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2024年11月21日
高橋龍太郎コレクション「ART de チャチャチャ ー日本現代アートのDNAを探るー」展/WHAT MUSEUM
東京の天王洲アイルにあるWHAT MUSEUMは、美術品の保管などのビジネスを展開する寺田倉庫が、作家やコレクターから預かるアート作品を公開する珍しいミュージアムです。
こちらで今、日本の現代アートが好きな方にも、伝統的な日本美術に興味がある方にも、現代と伝統の両方の視点から日本のアートの魅力を見つめられるような展覧会 高橋龍太郎コレクション「ART de チャチャチャ ー日本現代アートのDNAを探るー」展が開催されています。
展覧会では、日本屈指のアートコレクターである精神科医・高橋龍太郎氏の3,000点を超えるコレクションから、33作家、40点の作品が紹介されています。
特に90年代以降の日本の現代アートシーンを包括的に観ることができるコレクションです。
《無題》/ 鴻池朋子 2010年 ©Tomoko Konoike
(高橋龍太郎コレクション「ART de チャチャチャ ー日本現代アートのDNAを探るー」展 展示風景)
「ART de チャチャチャ」というタイトルには、「ニッポンチャチャチャ」の応援のように、日本の現代アートを盛り上げようという意味が。
日本の現代アートの魅力を探り、今回は、日本の伝統的な画材、技法、価値観を継承しながらも独自の視点で再解釈し、新たな表現を作り出している作家にフォーカスして紹介しています。
WHAT MUSEUMでは、2020年12月に開館した際の「-Inside the Collector’s Vault, vol.1-解き放たれたコレクション」展でも高橋龍太郎コレクションを紹介しており、今回は2回目の紹介。
前回は、コレクションのコアとなる作家や新たに収集した作品を中心に紹介していたのに対し、今回は、WHAT MUSEUMのこれまでの展覧会の中でも特にテーマ性が強く、全く違った趣向の展覧会となっています。
それでは会場へ。展覧会は5つのテーマの部屋で構成されており、それぞれに雰囲気の異なる空間演出も見どころです。
「自然と生命」をテーマにした1階の展示室は、夜を想起させるような薄暗い空間。
岡村桂三郎による大判の板絵作品や、ろうそくの一生を捉えた杉本博司の作品《陰翳礼讃》、井上有一の《月》の書や、井上を捉えた操上和美によるモノクロ写真などが並び、まるで展示室がひとつのインスタレーション作品のようです。
左から 《陰翳礼賛》/ 杉本博司 2000年 (c) 2000”HIROMI YOSHII EDITION” and Hiroshi Sugimoto
《獅子08-1》/ 岡村桂三郎 2008年、《白像03-1》/ 岡村桂三郎 2003年
小さい作品ながらも注目したいのが、橋本雅也による《キク》。菊の花をモチーフに鹿の角を使ってつくられた彫刻作品です。実際の菊の花をモデルに制作し、制作の間に枯れてきてしまうところまでを捉えています。
作品上部の美しい花が咲くようすから、下部の茎が枯れるようすまで、素材の持つ色も活かしながら、造形だけでなく時間までもが表現された作品です。
《キク》/ 橋本雅也 2014年
2階に上がると、天井から床まで「木」という一文字の書が複数吊り下げられた書家の華雪によるインスタレーション作品が目を引きます。
華雪は井上有一の作品に感銘を受けて書家をめざしたといい、最初の展示室ともゆるやかにつながっているようです。
《木》/ 華雪 2021年 © kasetsu
3つめの展示室には、「技法・素材・モチーフに焦点を当てた日本ならではの作品」が。
高橋龍太郎コレクション「ART de チャチャチャ ー日本現代アートのDNAを探るー」展 スペース3 展示風景
例えば、小沢剛の《岡本三太郎「醬油画 (尾形光琳) 」》は、尾形光琳の国宝《紅白梅図屏風》をモチーフに描かれたものですが、その画材はなんと醬油。「醤油画」は弘法大師あるいはその弟子たちによって始められたという”架空の”歴史をもとに制作された作品なんです。
日本の国宝を再解釈してアレンジを加え、”伝統”をつくりだしてしまうなんてユーモラスであり皮肉も混ざったような作品ですね。
《岡本三太郎「醬油画 (尾形光琳)」》/ 小沢剛 2007年 © Tsuyoshi Ozawa
