特別展「ノー・バウンダリーズ」/国立国際美術館

境界を軽やかに飛び越えるアーティストたち【国立国際美術館】

2025年3月3日
境界を軽やかに飛び越えるアーティストたち【国立国際美術館】

国立国際美術館、外観

大阪、中之島に建つ国立国際美術館
今ではすっかり中之島エリアの顔になっていますが、実はこの建物は2004年の移転時に新築されたものです。

移転前は大阪万博(1970年)に合わせて建てられた、万博美術館の建物を利用した美術館として、1977年に開館しました。

万博と縁の深い同館では現在、大阪・関西万博と同時期に開催する特別展「ノー・バウンダリーズ」が開催中です。

アートは境界にどう向き合うのか

「ノー・バウンダリーズ」のテーマは、現代社会の「境界」。

会場エントランス

社会における境界の形はさまざま。
国や宗教の境はもちろん、国籍や人種、性的指向などのアイデンティティ、あるいは経済格差や情報格差も境界といえます。

境界はグローバル化や革新的な新技術の登場で日々変化していますが、ときに境界が新たな社会の分断や排除を生んでしまうこともあります。

そんな境界の存在と現代のアーティストたちはどう向き合うのでしょうか。

ヴォルフガング・ティルマンス (左)《ヴェッシェベルク(洗濯物の山)》2012年 (右)《アストロ・クラスト、a》2012年 全て国立国際美術館蔵

キャンバスのあちらとこちら

ゴッホ作品の登場人物に自ら扮装し、その姿を写真に収める森村泰昌。

森村泰昌 (左)《肖像(ゴッホ)》1985年 (右)《肖像(カミーユ・ルーラン)》1985年 全て国立国際美術館蔵

精巧な小道具とメイクを用いて、油絵と現実の境界を大胆に飛び越えます。

名画に自らを重ね合わせる森村は、まるでキャンバスの内側に飛び込んでしまったかのようです。

廣直高 《無題(陽)》2022年 国立国際美術館蔵

下部にポッカリ二つの穴が空いた廣直高の作品。

キャンバスの向こう側にいる廣は、二つの穴から腕を出して絵の具を塗り重ねます。さながらキャンバスを着ているかのよう。

廣自身はもちろん、キャンバスが今どうなっているのかきちんと見ることはできません。

キャンバスの中に飛び込む森村と、キャンバスを着る廣。多様な方法で画面という境界の内と外を行き来する作家たち。

その作品を眺めているうち、次第に「観る側」と「観られる側」の境界さえ曖昧になっていくようです。

人種やジェンダーの境界を問うミン・ウォン

50年代のハリウッド映画「イミテーション・オブ・ライフ」を下敷きにしたミン・ウォンの映像展示。

ミン・ウォン 《ライフ・オブ・イミテーション》2009年 国立国際美術館蔵

映画ではアメリカ社会における黒人差別が鋭く描かれた場面を、作家自身が生まれたシンガポールの主要民族である中華系、マレー系、インド系の俳優3名で再演しています。

同じ役柄を異なる人種の俳優が演じた映像が2つの画面で同時進行し、さらに映像が進むと配役がころころと入れ替わります。

ミン・ウォン 《ライフ・オブ・イミテーション》2009年 国立国際美術館蔵

往年の映画で描かれた差別問題を、人種やジェンダーの境界をあえて曖昧にしながら再演した本作。

元の映画から60年以上経った今も変わらず社会に横たわる境界の存在を強く印象づけます。

ゴミか、宝物か

会場でも人気を集めていた田中功起の映像作品。

田中功起 《だれかのゴミはだれかの宝物》2011年 国立国際美術館蔵

アメリカ滞在中、公園で拾ったヤシの落ち葉をフリーマーケットで販売した一部始終を記録した映像です。

道行く人は「正気か?」「いらないよ」なんて笑いながら田中と会話を交わします。

これはゴミか。それともまだ誰も気付いていない価値があるものなのか。田中は人びとと軽やかに議論を重ねていきます。

三島喜美代 《BOX CG-86》1986年 国立国際美術館蔵

その隣に展示されるのは、生前「ゴミばっかりつくっています」と語った三島喜美代。

昨年惜しくも亡くなった彼女は、陶とシルクスクリーンでゴミを再現。

段ボール箱と読み捨てられた新聞は本物そっくりで、一目見ただけでは陶芸作品とは思えません。

いらないとされたものを通して、「もの」の価値を問い直すアーティストたち。
単なるものとアートの境界を、私たちはどこに線引きするのでしょうか。

国立国際美術館での同時開催も見応えたっぷり

国内外のアーティストによるさまざまな越境を提示する本展を通じて、社会や私たちを取り巻く境界について考えてみるのはいかがでしょうか。

また、国立国際美術館では「コレクション2 Undo, Redo わたしは解く、やり直す」も同時開催。

既存の素材や構造を、一度ほどいて再構成する作品に着目しています。

国内の公立美術館では初収蔵となるルース・アサワ。彼女の作品は1970年の大阪万博でも展示されたそうです。

ルース・アサワ 《無題(S.317、壁掛け式、中央部は開いた五芒星と枝が重なり合う形にワイヤーを縛ったもの)》1965年 国立国際美術館蔵

砂漠に自生する植物からインスピレーションを得た大作。放射状に広がるワイヤーは生命の躍動するエネルギーを感じさせます。

ブブ・ド・ラ・マドレーヌ 《人魚の領土─旗と内臓》2022年 国立国際美術館蔵

ブブ・ド・ラ・マドレーヌの「人魚の領土─旗と内臓」。

人魚の体からこぼれる内臓には、着古した服やシーツといった古布を使用。
今まで身体を包み守ってきたものがほどかれ、体の内側にあるものと入れ替えられています。

その他にも、同館が収蔵するルイーズ・ブルジョワ、塩田千春などの作品も展示される充実した内容。
こちらもぜひお見逃しなく。

Exhibition Information

展覧会名
特別展「ノー・バウンダリーズ」
開催期間
2025年2月22日~6月1日
会場
国立国際美術館
公式サイト
https://www.nmao.go.jp/