塩田千春の作品から他者との「つながり」を考える。圧巻のインスタレーションに注目
2024年10月3日
デイヴィッド・ホックニー展/東京都現代美術館
現在、世界でもっとも人気のある作家のひとりであるデイヴィッド・ホックニーの展覧会「デイヴィッド・ホックニー展」が東京都現代美術館ではじまりました。
東京都現代美術館の企画展示室を2フロア使った、日本の美術館では27年ぶりとなる大規模な展覧会です。
彼の60年以上にわたるキャリアの初期から近年の作品までを紹介しています。
本記事では、2023年の注目展覧会のひとつである「デイヴィッド・ホックニー展」の見どころをご紹介します。
左から《2022年6月25日、(額に入った)花を見る》(2022)作家蔵、《クリストファー・イシャーウッドとドン・バカーディ》(1976) 東京都現代美術館
デイヴィッド・ホックニー ノルマンディーにて 2021年4月1日
© David Hockney Photo: Jean-Pierre Gonçalves de Lima
デイヴィッド・ホックニーは、1937年にイギリス中部のブラッドフォードに生まれ、今年86歳を迎えました。
1960年代から現在まで、60年以上にわたって制作を続け、世界的な評価と人気を集めるアーティストです。
「目の前に見える世界をどう描くのか?」ということを、絵画をはじめ、版画、写真、映像、舞台芸術など、さまざまな方法で探求し続け、近年ではiPadを活用した作品も発表しています。
展覧会は、時代を追った8つのテーマで構成され、各章には、同じテーマで制作された近年の作品も展示されています。
注目したい3つのポイントで作品を見てみましょう。
展示は3Fからスタート。最初は小さな絵画2点が並びます。
ひとつは、1969年に版画で制作された《花瓶と花》。もうひとつは、2020年にiPadで制作された《No.118、2020年3月16日「春の到来 ノルマンディー 2020年」より》。
左から《花瓶と花》(1969) 東京都現代美術館、《No.118、2020年3月16日「春の到来 ノルマンディー 2020年」より》(2020) 作家蔵
2つの作品が描かれる間には約50年の開きがあり、表現手法も全く異なるものです。
一方で、同じラッパスイセンのモチーフからは、ホックニーが常に身近なものに目を向け、「”目に見える世界”をどのようにして二次元で表現するのか?」ということを、さまざまな方法で試みているのを物語っています。
左から《スプリンクラー》(1967) 東京都現代美術館、《ビバリーヒルズのシャワーを浴びる男》(1964) テート
続く展示室では、当時新しく手に入れたアクリル絵の具を使用した作品を紹介しています。
例えば「水」をモチーフにした場合、スプリンクラーの人工的な水しぶきを抽象絵画のようなフラットな画面で仕上げたり、プール水面の反射や揺らぎを版画の版を重ねることで表現したりと、多様な手法で表現しているようすも展示されています。
左上《リトグラフの水 (線)》(1978)、右上《リトグラフの水 (線、クレヨン))》(1978-80)
左下《リトグラフの水 (線、クレヨン、ブルーの淡彩)》(1978-80)、右下《リトグラフの水 (線、クレヨン、2種類のブルーの淡彩)》(1978-80)
いずれも東京都現代美術館
「新しい表現手段が好きなのは、同じ題材であっても違う絵が描けるからだ」と語るホックニーは、iPadが最初に発売された2010年にはiPadを入手。
《「窓からの眺め」より》(2010-11) 作家蔵
iPadで描かれた作品は、描く工程も含めて展示されています
毎朝、寝室の窓から差し込む光をiPadで描きはじめたことで、紙やカンバスに描くのとは違う新しい「光」の捉え方ができるのにも気づいたのだとか。
今でも変わらず新しい方法で、表現を探求し続けているようすが伝わってきますね。
「デイヴィッド・ホックニー展」 展示風景
風景だけでなく、「肖像画」でもさまざまな表現が試みられています。
続く展示室では、2021年に描かれた世界初公開の自画像も展示されているのでこちらにも注目してみてください。
左から《自画像、2021年12月10日》(2021) 、《ジャン=ピエール・ゴンサルヴェス・デ・リマ Ⅱ》(2018) 、《ドン・バカーディ》(2018) いずれも作家蔵
ホックニーのキャリアのなかで、ひとつの転機になったのは1980年代。
遠くにあるものほど小さく表現する「線遠近法」という西洋絵画での伝統的な描き方に対し、肉眼で観るイメージに、より近づけて表現するため、多数の視点を組み合わせた新しい表現を試みます。
「デイヴィッド・ホックニー展」 展示風景
例えば、《ホテル・アカトラン、2週間後》という作品は、一見すると、写真にうつす風景とは異なり、建物がゆがんだような不安定な感じがしませんか?
