黙然たる反骨 安藤照 /渋谷区立松濤美術館

没後80年。彫刻家・安藤照の生涯を紹介【渋谷区立松濤美術館】

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2025年7月9日

渋谷駅の待ち合わせ場所と聞いて思い浮かべるのは、忠犬ハチ公像。
現在の忠犬ハチ公像は、実は2代目だということをご存知ですか?

没後80年。彫刻家・安藤照の生涯を紹介【渋谷区立松濤美術館】

安藤照《忠犬ハチ公》制作年不詳 谷内眞理子氏蔵

初代・忠犬ハチ公像の作者である安藤照(1892-1945)を網羅的に紹介する展覧会が、渋谷区立松濤美術館で開催中です。

渋谷を代表する有名な作品を作った彫刻家である安藤照。
しかし、どうしてその名前は広く知られていないのでしょうか。

本展では、《忠犬ハチ公像》の影に隠れ、これまで語られる機会の少なかった安藤照の現存する作品30点を展示。

さらに、関連する作家の作品とともに、安藤照の生涯を紹介します。

黙然たる反骨 安藤照 展示風景

忠犬ハチ公像を作った彫刻家
安藤照

安藤照は、数々の彫刻家がしのぎを削った昭和時代の彫刻界で、活躍を期待された存在でした。

代表作に《忠犬ハチ公像》(初代)の他、鹿児島県のモニュメントとなっている《西郷隆盛像》を制作しています。

このように現代でも語り継がれるモニュメントを手がけていますが、その名前が歴史に埋もれているのは不思議ですよね。

安藤は1945年5月に、渋谷区代々木の自宅兼アトリエが空襲にさらされ、自身もその犠牲となりました。

作品のほとんども、その時の空襲により焼失してしまったのだそう。

本展では、戦火を免れた貴重な作品30点を紹介しています。

ウサギや犬のカワイイ作品も!

(左)堀江尚志《兎》1934年 岩手県立美術館蔵/(中央)安藤照《兎》制作年不詳 鹿児島市立美術館蔵/(右)小室達《仔兎》制作年不詳 しばたの郷土館蔵

動物好きであった安藤は、犬やウサギ、魚などさまざまな動物彫刻を制作しました。

こちらの《兎》は、本展のメインビジュアルにも使用されています。

長い耳にまるまるとしたフォルムが特徴的なウサギは、彫刻家として作品にしたくなるモチーフだったとみられます。

本展では、安藤の《兎》のほか、親友の堀江尚志、後輩の小室達が制作した作品を並べて展示。

作家によって表現が違いますので、そこにも注目してみてください。

故郷や人びとのための制作

当時の彫刻家の多くは、故郷を離れて東京や京都などの美術学校に通って彫刻家としての実力を養っていました。

そして、卒業後は宮設の美術展覧会に出品を重ねてキャリアを築きます。

一方で大都市を拠点に、生まれた故郷でも活動を展開し、地元の名士たちの肖像彫刻やモニュメントの制作に励む作家も多くいました。

安藤もそのひとり。
東京では団体展への出品を行い、故郷・鹿児島では自身を支えてくれる人びとのために作品を制作しました。

故郷の鹿児島では《西郷隆盛像》を、自身が活動拠点としていた渋谷では《忠犬ハチ公像》を制作しています。

安藤照《忠犬ハチ公》制作年不詳 谷内眞理子氏蔵

中央の作品は、1934年完成の《忠犬ハチ公像》の建設募金活動の返礼品としてつくられたとされる小型のハチ公像の原型です。

また左にあるのは、小型の原型をもとに作られたテラコッタ製のハチ公像で、安藤の死後、アトリエ跡から発見された貴重な作品です。

安藤照が手がけた《忠犬ハチ公像》は、戦時中に行われた金属供出によって失われました。

現在の《忠犬ハチ公像》は、安藤照の息子・安藤士によって制作されたものです。

本展では、戦争によって失われた初代の《忠犬ハチ公像》のおもかげも紹介しています。ぜひ、会場でご覧ください。

彫刻家・安藤照を知る展覧会

激動の昭和に、「ただ黙々と仕事をして居ります」と語った安藤の作品は、時世の雰囲気に逆らうかのように、素朴で穏やかなものです。

知られざる彫刻家、安藤照の生涯を紐解く本展。安藤の作品は新鮮に映ることでしょう。