特別展「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」/大阪歴史博物館

川瀬巴水が描く四季折々の美しい風景、10年ぶりに大阪へ【大阪歴史博物館】

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2024年10月21日

大正から昭和にかけて活躍した木版画家・川瀬巴水(かわせはすい、1883-1957)の特別展「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」が大阪歴史博物館で開催中です。

巴水の大阪での大規模展覧会は10年ぶり。初期から晩年までの作品約170点を集め、歴史ファンのみならずアートに興味のあるかたも楽しめる展示となっています。

新版画とは

川瀬巴水は、「新版画」で有名な木版画家です。

新版画とは、絵師、彫師、摺師、版元の4者一体で制作された“多色摺木版画”のこと。
それまでの版画と異なるのは、その色使いなど新たな表現です。本展では、色鮮やかな新版画の作品が並びます。

伝統技術を継承しながら、色彩豊かに日本の四季折々の風景を表現した巴水は、新版画を代表とする木版画家となっていきます。

川瀬巴水《西伊豆木貞》1937(昭和12)年 版元・渡邊木版美術画舗

版元・渡邊庄三郎との出会い

巴水にとってのターニングポイントは、新版画を提唱する版元・渡邊庄三郎(わたなべしょうざぶろう)との出会い。

もともと鏑木清方(かぶらききよかた)門下となって美人画を描いていた巴水。
渡邊庄三郎と出会ったことで版画家としての道を歩み始めることになります。

初期には「旅みやげ第一集」や「東京十二題」、「東京十二ヶ月」などの風景画シリーズを制作。

「東京十二ヶ月」の一枚《月嶋の渡舟場》は、東京・月島の川辺のようすを描いた作品です。
月島の他にも麻布や谷中の風景も描かれ、その風景に見覚えがある人も多いのでは。

「旅みやげ第二集」では、大阪の風景を描いた《大坂道とん堀の朝》もあります。

早朝の道頓堀でかき料理を提供するかき船という水上生活者の船が描かれていて、静かで落ち着いた当時の道頓堀のようすを知ることができます。

川瀬巴水《大坂道とん堀の朝》旅みやげ第二集 1921(大正10)年 版元・渡邊木版美術画舗

関東大震災で巴水が失ったものと得たもの

巴水は1923年に起きた関東大震災で、画家にとって命とも言える写生帖などすべての画材を失います。

途方にくれる巴水の背中を押したのは、新版画の道をともに歩んできた渡邊庄三郎でした。

巴水は新たなる作品づくりのために、各地の風景を描こうと生涯最長の旅へ出ることにしたのです。

川瀬巴水《芝増上寺》東京二十景 1925(大正14)年 版元・渡邊木版美術画舗

震災前は輪郭が荒く、暗いトーンの作品も多い巴水ですが、震災後は明るい色彩を強調し、ありのままを描くより写実的な作風へと変化します。

震災後に描かれた《芝増上寺》は巴水作品の中で、もっとも売れた作品。雪の白さと建物の赤の鮮やかなコントラストが印象的です。

川瀬巴水《馬込の月》東京二十景 1930(昭和5)年 版元・渡邊木版美術画舗

《芝増上寺》に次いでよく売れたと言われるのが、《馬込の月》です。

馬込に洋館を新築し、移り住んだと言われる巴水。本作は、自宅から歩いて20分ほどのところにあった3本松を描いた作品です。

新版画を象徴する2作品、大阪歴史博物館でぜひチェックしてみてください。

戦後も海外から高い評価を

国内外で高い評価を得るようになったものの、自身の作風にマンネリ化を感じ始めた巴水。
スランプを脱するために、画家仲間とともに朝鮮半島へ渡ります。

異国の風景や風俗の新鮮さに触れた巴水は、震災前に描いていたような思い切った構図と、今まで以上に細やかな描写で、次々に作品を生み出していくのです。

戦前から海外でも知られていた巴水ですが、戦後もGHQ関係者らからの肉筆画制作の依頼があり、アメリカの日本版画展に出品するほどに人気が高まりました。

アップル・コンピューターの共同創業者であるスティーブ・ジョブスは、新版画のコレクターとして知られていますが、特に巴水の作品を好んで集めていたのだそう。

《“The Japan Trade Monthly“表紙(No.68)》1950(昭和25)年 版元・渡邊木版美術画舗

巴水の国際的な活躍を背景に日本電報通信社(現・電通)は、海外向け英文雑誌『The Japan Trade Monthly』の表紙を依頼。
日本の風景の中にサンタクロースが描かれた“和”と“洋”が混ざり合うような作品から、巴水が海外でも人気があったことを感じます。

川瀬巴水《平泉金色堂》1957(昭和32)年 版元・渡邊木版美術画舗

本展には、巴水の作品の中で一番希少価値が高いと言われる《平泉金色堂》も展示。
岩手県にある中尊寺金色堂を描いた本作は、巴水が病気と闘いながら制作した最後の1枚です。

未完成のまま巴水がこの世を去ってしまったため、最後は渡邊庄三郎の手によって仕上げられ、百箇日の法要の際に親族や知人にのみに配られたという貴重な作品でもあります。

まとめ:新版画の世界へようこそ!

新版画の特徴・多色摺木版画をたっぷりと味わうことができる本展。

版画とは思えないような線の細かさと柔らかな色使いを間近で観ることがでるチャンスです。

川瀬巴水が日本全国を旅して描いてきた作品の中には、ここ行ったことある!なんて風景も。川瀬巴水について詳しく知らないかたでも楽しめる特別展「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」。ぜひ足を運んでみてください。