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2024年11月1日
中平卓馬 火―氾濫/東京国立近代美術館
戦後写真の転換期より活躍し、多くの表現者たちに影響を与えてきた写真家・中平卓馬の展覧会「中平卓馬 火―氾濫」が、東京国立近代美術館にて、2024年4月7日(日)まで開催中です。
展示のタイトルにもなっている《氾濫》の再展示や、マルセイユにて発表された《デカラージュ》をはじめとする、未公開の作品を多数展示するなど観どころ満載。
彼の歩んできた少し過激な人生に隠れてしまっていた「仕事」に重点を置き、年代ごとにじっくりとたどることができます。
中平卓馬(1938-2015)は、1963年に東京外国語大学スペイン語学科を卒業し、『現代の眼』という雑誌の編集に携わります。
その中で写真に惹かれ、1965年より写真家に転身。森山大道や篠山紀信を刺激した写真家としても知られ、後の世代の写真家にも影響を与えてきました。
初期の頃は「アレ・ブレ・ボケ」の作風で知られていた中平。
1973年に発表した評論集『なぜ、植物図鑑か』以降、これまでの作風を批判し、方向転換をする中で、急性アルコール中毒に倒れ記憶の一部を失うなど、劇的なエピソードとともに人生を歩んだ人物です。
中平卓馬《[無題]『Provoke』3号、1969年8月、プロヴォーク社》1969 東京国立近代美術館
初期にあたる作品は、自己批判から自らネガやプリントの大半を焼却したという中平。
そのため、日本の写真における中平のキャリアの重要性とは裏腹に、個展があまり開かれてこなかった存在でもありました。
というのも、彼自身の活動が近代社会の権威や権力に抵抗し批判するものであるため、美術館というシステムの中で取り上げ方が難しかったのだそう。
また、病の前後で活動が変化したことなどが、展覧会を構成する上での大きな課題となっていたといいます。
展示風景 寺山修司《「街に戦場あり」『アサヒグラフ』1966年、朝日新聞社》1966 個人蔵
今回の展覧会では、これらの課題を、初期作品が掲載されている雑誌や中平自身が展覧会に出品した作品を年代ごとに展示することで、活動の展開や思想が読み取れるようになっています。
中平卓馬《氾濫【2018年のモダンプリント、48点組】》1974(2018年にプリント)中平元氏蔵
展覧会の目玉として展示されている作品の1つが、展覧会タイトルにもなっている《氾濫》。
この作品は、1974年に東京国立近代美術館で開催された「15人の写真家」展に出品した、48点のカラー写真の組み合わせからなる横幅6m強の大作です。
半世紀ぶりに同会場での再展示ということで、1974年の出品作と、2018年のモダンプリントが展示されています。
『なぜ、植物図鑑か』の翌年に発表された作品で、中平作品における転換期のプロセスを追うための非常に重要な作品を、モダンプリントも交えていろいろな角度からじっくりと鑑賞することができます。
展示風景
中平卓馬《デカラージュ【ADDA画廊(フランス、マルセイユ)での展覧会(1976年)出品作、18点組】》1976 中平元氏蔵 など
1977年『現代詩手帖』に掲載された《街路あるいはテロルの痕跡》13点のヴィンテージ・プリント、1976年にマルセイユのADDA画廊にて発表された18枚の連続する写真からなる《デカラージュ》など、未公開の作品を多数展示しています。
《デカラージュ》は、ADDA画廊の一角を床から天井までを撮影し実物大にプリントしたもので、マルセイユで展示した当時は、撮影したコーナーから少しずらした壁面に展示していたそうです。
今回は壁面ではなく平置きの展示で、それまでの展示内容と少し雰囲気が違うので、思わず「なんだろう?」と覗き込みたくなる作品でした。
この《デカラージュ》のそばに《街路あるいはテロルの痕跡》も展示されているので、この区画は必見です。
初期から晩年にかけてのおよそ600点の作品と資料を、年代ごとに区分し、5つの章で紹介しています。
中平卓馬の活動の変化や転換を、「仕事」という視点からていねいに追うことができる構成です。
1章 展示風景
2章展示風景
中平卓馬《サーキュレーション―日付、場所、行為【40点】》1971(2012年にプリント)東京国立近代美術館
3章 展示風景
中平卓馬《氾濫【「15人の写真家」(1974年)出品作、48点組】》1974 東京国立近代美術館など
4章 展示風景
中平卓馬《奄美【本展のためのプリント、6点】》1975(2023年にプリント)など
5章 展示風景
中平卓馬《キリカエ【「キリカエ」展(2011年)出品作、64点】》2011 東京国立近代美術館 株式会社コム・デ・ギャルソン寄贈 など
3章の転換期や、病に倒れた後の5章など、中平作品の変化の軌跡を比較しながら視覚的に認識できる本展。
また同時に、その劇的なエピソードでわかりにくくなっていた中平のキャリアの歩みを、しっかりと堪能できる充実した内容になっています。
幾度となく模索を繰り返したであろう仕事と、その思考に触れられた気がしました。
状況がめまぐるしく変化する現代だからこそ、考えさせられる重厚な展覧会です。
本展観覧料で、同時開催の所蔵作品展「MOMATコレクション」(4F-2F)や、コレクションによる小企画「新収蔵&特別公開|ジェルメーヌ・リシエ《蟻》」(2Fギャラリー4)も、観ることができます。
4Fから1室がスタートし、2Fの12室や、ギャラリー4の小企画に至るまで、東京国立近代美術館に所蔵されているたくさんの作品がじっくり味わえる展示となっています。
「中平卓馬 火―氾濫」と併せて、アートに浸る一日を楽しんでみてくださいね。
コレクションによる小企画「収蔵品&特別公開|ジェルメーヌ・リシエ《蟻》」展示風景