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2024年11月1日
「10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。
作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。
今回は、土佐派の地位を確立した絵師「土佐光信」について詳しくご紹介。
「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。
《土佐光信像》
足利氏が実権を握り、始まった室町時代。生け花や能など現在でも残る日本の伝統文化が花開いた時代です。
日本美術史の中でも重要とされる室町時代中期に、ひとりの絵師が活躍します。
名前は土佐光信(とさみつのぶ、青年不詳-1525年頃)。室町中・後期の「土佐派」を代表する絵師です。
土佐派とは、文化の和様化が進んだ平安時代に誕生した「やまと絵」の伝統を受け継ぐ画派のことで、狩野派と並ぶ画派として江戸末期まで続きました。
その土佐派を代表する絵師、光信は土佐光弘(とさみつひろ)の子として生まれます。
宮廷の絵所預(えどころあずかり*)、幕府の御用絵師を務めた光信。絵師として最高の地位をきわめ、土佐派の画系を確立しました。
*絵所預:絵所に所属する絵師の長。絵所とは、宮廷の屏風や障子などの絵画制作にあたる公的機関のこと。
《北野天神縁起絵巻》紙本著色 1503 北野天満宮
学問の神様で有名な菅原道真(すがわらのみちざね、845-903)を祀っている北野天満宮。
菅原道真は宇多天皇(うだてんのう、867-931)の優秀な右大臣でした。
彼の優秀さに嫉妬した藤原時平(ふじわらのときひら、871-909)により、身に覚えのない罪で道真は大宰府へと追放され、不遇な状況のまま亡くなります。
そして、道真の死後、自然災害が続くように。
当時の人びとや天皇は「この自然災害は道真による祟りだ」と思い、道真の怒りを鎮めるために北野天神社を建立しました。
《北野天神縁起絵巻》には12の北野天神にまつわる話が収録されています。
《清水寺縁起絵巻》紙本著色 1517 東京国立博物館
《清水寺縁起絵巻》には清水寺の始まりと本尊観世音菩薩の霊体験が描かれています。
ある日、奈良で修行をしていた僧侶、賢心(けんしん)は夢の中で「南の地を去れ」と言われます。
夢の指示に従い北に向かった賢心は京都にたどり着き、清らかな水が湧き出ている音羽の滝を発見しました。
その時、音羽の滝で修行していた修行者、行叡居士(ぎょうえいこじ)と出会います。
行叡居士から「この霊木で千手観音像を彫刻し、この地を守り、お堂を立ててほしい」と言われた賢心。
2年後、音羽の滝がある一帯の地を守り続けていた賢心と、鹿狩りに訪れた征夷大将軍の坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ、758-811)は出会います。
その際、殺生の罪深さを問われた坂上田村麻呂は賢心の考えに感銘を受け、千手観音像を御本尊にして清水寺を建立しました。
本作は音羽の滝にて賢心と行叡居士が話をしている場面が描かれています。
日本独自の情景や表現がみられる絵画を総称する「やまと絵」。平安時代に誕生以降、中国の絵画である「唐絵(からえ)」に対する概念として用いられました。
やまと絵は、室町時代以降に宮廷絵師を世襲する「土佐派」によって受け継がれていきます。
土佐派は、室町時代の応永・永享年間に、絵所預として活躍した藤原行広が「土佐」を号したのに始まるとされています。
その後、狩野派と並ぶ画派として江戸末期まで続きました。
室町時代、行広が創立した土佐派。その跡を継いで絵所預となったのが土佐光信です。
絵所には宮廷からの絵画制作依頼のほか、足利将軍家からも依頼がありました。
さらには、室町時代から戦国時代にかけて活躍した戦国大名、朝倉貞景(あさくらさだかげ)も土佐光信に京都の地図を描かせたといいます。
この光信が描いた京都の地図が後に誕生する洛中洛外図の始まりと言われています。
行広が得意とした柔らかい筆線と穏やかな色彩のやまと絵に、漢画系の画法を取り入れた光信。
こうした光信の活躍により土佐派の地位は確実なものとなっていきました。
絵所預として場を仕切っていた光信。
光信の活躍により土佐派は地位を確立し、発展していきました。
将軍からも依頼を受けるほどの実力の持ち主だからこそ、土佐派を確立できたのかもしれませんね。
【参考書籍】
・辻惟雄『日本美術史』株式会社美術出版社 2015年
・安村敏信『絵師別 江戸絵画入門』株式会社東京美術 2015年
・中西一雄『基本を押さえる美術歴史』株式会社美術出版社 2016年
・日本博学倶楽部『「名画の巨匠」 謎解きガイド』株式会社PHP研究所 2016年
・守屋正彦『すぐわかる日本の絵画』株式会社東京美術 2019年