2022年8月2日

「つくる」「つたえる」を聞くインタビュー:国立公文書館 阿久津智広さん、永江由紀子さん(前編)

国立公文書館を徹底解剖! 所蔵資料や同館を支える「アーキビスト」の仕事とは?

スフマートでは、「つくる」「つたえる」という2つの視点をもとに、ミュージアムを支えるさまざまな人へのインタビューを隔週・前後編でお届けします。

東京メトロ「竹橋駅」から歩いて5分、東京国立近代美術館の隣にある国立公文書館。国の行政機関から移管された公文書などを歴史資料として保存し、一般の人たちにも広く活用してもらうための取り組みをしています。


(左から)阿久津智広さん、永江由紀子さん ※撮影時、マスクを外していただきました。

今回お話をお聞きしたのは、国立公文書館で保存業務を担当する阿久津智広さんと広報を担当する永江由紀子さんです。

前編では、「こんなものもあるの?」という意外な所蔵資料をはじめ、同館を支える「アーキビスト」のこと、歴史資料として重要な公文書などがどのように保存されているのか、公文書の魅力を伝えるための展示づくりについてお聞きしました。

前編:国立公文書館を「つくる」こと

──国立公文書館の所蔵資料には、どのようなものがあるのでしょうか。

永江:当館の所蔵資料は「行政文書」「司法文書」「法人文書」「寄贈・寄託文書」「内閣文庫」の5つのカテゴリに分けられます。最初の4つは、国の機関や独立行政法人などから移管されたり、個人の方や民間の法人などから寄贈・寄託いただいたりした資料が含まれます。当館では約113万冊を所蔵していますが、国の機関などの重要文書の保存期間が満了すれば受け入れることとなるので、年間で3~4万冊ほど増えています。

一方、最後の「内閣文庫」というのは、江戸幕府から引き継いだ古書・古文書が中心になっていて、約48万冊あります。総数としては、約161万冊の資料を所蔵しています。


(左上から)「終戦の詔書」、「日本国憲法」、「平成の書」、「令和の書」 いずれも複製、国立公文書館常設展示室にて撮影

代表的な資料としては、「大日本帝国憲法」や「日本国憲法」、「終戦の詔書」など学校の教科書などにも出てくる憲法や詔書、当時の内閣官房長官が元号を発表する際に掲げた「平成の書」や「令和の書」といった、皆さんがテレビや新聞を通じて見たことがあるものがあげられます。

──「令和の書」まで保存されているのですね!所蔵資料は国立公文書館に行けば誰でも見ることができるのですか。

永江:東京本館に閲覧室がありますので、一部の資料を除き、どなたでもご覧いただけます。ただし、事前に審査が必要な文書、つくば分館などで所蔵している文書など、その場で閲覧できない資料もありますので、事前に当館HPのご利用案内をご確認いただくとともに、当館のデジタルアーカイブで資料を検索し、利用できることを確認したうえで、ご来館されることをおすすめします。

また、所蔵資料の一部(約24%)は、当館のデジタルアーカイブでインターネットを通じて画像をご覧いただけます。デジタルアーカイブでは、かなり画像を拡大できますので、例えば「桜町殿行幸図」や「春日祭礼興福行事」などの絵巻物では、描き分けられた人物の表情や着物の模様も、細部まで手軽に見ることができます。

 

デジタルアーカイブは場所や時間も選ばずに、ご自身のパソコンやスマートフォンなどの端末で当館の資料を閲覧できますので、ご活用いただければと思います。

──「公文書」と聞くと文書を想像していましたが、絵巻物なども所蔵されているのですね。驚きました。

永江:実は一風変わった資料もありますよ。過去に当館の創立40周年を記念した特別展「公文書の世界」では、献血推進キャラクター「けんけつちゃん」のぬいぐるみを展示しました。厚生労働省から広報資料として移管されたもので、中性紙で作った保存箱に収納して保存しています。

