うるしとともに/泉屋博古館東京

かつて漆芸品たちが「居た場所」から読み解くうるしの世界【泉屋博古館東京】

2024年1月26日

うるしとともに/泉屋博古館東京

《雛道具から蒔絵会席膳椀具》大正〜昭和時代 20世紀 泉屋博古館/竹林愛作《紙雛図》昭和17年(1942) 泉屋博古館東京

2024年1月20日(土)から2月25日(日)まで、泉屋博古館東京(東京・六本木)にて「うるし」の魅力に迫る展示が開催されています。

ところ狭しと並ぶ、しっとりと艶やかなうるしをまとった漆芸品は、かつてはくらしとともにあった身近な芸術品でもありました。

住友家が集めた美術品、通称・住友コレクションの中から選りすぐりの漆芸品を、作品たちが使われていた背景にスポットを当てながら展示。

また、染付大皿を生涯にわたり収集した瀬川竹生氏の瀬川コレクション寄贈を記念し、初公開の染付大皿の展示も同時に開催しています。

人びとのくらしに根付いていた漆芸品


《唐草文梨子地蒔絵提重》明治時代 19世紀 泉屋博古館東京

現代では漆芸品に触れる機会は少なく、漆芸品といえば博物館や美術館などに展示されているもの、お食い初めなど昔ながらの行事で使用する特別なもの、というイメージがある方も多いのではないでしょうか。

今回の展示では、艶やかで上品な輝きを帯びた漆芸品が、かつてどのような場所で使われていたのか、「宴」「茶会」「書斎」などの場面別にわかりやすく展示されています。

縄文時代にはすでに活用されていたと言われており、日本人の生活に長きにわたって浸透し、実は馴染み深い技術のひとつである漆芸品。

使われていた当時のくらしも想像しながら、うるしの奥深さに浸れます。

宴とともにある漆器の彩り

第一展示室のテーマは「シーン1 宴のなかの漆芸美」。

現代でも、うるし塗りといえば食器が頭に浮かびますが、当時でも漆芸品のポピュラーな「居場所」は、おめでたい宴の席だったのではないかと想像できます。

能の謡曲にまつわる絵柄が施された膳椀具や、思わず息を呑む大量の膳椀具まで、お正月など「ハレの日」を祝うお膳が大集合。

展示されている膨大な数の膳椀具は住友コレクションの中の一部だそうです。

あっと驚く大量の膳椀具を前に、賑やかな宴を思い浮かべてみましょう。


東門五兵衛《花鳥文蝋色蒔絵会席膳椀具》明治時代 19世紀 泉屋博古館


象彦(八代西村彦兵衛)《扇面謡曲画蒔絵会席膳椀具》大正時代 20世紀 泉屋博古館

日本の伝統文化との深い関わり

第二展示室は「シーン2 茶会のなかの漆芸美/シーン3 香りのなかの漆芸美/シーン4 檜舞台のうえの漆芸美」と、日本の伝統的な文化や芸能で使用する漆芸品を展示しています。

泉屋博古館東京に収蔵されている住友コレクションに、茶道をはじめとする伝統文化にまつわる漆芸品が多い理由は、数寄者として知られ、伝統文化や芸能に造詣が深い住友家第十五代当主の住友吉左衞門(春翠)の影響だそうです。

