねたところ、メンバーのエリイさんは次のように答えたそうです。

「恥ずかしくて普通の人が言えないじゃないですか。女の人がチンポムって言ったらその瞬間にみんなクスクスってなる。それが面白くてつけた」

参考:“Chim↑Pom エリイが見る世界”.DESIGN STORIES.2017-08-12.https://www.designstoriesinc.com/special/interview_ellie1/,(参照2022-02-28)

一見すると、はちゃめちゃにも思えるChim↑Pomですが、彼らの重要なテーマのひとつが「公共性」や「公と個」です。

芸術家と言えば個性が強いイメージがあります。「個」の代表格とも思われがちですが、一方でキュレーターが作る枠組みとしての公に埋没してしまっているアーティストの現状もあると、Chim↑Pomは問題視しています。今回の展覧会は美術館とアーティストとの関係性、美術館という場についても考えられる内容となっています。

Chim↑Pomの重要なテーマ「公共性」や「公と個」

「都市と公共性」「道」の2つのセクションは、Chim↑Pomが重視する「公共性」や「公と個」について考えさせられる内容になっています。


展示風景

「都市と公共性」のセクションでは、駆除薬剤に対して抵抗力を増し、強靭化するネズミをテーマにした映像作品《スーパーラット》(2006年)や、建築物でバーガーを作ることで「壊す」と「建築」を表現した彫刻作品《ビルバーガー》(2018年)が展示されています。


展示風景

「道」のセクションでは、二層構造にした展示室の上層部にアスファルトで舗装した大きな道が表れます。これは本展のために建築家の周防貴之とコラボレーションして実現させたものです。


展示風景

この道を公道でも美術館の敷地でもない第3の公共空間として位置づけ、会期中には誰でも参加可能なパフォーマンスなどが行われるとのこと。

このような公共性の高いテーマがありつつ、メンバーであるエリイに焦点を当てた「エリイ」というセクションや、エリイがピンクの液体を延々と吐き出している映像作品「エリゲロ」などの個に焦点を当てた作品群も展示されています。


展示風景


展示風景

当事者性とリアリティ

「当事者性」や「リアリティ」を意識した作品群も見どころのひとつです。「ヒロシマ」というセクションは、代表作とも言える《ヒロシマの空をピカッとさせる》(2009年)から始まり、《パビリオン》(2013年-)など広島を主題とした作品群が展示されています。


展示風景


展示風景

「被爆」という体験は当事者性が強く、安易に代弁できるものではありません。しかし、だからと言って現代の私達には関係のない問題なのでしょうか。どのようにして当事者性を伴って広島の歴史を表象することができるのか、Chim↑Pomは複雑で難解な問いに取り組み続けています。

「当事者性」と「リアリティ」を強く感じさせたのが「東日本大震災」のセクションです。ここでは映像作品《リアル・タイムス》(2011年)や《気合い100連発》(2011年)などが展示されています。


展示風景

2011年3月11日の東日本大震災の発生直後に、Chim↑Pomは原発から20キロ圏内にある東京電力敷地内の展望台を訪れました。そこには当時誰も知る由もなかった無残な街の姿がありました。《リアル・タイムス》(2011年)という作品のタイトルには「まさに今」「リアルな時代」「現実の報道」の3つのテーマを込めたそうです。

また、Chim↑Pomは震災直後に被災地に行きボランティア活動を行うなかで、被災者の若者たちと円陣を組み100の言葉を順番に叫んだ映像作品《気合い100連発》(2011年)を撮影しました。場違いに思える言葉を叫ぶなど、賛否両論分かれる本作ですが、そこには確かに当事者ならではのリアリティが感じられます。

近年の問題にも精力的に取り組む

Chim↑Pomは、国境の問題や新型コロナウィルスなど最近の問題にもいち早く注目し作品を制作しています。

「ジ・アザ―・サイド(向こう側)」では米国の国境問題をテーマとした作品群が展示されています。その一つである《USAビジターセンター》(2017年)は、国境の壁のすぐ横の土地にツリーハウスを建てることにより、アメリカに入国できない人たちがいることへのメタファーを表現しています。


展示風景

「May, 2020, Tokyo」というセクションでは、2020年5月に緊急事態宣言下の東京で行われたプロジェクトが展示されています。


展示風景

公共の場から失われていく子どもの居場所を問い直す託児所

本展では、アート・プロジェクトの一環として「くらいんぐみゅーじあむ」という託児所を設置しています。

子育て中の人びとが積極的に美術館を利用し、アートに触れる機会を増やすことが目的だそう。本来「静かであるべき」とされる美術館にあえて子どもの泣き声や遊び声を響き渡らせることで、社会全体における子育て環境への問題提起を試みています。

また、ミュージアムショップの一角にある「金三昧」もユニークです。これはオリジナルデザインのグッズや、どこかナンセンスで使用価値を試すような実験的な「商品」や「作品」を独自で開発・販売するショップのプロジェクトで、展覧会の一部になっています。

本展のサブタイトル「ハッピースプリング」には、長引くコロナ禍においても明るい春が来ることを望み、たとえ待ちわびた春が逆境のさなかにあっても想像力を持ち続けたいというメッセージが込められているとのこと。

今起こっている問題について自分はなにができるか考えさせられ、エンパワーメントされるような展覧会だと感じました。

Exhibition Information

展覧会名
Chim↑Pom展:ハッピースプリング
開催期間
2022年2月18日~5月29日 終了しました
会場
森美術館 ほか
公式サイト
https://www.mori.art.museum