ピエール=オーギュスト・ルノワール/10分でわかるアート
2021年11月17日
デザインの先生/21_21 DESIGN SIGHT

企画展「デザインの先生」展示風景
プロダクト、グラフィック、UI、ビジネス…あらゆる場面で「デザイン」という言葉が使われるようになり、私たちはデザインに囲まれて暮らしています。
でもその一方で、「デザインって何なんだろう?」と感じることもあるのではないでしょうか。
21_21 DESIGN SIGHTで始まった企画展「デザインの先生」は、20世紀を代表する6人のデザイナーを“先生”として紹介しながら、生活や社会の今後について考えるヒントを探る展覧会です。
ブルーノ・ムナーリ、マックス・ビル、アキッレ・カスティリオーニ、オトル・アイヒャー、エンツォ・マーリ、ディーター・ラムス——6人の作品や言葉、映像を通して、そのデザインの哲学に迫ります。
会場に入ると、6人の先生たちの写真と、それぞれの哲学を象徴する言葉が並びます。

企画展「デザインの先生」展示風景
続く展示室で展開されるのは、壁面3面を使った没入感のある映像インスタレーション。
象徴的な言葉や作品とともに、インタビューや講義の映像が投影され、それぞれの「先生」の表情・声・身振りから、それぞれの人柄が伝わってきます。
この“ホームルーム”のような入り口から、続く展示室では、それぞれの先生の仕事に具体的に迫っていきます。

企画展「デザインの先生」ギャラリー2 展示風景
ブルーノ・ムナーリは、デザイナーでありアーティスト、絵本作家、教育者でもあった人物。
会場では、カラフルでユニークな幾何学形状を組み合わせたオブジェや絵本などが展示されています。

ブルーノ・ムナーリ 展示風景
子ども用家具《アビタコロ》や、代表作ともいわれる天井吊り下げ照明《フォークランド》は、問いから発想していく思考の過程とともに紹介。

ブルーノ・ムナーリ 展示風景
常識を批評的なまなざしで問い直す姿勢や、そして遊びやユーモアをデザインや教育に軽やかに取り入れる視点など、後世にも大きな影響を与えてきました。
マックス・ビルは、デザイナーであり建築家、芸術家、グラフィックデザイナーなど多様な顔を持ち、バウハウスの理念を継承するウルム造形大学を創設・指導した人物です。

マックス・ビル 展示風景
会場では、多目的に使える名作のプロダクト《ウルム スツール》から、数学的思考にもとづく《ひとつのテーマに対する15のヴァリエーション》といったアート作品までが展示されて、彼の提唱する「プロダクトフォルム」(形状・素材・用途・生産工程を含む全体を「フォルム」と捉える)という考え方を体感できます。

マックス・ビル 展示風景
身の回りのモノから都市までを「環境」として捉え、美しさも機能の一部とみなす視点は、その後のデザイン教育やプロダクトデザインに大きな影響を与えました。
イタリアを代表する工業デザイナー、アキッレ・カスティリオーニは、照明や家具を通じて近代デザインに大きな影響を与えた人物です。

アキッレ・カスティリオーニ 展示風景
会場には、綿毛のような照明《TARAXACUM》や優雅な曲線が印象的な照明《ARCO》、自転車サドルに着想を得たスツール《Sella》などが展示されます。

アキッレ・カスティリオーニ 展示風景
さらに、事務所に集められた無名のオブジェを撮影した写真パネルも展示。
身の周りのものと対話をするようにしてかたちを導き出していった姿勢は、自己表現ではなく“観察から生まれるデザイン”という考え方を後世に示したと言えるでしょう。
オトル・アイヒャーは、ドイツを代表するグラフィックデザイナーであり、ウルム造形大学の設立者のひとり。
ルフトハンザ航空や1972年ミュンヘンオリンピックのポスターやピクトグラムを手がけました。

オトル・アイヒャー 展示風景
展示では、こうしたCI計画のポスターや資料に加え、南ドイツのローティスで生活と創造の場をつくった試みも紹介されています。
情報を視覚化するだけでなく、デザインと日々の生活、社会との関わりを模索し続けたその姿勢は、今日のビジュアルコミュニケーションの土台のひとつとなりました。

オトル・アイヒャー 展示風景
イタリアの工業デザイナーでアーティストのエンツォ・マーリは、ムナーリの紹介でダネーゼ社と協働し、デザイナーとしての活動を開始しました。

エンツォ・マーリ 展示風景
会場では、ダネーゼ社とのプロダクトに加え、普段は家具の「買い手」である消費者に向けて図面を配布し「自分で作り、完成写真と感想を送ってほしい」と呼びかけた1974年のプロジェクトも模型とともに紹介されています。

エンツォ・マーリ 展示風景
表面のデザインで満足してしまう態度に怒りを抱き、「形の背景にある試行錯誤や思想まで見る」ことを問い続けた姿勢が伝わってきます。
ディーター・ラムスは、ブラウン社などで活躍したドイツを代表するインダストリアルデザイナー。建築の出自から「製品も空間を構成する要素」と捉えてきました。

ディーター・ラムス 展示風景
会場では家具やオーディオ機器などが並び、そのプロダクトの“背面”まで見せる展示によって、見えない部分に至るまで徹底して設計された構造を体感できます。

ディーター・ラムス 展示風景
「良いデザインの10ヶ条」や環境への強い問題意識に裏打ちされたミニマルなデザインは、後のプロダクトデザイン全般にも大きな影響を与え続けています。
6人の「先生」は、仕事の分野もスタイルもばらばらですが、その奥には共通する軸があると、本展のディレクター・川上典李子は語ります。
ひとつ人間の生活全体を見据えて、人が「本当に必要なもの」を考え抜いてデザインを行ってきたこと。
もうひとつは、専門を超え、統合的な視線でデザインを捉えて活動してきたこと。そして最後に、人びとの幸せを考え、クオリティの高い美を生み出していったということです。
デザインという言葉が幅広い意味を持つ今、改めてその原点の思想に立ち返ります。

廊下に掲出されるアキッレ・カスティリオーニの言葉

6人の「先生」は、デザインの専門家だけの世界にいる存在ではなく、私たちの暮らしの背景で、ものの見え方や社会のかたちを静かに変えてきた人たちなのだと気づかされる展覧会です。
見終えたあとには、スマホや家電、街のサインなど、いつもの風景が少し違って見えてくるかもしれません。
日々の暮らしとデザインの関係を考えてみるきっかけとして、足を運んでみてはいかがでしょうか。