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2024年11月1日
歌と物語の絵/泉屋博古館
「源氏物語」の絵巻や屏風絵と聞いて「同じ物語を描いた絵だったら、どれも似たようなものなんじゃないの」なんて思ったりしてませんか?
そんな思い込みを覆してくれる展覧会が、京都・泉屋博古館で開催されています。
泉屋博古館の外観 重厚です
京都・東山にある泉屋博古館。「泉屋」は、住友家の屋号です。世界有数の中国青銅器コレクションをはじめ、住友家伝来の美術工芸品の数々を収蔵しています。
ところで「泉屋博古館」の読みかたは「せんおくはくこかん」ですから、お間違いなく!
本展は、住友コレクションから選りすぐった近世の「やまと絵」の企画展です。
会場エントランス
そもそも「やまと絵」とは。
奈良~平安時代の日本絵画は中国・唐の影響を強く受け、絵の主題や風景は中国のものでした。やがて唐が滅亡すると国風文化が芽生え、日本的な花鳥風月が描かれるようになります。
そして中国の風物絵を「唐絵」、日本の風物を描いた絵を「やまと絵」としていたのが、14世紀になると、平安時代に確立された技法を「やまと絵」、中国技法または中国から渡った絵を「唐絵」と呼ぶようになりました。
「主題」でなく「技法」で区別するようになったのです。
本展で特集する桃山~江戸時代前期の日本絵画は、室町時代から続く名門・土佐派や、唐絵を基盤にやまと絵の手法も取り入れ将軍家の障壁画を司った狩野派、やまと絵の伝統にデザイン性を高めた琳派などが並び立ち、影響し合いながら発展した華やかな時代でした。
当時の絵のテーマのひとつが「歌」。歌に詠まれた世界を絵にしたり、絵を見て歌を詠んだり。歌と絵は切っても切り離せない関係だったのです。
展示会場に入ると真っ先に目を惹くのが、とある「歌枕」をテーマにした大きな屏風。
《柳橋芝舟図屏風》伝・土佐広周(江戸時代・17世紀)
「歌枕」とは和歌で繰り返し詠まれた地名のこと。百人一首に出てくる「吉野」や「田子の浦」など、誰でも聞き覚えがあるでしょう。
さて、この屏風に描かれた歌枕とは?
屏風の右隻いっぱいの川に架けられた大きな橋、水車、柴舟、網代木・・・とくれば「宇治」。現代の私たちにはピンときませんが、当時の人びとにはまさに代名詞だったんですね。
絵には人の姿が一人も描かれていません。あくまでも和歌の中の“聖地”として、屏風を観る人が自由に想像できるよう、あえて描かれていないのです。
歌の世界の美しい屏風がもうひとつ展示されていました。
《扇面散・農村風俗図屏風》作者不詳 江戸時代・17世紀
大画面に美しい扇が散らされたデザイン性の高い屏風。扇の一枚一枚に和歌をモチーフとした情景が描かれています。
絵を観ながら和歌を想い、また和歌を諳(そら)んじながら絵を味わう楽しみ。
中にはダジャレ的な絵もみられ、当時の人びともクスッと笑って見てたのかもしれません。
こちらは「三十六歌仙」と、その詠んだ歌を対にした書画帖の一部です。
《三十六歌仙書画帖》松花堂昭乗 江戸時代・1616年 藤原興風
「寛永の三筆」として知られる書の名手・松花堂昭乗(しょうかどう しょうじょう)の作品。
描かれた歌仙の表情にご注目。神聖な姿で描かれることが多かった和歌の名手「歌仙」。ところが昭乗の描いた歌仙はとても人間くさいんです。
この歌仙・藤原興風(ふじわらのおきかぜ)、どうやら歌作りに悩んでうんうん唸っているよう。いつの時代も、頭をひねるときのポーズは同じなんですね。
展示は「歌絵」の世界から「物語絵」の世界へと移ります。
この作品は少し時代が遡って、室町・南北朝時代の説話絵巻です。
《是害房絵巻》伝・土佐永春 南北朝時代・14世紀
唐からやってきた天狗が大口を叩いて比叡山で大暴れしますが、高僧の法力にあっけなく敗れてしまい、日本の天狗たちが嫌味を言いながらも介抱しています。
よく見ると、それぞれの天狗の周りにセリフの文字が。まるでマンガの吹き出しのよう。
マンガ的表現は、当時から日本人のDNAに存在していたんですね。
そしてこの美しい絵巻物は、「竹取物語」を題材とした江戸時代の「竹取物語絵巻」。
《竹取物語絵巻》作者不詳 江戸時代・17世紀
保存状態が素晴らしく、鮮やかな彩色と金箔の輝きは17世紀の作品とは思えません。
大名家の婚礼調度なのではといわれています。
《竹取物語絵巻》中巻第四段より
かぐや姫のために龍の頸の玉(たつのくびのたま)を取ってこようと、海へ出た大納言を嵐神が襲う場面。
人びとの怯える顔、揺れに酔って気分が悪いようす、嵐がおさまるのを祈る大納言など、江戸時代の絵物語らしく登場人物の表情がとても豊かです。
江戸時代の「伊勢物語」「源氏物語」などの屏風絵も展示されています。
これら有名な物語も、江戸時代の人びとからすれば、すでに古典。長編全てに目を通すのはしんどかったはず。
そこで登場したのが、名場面だけ描いた“ダイジェスト版” 屏風絵です。大画面を活かしたダイナミックな構図をご覧ください。
《伊勢物語図屏風》宗達派 桃山~江戸時代・17世紀
9つの名場面が、画面から飛び出さんばかりに大胆な構図で描かれた「伊勢物語図屏風」。
風神雷神図で有名な琳派の祖・俵屋宗達の作風に近く、宗達派の作品とされています。
《源氏物語図屏風》作者不詳 江戸時代・17世紀
「源氏物語図屏風」も名場面のダイジェストですが、それぞれの場面は整然と並んでいて、「伊勢物語図屏風」の作風とは全く異なることがわかります。
近寄って、情景豊かに描かれている名場面をじっくり鑑賞してみましょう。
《源氏物語図屏風》より 蛍
光源氏が薄暗い部屋に蛍を解き放つと、蛍の光に浮かび上がった玉鬘(たまかづら)の美しい横顔を、几帳(きちょう)の向こうにいる兵部卿宮(ひょうぶきょうのみや)が覗き見る場面。
右端にご注目。いかにも覗いてる男がいます。俗っぽくて、写真週刊誌を見ているような気分になりますね。
いわゆる「引目鉤鼻(ひきめかぎはな*)」の平安時代の源氏物語絵巻と違い、江戸時代の空気をまとったおちゃめな「源氏物語」になっているんです。
*引目鉤鼻:平安・鎌倉時代の作り絵ややまと絵などで、特に貴族の男女の顔貌表現に用いられた技法のこと。
展示風景
歌絵にしても絵物語にしても、江戸時代の作品は伸び伸びとしていて、そこかしこにサービス精神を感じます。
技法の違いというよりも、時代の空気の現れなのでしょう。
高精細スキャナで撮影された物語屏風の拡大画像も用意されていて、細部の表情や仕草が確認できます。
緑豊かな泉屋博古館でやまと絵と過ごすひとときを、ぜひお楽しみください。
雨上がりで緑が美しい中庭