アトリビュート/10分でわかるアート

10分でわかるアート

宗教画や神話画を鑑賞していると、登場人物が何かを持っていたり、特徴的な姿で描かれていたりすることに気づくかもしれません。

これらは単なる装飾ではなく、重要な意味を持つ「アトリビュート」と呼ばれるものです。

今回の「10分でわかるアート」では、美術作品の理解を深める鍵となる「アトリビュート」について詳しくご紹介していきます。

アトリビュートの秘密を解き明かす

アトリビュートとは、美術表現のひとつで、神や人物の特徴を表す持ち物や象徴的な要素のことを指します。

主に宗教画や神話画で多く見られ、描かれた人物が誰なのかを特定する重要な手がかりとなります。

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ《見よ、我は主のはしためなり(聖告)》1850年

例えば、十字架を持つ人物はイエス・キリストを表していたり、百合の花を持つ女性は聖母マリアを示していたりします。

これらのアトリビュートを知ることで、絵画の内容をより深く理解できるのです。

アトリビュートは、文字の読めない人びとにも物語や教えを伝える重要な役割を果たしてきました。

中世ヨーロッパでは、多くの人びとが文字を読めなかったため、教会の壁画や祭壇画に描かれたアトリビュートは、聖書の物語や聖人の生涯を理解する手助けとなったのです。

主要なアトリビュートは?

よく見られる主要なアトリビュートをいくつか紹介していきましょう。

たとえば、可憐で華やかなバラは、絵画の中でさまざまな象徴として描かれています。

愛の女神であるヴィーナスの持ち物として描かれることが多く、美と愛を象徴しています。

アドリアーン・ファン・ユトレヒト(1599年-1652年)

ヴァニタス(無常)画では、バラなどの生花が短命なことから、人生のはかなさや虚しさの象徴として使われます。

美しくもはかないバラの姿は、人生の移ろいやすさを表現するのに適しているのです。

このようにアトリビュートはさまざまな意味を持って、絵画の中に描かれています。

アトリビュートが登場する名作たち

アトリビュートが効果的に使われている有名な作品をいくつか見てみましょう。

レオナルド・ダ・ヴィンチ 「受胎告知」 (1472-1473)

レオナルド・ダ・ヴィンチ作《受胎告知》では、大天使ガブリエルが聖母マリアに神の子を宿すことを告げる場面が描かれています。

この作品では、マリアの純潔を象徴する白百合が描かれています。

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ『悔悛するマグダラのマリア』1550年ごろ カポディモンテ美術館、ナポリ

《懺悔するマグダラのマリア》では、マグダラのマリアのそばにある香油の壺がアトリビュートとして使われています。

これは後にイエスの足に香油を塗った罪深い女と同一視されているからです。

ヴェロッキオ、ダ・ヴィンチ他[『キリストの洗礼』1472年 – 1475年頃 ウフィツィ美術館、フィレンツェ

《キリストの洗礼》には、洗礼者ヨハネのアトリビュートである羊皮の衣と十字架の杖が描かれています。

このようにさまざまなアトリビュートが用いられています。

アトリビュートを知ることで、宗教画や神話画の内容をより深く理解できるようになるはず。

美術作品を鑑賞する際は、こうしたアトリビュートの使われ方にも注目してみてくださいね。

作品の意味がより深く理解できるはずです。

まとめ

アトリビュートは、宗教画や神話画などの美術作品を理解する上で重要な要素です。

登場人物の持ち物や特徴的な姿に注目することで、作品の内容をより深く読み解けます。

美術館で絵画を鑑賞する際は、描かれた人物が何を持っているか、どのような姿で描かれているかにもぜひ注目してみてくださいね。

アトリビュートを知ることで、作品の新たな側面が見えてくるかもしれません。

【参考書籍】
・平松洋『名画の謎を解き明かす アトリビュート・シンボル図鑑』株式会社KADOKAWA 2015年
・ミニマル+BLOCKBUSTER 『いちばんやさしい 西洋美術の本』 株式会社 彩図社 2021年

10分でわかるアートとは?

「10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。

作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。

「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。