生誕100年 朝倉摂展/練馬区立美術館

朝倉摂の大回顧展を練馬で。絵画や舞台美術、絵本など約200点を展示

2022年7月14日

生誕100年 朝倉摂展/練馬区立美術館

日本の近現代美術を中心に、1985年の開館以来さまざまな切り口で展覧会を開催している練馬区立美術館。そんな同館では現在、画家・舞台美術家として活躍した朝倉摂(1922-2014)の全貌に迫る、はじめての大回顧展が開催中です。

本展では、これまでほとんど知られていなかった朝倉摂の絵画作品約40点と素描に加え、舞台美術の模型やデザイン画、資料、絵本原画を含む約200点を展示し、彼女の多彩な魅力を紹介します。

※展覧会詳細はこちら

画家・舞台美術家 朝倉摂

彫刻家の朝倉文夫(1883-1964)の長女として東京・谷中に生まれた朝倉摂。父と同じ彫刻家を志す3つ下の妹の響子(1925-2016)ともに、父の方針による独自の家庭教育を受けて育ちました。

父の教育方針は、子どもの個性を尊重するために学校には一切通わせず、各分野における一流の家庭教師を招いて教育するというものだったのだそう。姉妹の暮らしの中心にはすでに創作活動があり、彼女たちが芸術家の道を歩むのは必然であったことがうかがえます。

朝倉は17歳の時から日本画家・伊東深水(いとうしんすい)の元で絵を学び、絵画の道を歩み始めます。戦争の影響がどんどん強くなる1940年代初頭に、朝倉は洗練された色彩感覚で描かれたモダンな人物像を発表し、若くしてその才能が認められました。

練馬区立美術館が所蔵する《更紗の部屋》は、大判の更紗(さらさ)を背景に洋装の女性がこちらを向いて座っているようすを描いた朝倉の代表作のひとつです。

本作のモデルは響子であり、白い机とレースのクロス、青い絵付の花瓶などは朝倉の実家にあったものだと考えられています。


朝倉摂《更紗の部屋》1942年 練馬区立美術館蔵

本作は、1933年に川端龍子などに師事した日本画家、福田豊四郎を中心に結成された「新日本画研究会」を母体とする新美術人協会の第五回展へ出品されました。

戦後まもない頃は、戦前の賑わいがないガランとした東京美術学校(現・東京藝術大学)のアトリエにもぐりこみ、デッサンをしていたのだそう。朝倉の戦前の作品は確認できるものが少なく、本作はアトリエに遺されていた貴重な一点でもあります。

戦後新しい絵画表現を模索した朝倉の軌跡を展示

朝倉は戦後、洋画家や彫刻家たちとの交流を経て社会的なテーマを取り入れた絵画を多く制作しました。人物を描く姿勢は一貫しているものの、そのモデルは戦後たくましく働く母親や、貧しい子どもたちの姿へと変化しています。


(左)朝倉摂《日本1958》1956年 福岡市美術館/(右)朝倉摂《1963》1963年 東京都現代美術館蔵

写真左の《日本1958》は、1950年代からの高度成長期を迎えた日本の姿を朝倉が独自の視点で描いた作品です。こうした大戦後の不安や虚無感を感じさせる黒い厳しい描線が特徴的な作風は、ベルナール・ビュッフェからも影響を受けているのだそう。この時期に描かれた朝倉の作品は、洋画に近い革新的な日本画として評価されました。

舞台美術家としての朝倉摂

朝倉にとっての最初の舞台美術の仕事は、1948年にGHQによって取り入れられたアーニー・パイル劇場上演の「パーティー」とされています。

1970年にアメリカに滞在し、舞台美術を学んだ朝倉。同年、画家としての活動に区切りをつけると、絵本や挿絵の仕事をのぞき舞台美術に専念するようになりました。

彼女が生涯に担当した舞台作品は1600作品を越えるのだそう! 本展では、1950年代から2000年代までの代表作を中心に約40作品を厳選し、舞台美術家としての朝倉の姿も紹介しています。

絵本や挿絵の仕事についても紹介

戦後すぐから始まったとされる絵本や小説の挿絵の仕事は、2000年代まで続けられました。本展では、朝倉が手がけた絵本原画や小説やエッセイの挿絵も展示。なかでもスフマート編集部イチ押しの絵本原画は、愛らしい白猫が描かれた絵本『スイッチョ猫』です。


大佛次郎『スイッチョ猫』 日本の名作 講談社 1971年10月16年発行 大佛次郎記念館蔵

本作は、大の猫好きとして知られる作家・大佛次郎が「一代の傑作」と自賛した童話です。

写真中央下の赤紫色の背景の中に立つ白猫の原画にご注目。朝倉が好んだ赤紫色を使用したこちらの原画は印刷による再現が難しく、原画との印象が異なるとのこと。この原画が使用された『スイッチョ猫』の絵本は、本展の特設ミュージアムショップで販売されていますよ。

本展出品作品をあしらったポストカードと一緒に、展覧会の思い出として買ってみてはいかがでしょうか。

絵画、舞台美術、絵本や小説の挿絵など幅広く活躍した朝倉摂の全貌に迫る本展。

これまで知られることのなかった朝倉摂の創作活動の全体像と、また彼女の人間像にも触れることができる展示内容でした。本展は東京展終了後、福島県立美術館へ巡回します。詳しくは福島県立美術館公式サイトをご確認ください。

Exhibition Information

展覧会名
生誕100年 朝倉摂展
開催期間
2022年6月26日~8月14日 終了しました
会場
練馬区立美術館
公式サイト
https://www.neribun.or.jp/museum.html

Ticket Present

本展のチケットを「5組10名様」にプレゼント!
〆切は2022年7月18日まで。
※当選は発送をもって代えさせていただきます。