ところが、作品に近づいて左右に動いたり、上下に視点を動かすと、それぞれの視点からで観える風景が再現されるようで、まさにその場にいるような感覚になるんです。
左から《ホテル・アカトラン、2週間後》(1985)、《ホテルの井戸の眺めⅠ》(1984-85) いずれも東京都現代美術館
《スタジオにて、2017年12月》は、「フォト・ドローイング」と名付けられた、さまざまな角度から撮影した3,000枚以上の写真をコンピュータで組み合わせる手法で制作された作品。
遠くから観ると、やはり遠近感に少し違和感を感じるかもしれません。
しかし、縦約2.8m, 横約7.6mという巨大な作品の前を歩くと、まさにその目の前の作品に没入するようで、「観る」というよりも作品を「体験」するような感覚になります。
左から《ホテルの井戸の眺めⅢ》(1984)東京都現代美術館、《スタジオにて、2017年12月》(2017)テート
こうした複数の視点で捉える方法は、絵画だけでなく映像にも展開されています。
《四季、ウォールドゲートの木々》(部分)(2010-2011)作家蔵
9台のカメラの異なる視点を組み合わせ、ひとつの映像として描きだしています。
展示後半の1Fの展示室には、2011年以降に制作された大型の作品群が並びます。
中央《春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年》(2011) ポンピドゥー・センター
《春の到来 イースト・ヨークシャー ウォールドゲート 2011年》は、高さ約3.6m, 幅約9.8mの巨大な油彩画と、iPadで描かれた大型絵画51点のシリーズ。
今回の展覧会では、油彩画とiPad絵画12点が日本初公開作品として展示されています。
大判の画面の中に色鮮やかに描き出される季節の風景と、水と光の表現は圧巻です。
「デイビッド・ホックニー展」 展示風景
展覧会の最後を飾るのは、《ノルマンディーの12ヶ月》。
ノルマンディーの歴史的な物語を描いた「バイユーのタペストリー」という長さ約70mの刺繍画にインスピレーションを受けて制作されたもので、全長なんと90mの巨大な作品です。
左から《ノルマンディーの12ヶ月》(2020-2021)、《家の辺り(冬)》(2019) いずれも作家蔵
空が白んだ冬の風景から、明るい春の風景へ、そして秋、再び冬へと移ろう風景が絵巻風に描かれています。
これらは、1年を通して、1枚ずつ別々にiPadで描いた作品を繋ぎあわせたものですが、視点をさまざまに変えながらも切れ間なく繋がっていく作品です。
左から《ノルマンディーの12ヶ月》(2020-2021) 、《2021年6月10日-22日、池の睡蓮と鉢植えの花》(2019) いずれも作家蔵
ノルマンディーの風景を散策するような巨大な作品、ぜひ、会場で体験してみてくださいね。
なお、東京都現代美術館で同時開催中の「MOTコレクション」展のなかでも、プールをモチーフにした版画作品をはじめ、ホックニーの作品14点が展示されています。
左から《ジョージ・ローソンとウェイン・スリープ》(1972-75)、《クラーク夫妻とパーシー》(1970-71) いずれもテート
「デイヴィッド・ホックニー展」は、ホックニー自身が「わたしの人生の大半をたどることができます」と語る、60年のキャリアを総括的にみられる展覧会です。
そして、展示されているのは、複数の視点によって絵画に没入するような作品や、見上げたり歩きながら観る巨大な絵画作品など、平面だけれど「観る」だけでなく「体験する」感覚のある作品です。
60年以上もの間「目の前のものを描き出す」ことを探求し続け、描き続けた画家の視点を感じられる本展覧会。
毎日、スマホの中で沢山の写真や映像を観る今だからこそ、目の前で、ここでしか観られない生の絵画を「体験」してみませんか。
(写真はすべて「デイヴィッド・ホックニー展」展示風景、東京都現代美術館、2023年 ©David Hockney)