茶会と聞くと少し特別な雰囲気を感じてしまいますが、春翠にとっては日常的なものでした。


《青貝芦葉達磨香合》《朱塗菱形十字花弁盆》ともに明時代 16世紀 泉屋博古館東京


原羊遊斎《椿蒔絵棗》江戸時代 19世紀 泉屋博古館東京


《武蔵野蒔絵面箪笥》江戸時代 18世紀 泉屋博古館東京

書斎のなかの艶めき

第三展示室には「シーン5 書斎のなかの漆芸美」として、書斎道具がずらり。書斎に上質な道具がある生活は、なんとも贅沢で文化的です。

昔も今と同じように、「持っているだけで自分のテンションを上げてくれる道具」が存在したのかもしれません。

同展示室には、このほかにも贈り物として使われた漆芸品などを「終章 うるしと友に」として展示しています。

大切な人への贈り物としても活躍していた漆芸品。

贈った人、受け取った人の想いを静かに感じ取ることができるコーナーです。


《高士図堆朱筆管》明〜清時代 16-17世紀 泉屋博古館


象翁(六代 西村彦兵衛)《高砂蒔絵文台・硯箱》大正10年(1921年) 泉屋博古館東京


十代 中村宗哲《青貝壽文字入棗》大正13年(1924) 泉屋博古館

技法・技術を楽しむ

第三展示室には、特集として漆芸の技法ごとに作品が鑑賞できるコーナーが設けられています。

技法は、塗り重ねたうるしに文様を彫る「彫漆(ちょうしつ)」、貝を用いる「螺鈿(らでん)」、うるしの上に金や銀などで絵を描く日本独自に発展した「蒔絵(まきえ)」の3つを紹介。

それぞれの特徴を深く理解することで、漆芸品の世界をより堪能できるのが今回の展示の特徴でもあります。

また、このコーナーだけでなく全ての展示作品において、キャプション上部に記載されているコメントが技法によって色分けされているのも注目のポイント。

彫漆は赤、螺鈿は紫、蒔絵は黄色の色分けで、作品名の上に記載されており、技法によるそれぞれの違いが味わえます。


《蜻蛉枝垂桜蒔絵香箱(独立ケース)》江戸時代 17世紀 泉屋博古館東京


《楼閣人物図螺鈿円盆》明時代 15-16世紀 泉屋博古館東京


会場風景(キャプション)

初公開の染付大皿がずらり

故・瀬川竹生氏のコレクションした染付大皿の寄贈を記念した特別展示も同時に行っています。

泉屋博古館東京にて、今回が受贈後初公開の染付大皿。白地に青のコントラストが美しく、想像を超える大きさに圧倒される大皿ばかりです。

唐獅子や鶴、花など、めでたさを感じる絵柄が多いことから、宴や祝いの行事で使用されている場面が思い浮かびます。

洗練された職人芸の迫力を、じっくりとご体感ください。


《染付竹虎文大皿》いずれも江戸時代後期 19世紀 泉屋博古館東京(瀬川竹生コレクション)


《染付松下波兎文大皿》江戸時代後期 19世紀 泉屋博古館東京(瀬川竹生コレクション)


《染付唐獅子牡丹文大皿》江戸時代後期 19世紀 泉屋博古館東京(瀬川竹生コレクション)

会場内に散りばめられた「龍」を探そう!

新年1回目の展示ということで、2024年の干支「龍」をモチーフとした漆芸品や染付大皿が随所に展示されています。

各所に散りばめられた遊び心を探しながら鑑賞するのも楽しみのひとつ。

中には中国から渡ってきた漆芸品もあり、中国皇帝ゆかりの品である証の5本爪の龍が彫られた作品も観ることができます。

干支の龍モチーフを発見して、2024年の幕開けを感じましょう。


《龍図堆黄円盆》明 万暦17年(1589年) 泉屋博古館


《双龍図堆黄長方盆》明 万暦20年(1592年) 泉屋博古館

《染付玉取龍文大皿》江戸時代後期 19世紀 泉屋博古館東京(瀬川竹生コレクション)

くらしのそばに寄り添う芸術

現代ではあまり使うことがなくなってしまっている漆芸品や染付大皿。

さまざまな素材の食器や道具を気軽に買える時代だからこそ、漆芸品のように大切に使えばいつまでも美しく保てる上質なものにも目を向けていきたいと感じました。

何百年も経った今でも、色褪せることなく深みが増していく漆芸品の味わいを心ゆくまで堪能できる展覧会です。

漆芸品や染付大皿の向こう側にある、当時の人びとのくらしにも思いを馳せると、匠の技によって生まれた作品を使う楽しみが伝わってくるような気がしました。

どんな宴を開こう?書斎には何を置こう?そんな当時の「ワクワク」を感じてみてください。

※掲載している写真は主催者の許可を得て撮影しています。

Exhibition Information

展覧会名
うるしとともに ― くらしのなかの漆芸美
開催期間
2024年1月20日~2月25日 終了しました
会場
泉屋博古館東京
公式サイト
https://sen-oku.or.jp/tokyo/