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2024年11月1日
美男におわす/埼玉県立近代美術館
「理想の男性像」と聞かれたら、みなさんはどんな人を思い浮かべますか?
かまくらや みほとけなれど 釈迦牟尼は 美男におわす 夏木立かな
こちらは歌人・与謝野晶子が鎌倉の大仏さまを美男子を見立てたユニークな歌です。
人は誰でもその人だけの理想があるもの。そんな多様な男性像のイメージをもとに、時代によって変わる”多様な男性像”を紐解く展覧会「美男におわす」が、埼玉県立近代美術館にて好評開催中です。
展示風景
本展では、江戸時代から現代、浮世絵からマンガといった幅広い時代とジャンルから、日本の視覚文化のなかで表現されてきた美少年・美青年のイメージを紹介します。
※展覧会情報はこちら
女性像を描いた作品は、日本美術史のなかで「美人画」と呼ばれることがあります。
一方、「美男画」というジャンルは存在しません。時代ごとの流行や社会事情、男性観などが反映された作品などは存在しますが、これまで「美男画」といった呼び方でひとくくりにされることはありませんでした。
しかし人びとはいつの時代も男性像に自分の理想を投影し、心をときめかせています。
本展では男性を美しいものとしてとらえることに光を当て、テーマも時代も違う、それぞれの理想の男性像に迫ります!
展示室は伝説の美少年から
展示風景より、松元道夫《制多迦童子》 1957(昭和32)年 絹本着色 額 京都国立近代美術館蔵
運慶作の仏像などでも知られる制多迦童子(せいたかどうじ)は、不動明王の従者である八大童子のひとりです。
怒った顔つきで表現されることが多い童子ですが、本作ではあどけない少年の姿をしています。しかしこちらを見つめるミステリアスな表情や、金剛棒を手にしていることで、聖なるものの雰囲気も身にまとっています。
昔から、神聖なるもののイメージや、現実ではありえないエピソードと結びつけられることが多かった少年の生命力や純粋さ。こうした背景から、人間を超えた力を持つ聖なるものも、子どもの姿で表現されることがありました。
展示室の始まりでは、神秘性を秘めた稚児(子ども)や童子像、歴史的に美少年と言われていた人びとの肖像などを紹介します。
どこかはかなげな愛しい男たち
これまでの日本の歴史を振り返ると、成人男性の身の回りの世話をする少年たちの存在がみられます。
こうした若年の男性(若衆)の姿は近世の絵画でさかんに描かれています。年長の男性が若衆を愛でる衆道*の文化は、庶民のあいだでも当たり前に存在する文化でした。
江戸時代には、男色をあっせんする陰間茶屋というものがあり、歌舞伎役者の卵を名乗る男娼の少年たちが性を売ることもあったそうです。
*衆道(しゅどう)・・・男色のこと
展示風景より左、三宅凰白《楽屋風呂から》1915(大正4)年 絹本着色 二曲一隻屏風 京都市立芸術大学芸術資料館蔵
《楽屋風呂から》で描かれているのは、公演を終えた歌舞伎役者たちの楽屋でのようすです。かつらを外してメイクを落とし、リラックスした雰囲気ですが、ふたりのあいだは距離が近く、どことなく色っぽい空気が・・・。
近代になり戦争の空気が色濃くなると、軍国主義が推進されたことで、色っぽい男性たちの表現の場は失われていきます。しかし美しい男性というのは、いつの時代もあこがれの眼差しを向けられ、時には切ない気持ちを持つような存在であることには変わりないのかもしれません。
ほかにも現代でいう「アイドル」のような存在だった歌舞伎役者や、美少年アニメの台頭など、理想の男性像は非常に多様で、挙げればキリがありません。
さらに時代だけでなく、本展では紹介ジャンルもとても豊富です。浮世絵・日本画・彫刻・挿絵・マンガ・写真など! 時代を超えても美しい男性像に一瞬で魅せられること間違いなし。
この機会をぜひお見逃しなく!
最終章では、現代のアーティストが表現するさまざまな男性美を紹介します。
女性作家が「美男」を描く機会が与えられたのは戦後のこと。それまで女性が公の場で、男性の「よさ」を描くことはありませんでしたが、戦後、少女漫画の世界が花開いたことをきっかけに、女性作家たちが魅力的な男性像を描くようになっていきました。
展示風景より右、木村了子《夢のハワイ―Aloha ‘Oe Ukulele》2016年
木村了子はイケメンをテーマに作品を描く日本作家です。彼女の作品は、日本画の伝統を感じさせる描写でありながらも、現代的なイケメンを、日本画の伝統を感じさせる描写へ落とし込んだユニークな作品ばかりです。
《夢のハワイ―Aloha ‘Oe Ukulele》では、ビーチでおしゃれな男性がくつろいでいます。足を組んでウクレレを持ちこなれた雰囲気をただよわせるイケメンは、本当にハワイにいそう!
その一方で、男性作家による作品も生まれ続けています。社会の固定観念から解放された男性像や、男性の身体そのものを見つめた作品など、さまざまです。
川井徳寛《共生関係~自動幸福~》2008(平成20)年 油彩、カンバス 鎌苅宏司氏蔵
西洋絵画やおとぎ話からヒントを得て、華やなか世界を描く油彩画家・川井徳寛(かわいとくひろ)。
本展のメインビジュアルにもなっている《共生関係~自動幸福~》では、美しく着飾りバラを背負った白馬の王子が、少女に手を差し伸べるようすを描いた作品です。一見人助けをする英雄のようにみえる王子。実は悪魔を退治しているのは翼の生えた少女たちで、彼は何もしていません。
悪魔が背負うバラは枯れていたり、王子は勝ち誇った顔をしていたり・・・。ただ王子が得をしているに過ぎないのでは?共生関係とは?と考えさせられます。ぜひ間近で鑑賞してほしい作品です!
アーティストが男性像を通じて発するメッセージを受け止めることで、自分とっての「美男」について考え、シェアするヒントになりそうですね。
本展は「これが美男だ」と示す展覧会ではありません。むしろ多様な”美男”を通して、自分だけが持つ理想の男性像について、自由に語り合うきっかけになるのではないでしょうか。
ライフスタイルや好みが多様化し、自由に選べる現代だからこそ、さらに視野を広げたいですね。
愛でて、考えて、自分だけの理想の美男像を探ってみてはいかがでしょうか?