塩田千春の作品から他者との「つながり」を考える。圧巻のインスタレーションに注目
2024年10月3日
3月になると、春の気配がぐっと近づいたように感じませんか? また桜の季節がやってくると思うと、なんだかわくわくしてきますよね。
さて、昔から日本人を魅了してきた桜の花ですが、どうしてこれほど愛されつづけてきたのでしょう?
そんな素朴な疑問から、今回は桜にまつわる文化と美術について、いろいろとご紹介します。
読み終わったあと、桜をモチーフにした美術品やお花見がもっと好きになれそうと思っていただけたら嬉しいです。
桜は、古くより神が宿る木として大切にされてきました。
ただ、大陸文化の影響が強かった奈良時代、貴族たちに好まれたのは梅の花でした。『万葉集』ではたくさんの梅の歌が詠まれ、梅の鑑賞 を楽しむ行事もありました。
桜の人気が本格的に高まったのは平安時代です。
特に奈良県の吉野山は桜の名所として有名で、後世でもよく和歌に詠まれたり美術工芸品のモチーフになったりしています。
もとは紅葉狩りのように、山に生えている花を見に行く「桜狩り(さくらがり)」が主流でしたが、次第に宮中や貴族の邸宅の庭にも木が植えられていきました。
このころ、単に「花」といえば桜を指すようになりました。当時は、日本独自の文化が育っていった時期でもあります。華やかに咲いて美しく散る桜の姿が、より日本人の感性に合っていたのかもしれません。
貴族の文化だった花見は、時代が進むにつれて庶民にも広まります 。特に江戸時代は、今でも人気のお花見スポットがいくつも生まれました。
ちなみに、江戸の流行の発信地だった新吉原では、外から桜の木をいくつも持ち込んで大通りに植えていました。しかも、散る時期に入ると、せっかく植えた木を丸ごと撤去してしまったそうです。その豪快さが、江戸っ子にとって粋だったのでしょう。
歌川豊国筆『新吉原櫻之景色』(19世紀)
国立博物館所蔵品統合検索システム(https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/A-10569-2485?locale=ja)
明治時代以降も桜は国内の至るところに植えられつづけ、友好の証として外国への贈り物にもなりました。そうして1000年経った今でも、桜は日本人にとって特別な花として親しまれているのです。
現代の日本人の多くが、「桜」と聞いて想像するのはソメイヨシノではないでしょうか。
昔は山桜が一般的でしたが、人里にも植えられるようになると 、品種改良が盛んになりました。
ソメイヨシノも、そうしたなかで生まれた桜のひとつです。葉と一緒に真っ白で大きめの花が咲くオオシマザクラと、葉より先に小ぶりの薄紅色の花が咲くエドヒガンを掛け合わせて作られました。
ソメイヨシノは、ほんのり色づいた花が大きめに咲いて、花が散り始めてから葉が出るので、2種類の特徴をよく受け継いでいます。
今ではすっかり桜の代表格となっているソメイヨシノですが、生まれたのは江戸時代後期、特に昭和時代になってから全国へ広まった品種です。
つまり、それ以前に制作された美術工芸品にあるのは別の種類の桜になります。
『色絵花形桜文小皿』 (17世紀)
鳥居清長筆『飛鳥山花見』 (18世紀)
ソメイヨシノとの違いで一番わかりやすいのは、花と一緒に葉が出ているところでしょうか。
八重桜や枝垂れ桜は平安時代から確認されていますし、長い歴史のなかでさまざまな品種が生み出されました。現代では、静岡県河津町のカワヅザクラも、ソメイヨシノとは違った魅力があって人気ですよね。
日本人にとって身近な花ですが、まだ出会っていない桜は意外と多いのではないでしょうか。
今度桜をモチーフにした美術品を見るときは、ぜひ花の形や色などにも注目してみてくださいね。
広瀬花隠筆『花隠桜花帖』 (江戸後期)
国立国会図書館ウェブサイト(https://dl.ndl.go.jp/pid/2539130/1/15)
今では日本のあちこちでお花見を楽しめますが、特に有名なのはどこだと思いますか?