ほかに文書以外の所蔵資料ですと、足尾銅山鉱毒事件関係資料として渡良瀬川で採取した砂が入った瓶もあります。これは、渡良瀬川沿岸の農作被害に関する分析試験結果として、調査報告書に付随する形で移管されたものです。

ですが、やはり当館の所蔵資料は基本的には文書です。時々、図面や写真、パンフレットなどが付随していることもありますけどね。先ほどご紹介した砂が入った瓶は、その文書に関連する記録として当時の人びとが、後世にも役立つだろうと考えて残したものだと思います。

──公文書館を支えるのが「アーキビスト」の存在だそうですね。でも、あまり聞き慣れない言葉です。どんなことをする職業なのでしょうか。

永江:図書館なら司書、美術館・博物館なら学芸員という資格や職業が確立されていますが、当館を含む公文書館などで働く専門職員である「アーキビスト」は、これらと比較すると、まだ認知度が低いように思われます。今後の人材の育成が重要だという考えから、2020年度からアーキビストとしての専門性を持つ人を「認証アーキビスト」として当館が認証する取り組みを始めました。2022年現在、全国で247人、うち当館には35人の認証アーキビストがいます。

その認証の基準になっているのが「アーキビストの職務基準書」というものです。基準書に沿ってアーキビストについて説明すると、職務としては「評価選別・収集」「保存」「利用」「普及」と大きく4つに分けられます。以下、当館での業務を例に、これらの職務について簡単にご紹介します。

「評価選別・収集」は、省庁などの行政機関が作成した公文書等について、行政機関での保存期間が満了した後に、当館などへ移管して永久保存するか廃棄するかの判断に携わります。また、個人や民間の法人などから寄贈・寄託のご相談があった文書について、内容等の確認を行うことで寄贈等を受け入れられるか判断しています。こうしたプロセスを経て、当館に移管や寄贈・寄託されることが決まった資料の受入れもアーキビストの仕事です。

それから、「保存」は資料の保存環境の整備や目録の作成など、「利用」は閲覧室での対応やレファレンスなど、図書館の司書とやや重なるような業務を行っています。他方で、行政機関等から受け入れた文書には、個人の権利利益や公共の利益などを侵害するおそれがある情報のように、一般の利用になじまない情報が記録されている場合があり、そのような情報の利用を制限する必要があるか否かを審査するといった、図書館の司書とは異なる業務も行っています。

最後の「普及」は、公文書になじみのない方に展示などを通じて公文書に触れる機会を増やしたり、デジタルアーカイブで画像を公開したりすることのほか、広報の仕事もここに入ります。

──とても多岐にわたる業務なのですね。「保存」の業務が特に気になりました。所蔵資料はどのように保存されているのでしょうか。

阿久津:所蔵資料には紙媒体と電子媒体等がありますが、ここでは大部分を占める紙媒体の資料の保存を中心にお話しします。まず、移管前の各省庁などの保存環境がさまざまであるため、資料を受け入れる段階でくん蒸と呼ばれる殺虫・殺菌処理をします。つくば分館にくん蒸設備がありますので、そこでまず虫やカビを殺す処理をしてから、書庫に入れるようにしています。

当館の所蔵資料は、原則として永久保存が求められているものですが、劣化や破損により、利用できなくなるおそれがあります。そのため、きちんとした環境で保存することにより劣化をできる限り遅らせたり、利用する際に丁寧に取り扱うことにより破損を防いだりすることが、何よりも大切です。

東京本館の書庫では、温度22℃、湿度55%に設定するなど、紙に適した環境で資料を保存しています。

──「保存」では、書庫の環境維持もとても大切な業務なのですね。

阿久津:そうですね。書庫の空間全体が大変広く、一定の状態とはならないので、環境を完璧にコントロールすることは容易ではありません。そのため、場合によっては、カビや虫が発生するおそれがあります。そこで、日々書庫内の温湿度をチェックしたり、掃除をしたりして環境を整えています。

