塩田千春の作品から他者との「つながり」を考える。圧巻のインスタレーションに注目
2024年10月3日
スフマートでは、「つくる」「つたえる」という2つの視点をもとに、アートに関係するさまざまな人へのインタビューを隔週・前後編でお届けします。
泉屋博古館東京は、中国古代の青銅器を所蔵する泉屋博古館(京都・鹿ヶ谷)とともに、幅広い住友コレクションを東京で楽しめる美術館です。
東京メトロ南北線「六本木一丁目駅」からすぐの立地で、周囲には大倉集古館や菊池寛実記念 智美術館、サントリーホールなどの文化施設が点在しています。
泉屋博古館東京 橋本旦子さん ※撮影時、マスクを外していただきました。
後編では、そのリニューアルで具体的に変わった部分、今後の取り組みや鑑賞のポイントについて、泉屋博古館東京で広報を担当する橋本旦子さんにお伺いしました。
泉屋博古館東京の開館の経緯などをお聞きした前編はこちら
──リニューアルの際にこだわったところについて教えてください。
随所にこだわりがありますが、まずはエントランスです。自動ドア自体は変わっていませんが、以前はエントランスを覆う屋根がかなり長く、外から館内のようすが見えづらい印象でした。今回のリニューアルでは、この屋根を短くしたり、ガラス張りの風除室を拡張したりして、館内の雰囲気がわかり、入りやすくなるよう工夫しています。
そして、展示室がリニューアルのメインです。従来、展示室は2室のみでしたが、今回のリニューアルで4室になりました。既存の展示室(第1・第3展示室)とその間をつなぐ形で増築した第2展示室の3室は内装のトーンを統一して、展示作品が浮かび上がって見えるように、光の加減などをバランスよく調整しています。
鑑賞のしやすさにはかなりこだわり、お客様にご好評いただいております。
当館は住友家の麻布別邸跡地にある美術館ですので、「邸宅美術館」をキーワードにしています。小ホールを挟んで講堂側に新しく作られた第4展示室は、ほかの3室とは少し雰囲気を変え、柄物の壁紙や色味のあるじゅうたんを使っています。邸宅の雰囲気を感じさせるようなしつらえにして、ゆったりと美術品をご覧いただける、少し親密さのある空間にしています。
こちらでは、当館のコレクションの礎を築いた15代目当主にあたる住友春翠(しゅんすい)の紹介や、住友コレクションの特集展示を行っています。
お客様をお迎えする空間としては、ホールにも注目いただきたいです。天井の高いひろびろとしたホールですが、足を踏み入れた瞬間、「ああ、美術館に来たんだな」と実感いただけるよう、彫刻作品を1点展示しています。これは当館館長のこだわりで、専用の展示ケースも特注しました!
また、ミュージアムショップや有名なガラスメーカー「HARIO」のカフェ(HARIO CAFE 泉屋博古館東京店)もできました。ショップとカフェは、展示をご覧にならないお客様もご利用いただけますので、休館前に比べると気軽に立ち寄っていただけるようになったかと思います。カフェでは当館オリジナルブレンドのコーヒー豆も楽しめます。
──美術館オリジナルブレンドは嬉しいですね! ほかにも泉屋博古館東京ならではの商品はありますか。
耐熱ガラスやコーヒー器具のメーカーとして広く知られているHARIOには、HARIO Lampwork Factoryというガラスアクセサリーのブランドがあり、泉屋博古館東京店限定のアクセサリーも作っていただきました。限定のモチーフは2種類、ひとつは初夏に当館の周りに咲くアガパンサスの花。もうひとつは、「センオクウォール」です。
カフェは元々の建物の外側に増築したため、実は建物の外壁がカフェ店内の壁として残っています。「センオクウォール」はその壁がモチーフになっています。当館オリジナルの店舗限定アクセサリーは、ミュージアムショップでも取り扱っています。
HARIO CAFE 泉屋博古館東京店 店内 リニューアル前の外壁が店内に残っているユニーク空間になっています。
──ほかにも、リニューアルで変わったことはありますか。
以前からご要望のあった、年間パスポートを導入しました。4,000円ですが、ご本人様とお連れ様1名まで、1年間何度でも無料でご入館いただけますので、かなりお得です。従来、大倉集古館とサントリー美術館の年間パスポートをお持ちの方への入館優待を行っていますが、当館の年間パスポートをその2館にお持ちいただいても割引で入館いただけるようになりました。
