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2024年11月1日
石川真生 ―私に何ができるか―/東京オペラシティ アートギャラリー
「沖縄」と聞いたら、何を思い浮かべますか?
観光であれば、青い海や豊かな自然を想像するかもしれません。一方で、米軍基地の問題などもふだんから耳にしますね。
そんな沖縄を拠点とし、沖縄をとりまくものごとを50年近く撮りつづけてきた写真家・石川真生(いしかわまお)の個展「石川真生 ─私に何ができるか─」が、東京オペラシティ アートギャラリーではじまりました。
「石川真生 ─私に何ができるか─」展 展示風景
石川真生は、1953年 沖縄県大宜味村に生まれ、沖縄を拠点に精力的な制作活動を続けている写真家です。
写真家・石川真生(「石川真生 ─私に何ができるか─」展にて)
1970年代から写真をはじめ、沖縄をめぐる人物を中心に、人びとに密着した作品を制作。その作品は国内外の美術館のコレクションにも収蔵されています。
本展は東京では初となる石川真生の個展で、1970年代から現在までの作品をおおよそ年代順に紹介。前半は沖縄をめぐる人物を扱ったモノクロームの写真を中心に、そして後半は、近年とりわけ力を注いでいる《大琉球写真絵巻》から4つのシリーズを展示しています。
今回の展覧会の展示作品は総数170点にも上りますが、それらの作品は一貫して沖縄に関わる人びとに目を向けたものです。こうした作品から、みどころをご紹介します。
展示のはじまりは、1970年代に、石川自身が沖縄在米兵の黒人のためのバーに勤めながら同僚の女性たちとの生活を撮影した「赤花 アカバナー沖縄の女」のシリーズから。
石川真生「赤花 アカバナー沖縄の女」より 1975年-1977年
石川の作品でまず印象的なのは、興味をもった対象に対して、現地に赴き、その中の人びとと関わり、対話をしながら作品を制作していることです。
例えば、「Life in Philliy」シリーズでは、アメリカの”貧乏な家の男たちが兵隊になって沖縄に来ているというルーツをみたい” *といった思いからアメリカに飛びます。
また、「沖縄と自衛隊」シリーズでは、”自衛隊がPKOでどんなことをしに行ったのか、カンボジアに観に行こうと決めた” *と、カンボジアに赴いて撮影を行いました。
石川真生「沖縄と自衛隊」より 1991年-1995年, 2003年-
地元である沖縄での撮影であってもその姿勢は変わらず、「ヘリ基地建設に揺れるシマ」では、沖縄の中でも分かれる賛成派と反対派の両方の話を聞き、自分の意見も言いながら撮影を行っています。
石川真生「ヘリ基地建設に揺れるシマ」より 1996年-
こうして内側から撮影された写真は、さらにそのコミュニティの中の一人ひとりにも目を向けているようすも伺えます。
石川真生「沖縄芝居ー仲田幸子一行物語」より 1997年-1992年
「米軍の犯罪は憎かったけれど、米兵一人ひとりには恨みはなかったよ。」 *という石川。
石川真生「基地を取り巻く人々」より 1989年-
沖縄に駐留する米兵に対して厳しい目を向けながらも、黒人バーで働き、そこでの米兵との対話を通じ、「兵隊はひとつのコマでしかないわけさ。一番偉くて命令する人たちは、ワシントンにいるわけじゃない。この人たちは、美味しいものを食べながら命令するだけさね。(中略)だから私は彼ら個人個人をバッシングできないよ。」 *と述べるなど、組織と個人とは感情を切り離して撮影する姿勢も印象的です。
石川真生「港町エレジー」より 1983年-1986年
展示でも、なまなましい一人ひとりの人間に目を向けた写真に目を引かれます。
後半では、近年とりわけ力を注いでいる《大琉球写真絵巻》がダイナミックに展示されています。
石川真生《大琉球写真絵巻 パート1》 2014年
本作は、2014年より1年に1作品ずつ制作しているシリーズ。
沖縄の庶民の歴史をテーマとした、写真作品を複数つなぎあわせ、巨大な絵巻のように仕上げたものです。
石川真生《大琉球写真絵巻 パート1》 2014年
今回の展覧会では、最初のシリーズであるパート1と、沖縄以外では初の展示となるパート8,9, さらに、最新作となるパート10を展示。
パート1は、江戸時代の「琉球征伐」にはじまり、明治時代の「琉球処分」、第二次世界大戦、戦後、そして現代と、沖縄の歴史を描く創作写真となっています。
石川真生《大琉球写真絵巻 パート1》 2014年
一方、ギャラリーの広いスペースの隅から隅までをつかって展示されるパート8, 9, 10は、現代に沖縄で生き、活動をする個人個人に焦点を当てた作品です。
”自分で自分を演じてもらう”という方法で撮影された写真は、まさに、現代の生の沖縄の声が表現されているように感じられます。
(左) 石川真生《大琉球写真絵巻 パート9》 2021年-2022年、(右) 石川真生《大琉球写真絵巻 パート10》 2022年-2023年
なお、本展覧会では、来館者に14,000文字にもおよぶハンドアウト(資料)が配布されます。
石川の言葉をもとにして各作品の背景に迫るこちらの文章も、写真とあわせてご覧ください。
石川真生《大琉球写真絵巻 パート9》 2021年-2022年
展覧会のオープニングで、石川はまず「私は沖縄人です。日本人ではありません。」「私が今爆発させている思いを、写真を見てもらえば分かると思います。私は、気持ちを分かち合うためにここに来ているわけではありません。」と強い口調で語りました。
「わたしに何ができるか?」という展覧会のタイトルからは、沖縄という土地で50年以上最前線に立って撮影を続けてきた石川が、写真家である自身の使命として考えてきたことや、写真を通じて伝え続ける覚悟が伝わってくるようにも感じられます。
今回の個展に対しての強い思いを語った 石川真生(「石川真生 ─私に何ができるか─」展にて)
本展の作品はどれも、観光客として沖縄を訪れる中では見えづらい沖縄の側面を捉えたもので、その写真や文章の中にはショッキングに感じられるものもあるかもしれません。
「私は沖縄しか撮っていないです。沖縄人の生き方しか撮っていない。私は死ぬまで沖縄の写真を撮るつもりです。」と語る石川が、各時代の生の沖縄を内側から撮りつづけた写真。ぜひ、現地でご覧ください。