響きあう20 世紀美術 彫刻の森美術館×横須賀美術館/横須賀美術館

彫刻の森美術館×横須賀美術館 展示66点「響きあい楽しんで」【横須賀美術館】

2024年12月2日

彫刻の森美術館×横須賀美術館 展示66点「響きあい楽しんで」【横須賀美術館】

「響きあう20 世紀美術 彫刻の森美術館×横須賀美術館」が、横須賀美術館で12月22日まで開催中です。

箱根地域のさまざまな美術館と横須賀美術館が連携して行う「箱根・横須賀連携企画」の一環で行われたもので、2023年に開催された第1弾、箱根ラリック美術館との連携企画「明日への祈り展 ラリックと戦禍の時代」に続く第2弾となります。

見どころは彫刻の森美術館の重要コレクションであるピカソやヘンリー・ムーアの作品、そしてふだんは並べて展示されることのない両館の作品同士の響き合いです。前日の内覧会を取材しました。

2美術館の作品で、1880s~2000sまでを概観

本展は「アートでつなぐ山と海」のサブタイトルのとおり、海を望む横須賀美術館と山に囲まれた箱根地域にある彫刻の森美術館が連携する企画展です。

今年開館55周年を迎えた彫刻の森美術館からは39点が出品され、横須賀美術館のコレクション27品と合わせた計66点が展示されています。

展示構成は1880年代から2000年代までを年代順にたどるもので、各年代で「人物像」「室内の描写」などテーマ別に分かれています。


メダルド・ロッソ《世話やきの老女》1883年 彫刻の森美術館(公益財団法人 彫刻の森芸術文化財団)所蔵
即興劇に登場する老女を描いた作品

展示は1880s~1930s「女性像と風景」から始まります。最初に登場する作品は、ロダンとも交流のあったイタリア人作家、メダルド・ロッソの作品です。印象派の要素を彫刻に取り入れ、光の中での動きを意識した作風で知られています。

ロッソの作品は少なく、現存する作品は40作に満たないそうですが、彫刻の森美術館ではその内14点(2020年時点)を所蔵しているとのことです。


佐伯祐三《窓のある建物;パリ風景》1925年 横須賀美術館所蔵 26歳の時の作品だが、30歳で夭折したため晩年の作ということになる

横須賀美術館から、佐伯祐三の作品《窓のある建物;パリ風景》です。1924年にパリ留学し、1年後に現地で描かれた作品です。この後留学中に精神をすり減らし、パリで亡くなります。佐伯はモーリス・ユトリロの影響を受けて、パリの街角を多数描きました。

横須賀美術館の所蔵品図録「横須賀美術館コレクション選」の解説に、“画家の前に立ちはだかる苦難を暗示しているかのようだ。”とあります。

夭折した作家の作品を観る時はその後の運命を思わずにはいられないものですが、個人的に筆者はパリの街並みの詩情も感じました。

*夭折(ようせつ)・・・若くして亡くなること。

作品同士の響き合いを楽しむ


朝倉文夫《親子猫》1935年 彫刻の森美術館(公益財団法人 彫刻の森芸術文化財団)所蔵
作者のほとばしる猫愛を感じる作品

明治から昭和にかけて活躍した彫刻界の重鎮、朝倉文夫の《親子猫》です。子猫2匹と親猫が折り重なって寝ています。朝倉は猫好きで知られ、一時は自宅で19匹飼っていたそうです。


三岸好太郎《金魚》1933年頃 横須賀美術館所蔵 《親子猫》の背後に展示されている

大正から昭和初期に活躍し、31歳で夭折した三岸好太郎の作品《金魚》です。さまざまな手法に挑戦した作家で、金魚鉢の線は、黒の下塗りに油彩を重ね、生乾きのうちにひっかいて線を描く独自の手法を用いています。

この作品を遠くから観ると、下写真のような配置になっています。


展示風景より

《親子猫》(彫刻の森美術館所蔵)の背後に、《金魚》(横須賀美術館所蔵)が展示されています。猫が昼寝から起きたら狙われそうな配置によって、ユーモラスな関係性が生まれていますね(上写真)。

このように、本展では「響きあう20世紀美術」のタイトルどおり、ふだんは二つの美術館に別々に所蔵されている作品を取り合わせて展示し、作品同士が響きあう趣向が各所に見られます。

横須賀美術館・沓沢耕介学芸員は、「ふだんは見られないような、作品の意外な組み合わせを楽しんでいただきたい」と話します。有名な作家の作品がある一方で、あまり紹介されない作家の作品もあり、自由な発想でキュレーションされているとのことでした。


横須賀美術館 展示室の円窓

彫刻の森美術館は7万m2の屋外展示場を擁するオープン・エア・ミュージアムです。

屋外で彫刻作品と自然光の変化を同時に楽しむ同館の展示方法に倣い、本展でも窓の隣に彫刻を展示しています。光の移ろいを意識し、外の風景と作品を合わせたのだそうです。

本記事では前半の展示をご紹介しましたが、後半も見どころ満載です。

目玉となる彫刻の森美術館のパブロ・ピカソ コレクションから、陶器にシンプルな顔を描いた《顔》他セラミックを含む作品計4点や、イギリスの彫刻家ヘンリー・ムーアの、原始美術への関心が反映された《3つの立っている像》。

また、アルミニウムで鋳造した、高さ1.7mの巨大な耳を並べた三木富雄の《耳1,2,3》など大型の作品も数点含まれ、見ごたえのある展示内容となっています。


横須賀美術館外観

冒頭でも触れましたが、彫刻の森美術館からは39点の作品が貸し出されています。前出の沓沢学芸員によると、今回は彫刻の森美術館にとっても大規模な貸出だそうです。

また、横須賀美術館は、神奈川県三浦半島の先端、県立観音崎公園の中にあり、正面に東京湾を望む、自然豊かな環境が魅力の美術館。120台収容の大規模な駐車場があり、三浦半島ドライブの目的地としてもおすすめです。

三浦半島には新鮮な魚介や地場野菜などを扱う店も多く、観光スポットも充実していますから、終日楽しめます。東京、神奈川近郊の方は、観光のついでに足を延ばしてみてはいかがでしょうか。