近隣施設と一緒に楽しんでくださるお客様が本当に多いので、当館の年間パスポートもご活用いただけると嬉しいです。
あとは館内にWi-Fiを導入しました。ぐるっとパスご利用の方も大勢いらっしゃいますが、今年度から電子化されましたので、スマートフォンでご利用される方には便利になったのではないかと思います。
休館前と比較すると、小さいお子さまをお連れのお客様など、来館者層が広がった印象はあります。
──美術の初心者の方へのアプローチでは、どんなところに工夫されていますか。
キャプションの解説は、用語など難しくなりすぎないように各担当学芸員が心がけています。SNSでは、キャプションよりもさらに柔らかい作品紹介文を書いてもらっています。
コアなファンの方と初心者の方、どちらにも楽しんでいただけるようにバランスを取るのは難しい部分ではあります。学芸担当が一所懸命作りあげている展覧会を、広報担当としてお客様に近い立場からどう発信するか、試行錯誤しています。
──住友コレクションを代表する「青銅器」ですが、初心者におすすめの鑑賞のポイントを教えていただけますか。
青銅器は京都本館で常設展示されていますので、東京館で展示される機会はあまり多くなく、私もむしろ初心者に近いレベルですが、器の形そのものもそれぞれユニークで見飽きないですし、隙間無くあしらわれている文様をじっくり見ていると、その魅力に引き込まれていきます。
青銅器には、日本美術でもよく見かける麒麟(きりん)や虎、龍などの元になる動物などがあしらわれていますので、親しみやすいのではないでしょうか。あとは、饕餮(とうてつ)という伝説上の怪物が文様に多くあしらわれていますので、知っていると他館の青銅器鑑賞も楽しめると思います。饕餮は、泉屋博古館オリジナルグッズの手ぬぐいのモチーフにもなっています。
泉屋博古館 京都本館のTwitter担当は「#青銅器かわいい」と銘打ち、青銅器の魅力を発信しています。例えば足がかわいい、顔がかわいいなど、「かわいい」ポイントを見つけながら青銅器を鑑賞するのもいいかもしれません。
──確かに「かわいい」を見つけたら、青銅器も楽しく鑑賞できそうですね。
東京館のリニューアルオープンに合わせて名品選の図録『泉屋博古館 名品選99』を発行しましたが、その表紙に使われている鴟鴞尊(しきょうそん)は本当に「かわいい青銅器」の代表格です!
この図録は当館のミュージアムショップのほか、一般書店やインターネット書店でも購入できます。青銅器をはじめとして、東京と京都の幅広い所蔵品のなかから各ジャンルの担当学芸員が厳選した99作品が掲載されているので、ぜひご覧いただきたいです。
──最後に泉屋博古館東京の今後の取り組みについても、お聞きしてよろしいですか?
展示に関しては、展覧会の本数や開館日数が増える予定です。来年以降は、年間5回ベースで展覧会を開催予定です。
リニューアルで講堂が新設されましたので、展覧会と別立ての連続講演会の企画もありますし、ワークショップや子ども向けの鑑賞会など、幅広い層のお客様にいらしていただけるようなラーニングプログラムも充実させたいと考えています。
リニューアル前から、京都本館と鋳造技術の共同研究を行なっている、福岡県の芦屋釜の里の方々にご協力いただき、東京でも青銅器の展示に合わせて、錫(すず)を融かして古印(こいん)を鋳造するワークショップを開催しています。
印面は粘土板を五寸釘で彫るのですが、やってみると中々思うように行かなかったり、電熱器で融かした錫を掬うと「意外と重たい!」と感じたりするなど、ワークショップ後はさまざまな感想をいただきます。
──鋳造を経験できるワークショップは、なかなか経験できないですよね!
体験してみると、青銅器の細かな文様を作り出す技術の高さに改めて驚かされますし、そうした経験から、さらにいろいろな興味が生まれるように思います。
展示を見て楽しんでいただくことに加え、こうした五感に働きかけるようなプログラムを鋳造以外のジャンルでも実施したいと思います。
住友家15代当主・住友春翠(しゅんすい)のコレクションを中心に広く紹介する泉屋博古館東京。住友ゆかりの作品の展示や五感で楽しむワークショップなど、さまざまな角度で美術を楽しむ方法を発信しています。
リニューアルでパワーアップした泉屋博古館東京の今後の活動も楽しみです!
次回は国立公文書館の阿久津智広さん、永江由紀子さんにお話をお伺いします! お楽しみに。
(次回:2022年8月2日更新)