また、松井えり菜の《どーん!》は、畳をイメージさせるキャンバスの上に、源氏物語の中に自身の自画像がまさにどーん!と現れる絵画作品。
松井は巨大な自画像をモチーフにした作品でよく知られますが、この作品はこうした自画像を描いた初期のもので、キーポイントになった作品だといいます。
このように、日本の現代アーティストの代表作や、ターニングポイントとなるような作品が押さえられているのも、高橋龍太郎コレクションの特徴です。
《どーん!》/ 松井えり菜 2002年 © Erina Matsui
続く、4つめの展示室のテーマは「超絶技巧」。
鉛筆画や水墨画から立体作品まで、隅々までじっくりと観たい緻密な表現の作品が並びます。
高橋龍太郎コレクション「ART de チャチャチャ ー日本現代アートのDNAを探るー」展 スペース4 展示風景
見附正康は、九谷焼の伝統的な赤絵を応用した作品を制作するアーティストです。非常に精緻な柄がすべてフリーハンドで描かれているというのが驚きです。
展示では2007年と2022年の作品が展示されていますが、2022年の作品では”中心をずらして描く”という新たな試みがなされ、そうした転換点の作品もしっかりとコレクションに収められています。
左から 《無題》/ 見附正康 2007年 © Masayasu Mitsuke Courtesy Ota Fine Arts、《無題》/ 見附正康 2022年 © Masayasu Mitsuke Courtesy of Ota Fine Arts
田代裕基の《炎天華》は、鶏をモチーフにした、楠の木による巨大な彫刻作品。
華やかな尾羽が印象的ですが、この尾羽は、展示をする際に毎回組み立てて制作されるそう。鶏の身体を花器に、尾羽を花に見立てた華道をイメージした作品です。
《炎天華》/ 田代裕基 2007年 協力:ユカリアート
そして、最後の展示室では、日本の現代アートのなかで重要な技術動向であった「もの派」の作品を紹介。
関根信夫や李禹煥らの作品が薄暗い展示室の中から浮かび上がるように展示されています。
高橋龍太郎コレクション「ART de チャチャチャ ー日本現代アートのDNAを探るー」展 スペース5 展示風景
幅広い展示を通して、まさに「日本現代アートのDNA」を感じることができるのではないでしょうか。
なお、会場内では、公式のアプリを使い、柴咲コウさんによる音声ガイドや、高橋龍太郎氏のコメントも無料で聴くことができます。是非イヤホンも忘れずにお持ちください。
WHAT MUSEUMでは、公開制作:能條雅由「うつろいに身をゆだねて」展も同時開催。
同館では公開制作は初の試み。日本画のスタイルを現代アートに昇華した能條雅由の作品展示とあわせ、制作のようすや考え方も映像で紹介されています。
展示作品のひとつ「Mirage」シリーズは、日本画で背景に使用される銀箔などの箔を”画材”の一つとして用い、版画の表現と組み合わせたもの。最大で4層重ねられた箔で描かれた作品は、観る角度によって異なる表情を与え、絵の具で描いたものとは異なる澄んだ空気感や奥行き感が感じられるようです。
公開制作:能條雅由「うつろいに身をゆだねて」展 「Mirage」シリーズ 展示風景
会場では、水・土曜日(除外日あり)に公開制作が行われ、7月上旬まで、リアルタイムで作品が完成していくようすが観られます。
WHAT MUSEUMでは、今回、展覧会の会期中に何度でも入場できるパスポートも販売しているので、会期中に徐々に作品が完成していくまでを楽しむこともできますね。
公開制作中の能條雅由さん。右側に見える作品が会期中に完成していきます。
ここで制作された作品は、最終的に販売もされる予定とのこと。アーティストと話し、制作のようすを観て、それを購入できるというのは、なかなかできない体験ですね。
展覧会で、日本の現代アートを俯瞰できるような貴重な作品そのものを楽しむだけでなく、それを収集したコレクターの想いも知り、また、公開制作ではコレクションの楽しみ方を知ることができるかもしれない、とても面白い試みの展覧会でした。
高橋龍太郎コレクション「ART de チャチャチャ ー日本現代アートのDNAを探るー」展、公開制作:能條雅由「うつろいに身をゆだねて」は、ともに2023年8月27日 (日) まで、天王洲のWHAT MUSEUMで開催されています。