「日本三大桜の名所」と呼ばれるのは、先述の吉野山(奈良県)、高遠城址公園(長野県)、弘前公園(青森県)です。それぞれ植えられている品種が異なるので、その地域ならではの桜の風景が楽しめます。
また、単体の木が有名な三春滝桜(福島県)、神代桜(山梨県)、淡墨桜(岐阜県)をまとめて「日本三大桜」と呼ぶことがあります。
3本とも、今から約100年前の1922年に、桜の木として初めて国の天然記念物に指定されました。
どれも樹齢は1000年を超えていて、神代桜に至っては1800年または2000年と言われています。
スフマート読者としては、やはり桜もミュージアムも楽しみたいですよね。そこで、桜の季節に行きたい館を厳選してみました。
郷さくら美術館は、現代日本画の専門美術館です。
東京館のある中目黒は、都内有数のお花見スポット。その時期には「郷さくら美術館 桜花賞展」が毎年のように開催され、新進気鋭の日本画家による桜をモチーフとした作品を楽しめます。
ウェブサイト内の「おうちで郷さくら」では過去の展覧会の様子が見られるので、画面越しのお花見もできます。
桜の花も美術も好きな人にぴったりのミュージアムです。
東京国立博物館では、春になると恒例企画「博物館でお花見を」が開催されます。
本館のあちこちで、桜モチーフの絵画、陶磁器、着物など幅広いジャンルで質の高い日本美術が鑑賞できます。
また、本館北側の庭園にある桜はもちろん、行き帰りに上野公園でもお花見できるので、充実した時間が過ごせます。
東京都庭園美術館といえば、1933年に建てられたアールデコの建築物。もとは皇族の邸宅だったこの館では、格式と趣きのある部屋を巡りながら美術品を鑑賞できます。
そして名前のとおり、庭園も魅力のひとつ。茶室のある日本庭園もおすすめですが、実は西洋庭園では、日本からワシントンへ寄贈されたあとに里帰りした「ワシントンザクラ」が見られます。
素敵な建築と桜を一緒に眺めたいという人に訪れてほしい美術館です。
日本美術画専門の美術館である山種美術館。春になると、桜をはじめ花をテーマにした企画展がよく開催されます。
江戸時代の作品も素晴らしいコレクションばかりですが、近現代の日本画家たちの名作をたっぷり堪能できるところが魅力です。
また、展示作品にちなんだ和菓子を館内のカフェで食べられるので、鑑賞後も充実した時間を過ごせます。
2022年に新しくオープンした、大坂中之島美術館。30年の準備期間を経ての開館は、大きな話題を呼びました。
専門は19世紀後半から現代までの美術とデザインで、いろいろな切り口の展覧会が楽しめます。真っ黒な外観をはじめ、建物にもいろいろなこだわりが見られます。
近くに流れる大川沿いはお花見スポットで、桜の季節には花見クルーズもできます。
関西で注目のアートスポットとお花見を楽しみたい人におすすめです。
東洋文庫ミュージアムは、東洋学研究の専門図書館の展示施設です。
図書館が所有する、東洋の歴史と文化に関する文献資料は約100万冊。その豊富な蔵書数を生かして、いろいろなテーマに合わせて資料を紹介する企画展を開催しています。
一般の美術館とは少し違った鑑賞体験ができるので、本が好きな人にはぜひ行ってみてください。
この館の近くにはシダレザクラで有名な庭園・六義園があり、セットで入場料が割引になるコンビチケットも販売されています。
桜と美術についてのコラムはいかがでしたか?
桜の花は日本美術でおなじみのモチーフですが、意外と「それは知らなかった!」という情報もあったのではないでしょうか。
上に挙げた施設以外でも、この季節におすすめの館はたくさんあります。
せっかくの桜の季節、ぜひ素敵な時間をお過ごしください。