それと、光も資料に悪影響を及ぼすおそれがあります。例えば、自然光や一般的な蛍光灯は紫外線が多く、紫外線を浴びると、人の肌が日焼けするのと同じで、資料も劣化や退色してしまいます。そのため書庫の照明は紫外線の少ないLED照明にして、照明も常にはつけずに不要な時は自動で消えるようにしておくなどにより、光をある程度制限するようにしています。

所蔵資料は保存するだけでなく、利用されてはじめて役に立つものです。そのためにもきちんと利用できるような状態を常に保つようにしています。書庫の環境維持もそのための手段の一つです。

──保存する際に、公文書ならではの大変さはありますか。

阿久津:「大日本帝国憲法」や「日本国憲法」などの御署名原本(ごしょめいげんぽん)と呼ばれる資料群は、「鳥の子紙」というとても良い和紙が使われていますが、公文書にはこうした良質な原料を使った紙だけが用いられているわけではないのが難しいところです。

文書を中心とした公文書は、私たちがふだん仕事で作成する書類と同じように、コピー用紙に印刷して綴られることが多いのです。少し前だとわら半紙のような低質材料がよく使われていました。また、書籍のように均一な素材ではなくて、さまざまな紙質のものが使われています。書写材料も鉛筆だったりペンだったり。

さまざまな素材のものが一緒になっていると、例えば、一冊の資料に保存状態が良好な部分と劣化が進行している部分が混在するなど、扱いにくい場合があります。必ずしも長期保存に適した素材が使われているわけではないので、それを長期に保存しようとするためには細かな配慮が必要になってきますね。


サンプル資料による説明

──アーキビストのお仕事の一つとして、「普及」もありますね。国立公文書館では常設展のほかに、特別展や企画展も開催されていますが、どのように展示づくりをされているのでしょうか。

永江:特別展は、周年行事を意識したものが多く、2022年は、沖縄復帰50周年記念特別展を開催しました。過去には、オリンピック、天皇陛下の御即位、明治150年記念など、国家的な行事を切り口にした展示会の開催を通じて、皆さんに公文書や国立公文書館に興味を持っていただけるような内容とするよう工夫しました。

企画展は、当館が所蔵する特徴的な資料について知ってもらいたいという思いで企画するものが多いですね。例えば、「平家物語」や「百人一首」などの文学関係の資料にスポットを当ててみたり、終戦を迎えた「昭和20年」という濃い1年間に関する資料を時系列で紹介したりと、ピンポイントな視点で企画を立てています。

常設展ではレプリカを展示していますが、教科書で学んだことが公文書として、記録として、どのように残っているのかを見ていただきたいと、ここ2、3年をかけて少しずつリニューアルしてきました。特に中学・高校の生徒の皆さんに見学や修学旅行で見てもらいたいという思いも込めて、明治から昭和までの大きな出来事を、時系列に並ぶ公文書で辿れるような形にしています。


国立公文書館 常設展示室

「公文書」と聞くと堅苦しそうで、なんとなく敬遠しがちになりますが、今回のお話を聞いて「令和の書」や絵図、さらにはぬいぐるみなど!とても身近なものも国立公文書館では大切に保存されていることがわかりました。貴重な資料の数々を通して歴史を身近に感じる。それが公文書の醍醐味の一つなのかもしれませんね。

国立公文書館では現在、本年度1回目となる企画展「江戸城の事件簿」が開催中です。江戸城内で起きた事件や災害を切り口に、所蔵資料を通して城内の人々のくらしを垣間見ることができます。入場料は無料なので、興味を持った方はぜひ国立公文書館へ足を運んでみてください。

後編では、公文書の修復作業や被災資料のレスキューのこと、公文書館の未来像についてお聞きします。次回もお楽しみに!

(次回後編:2022年8月15日更新予定)

Exhibition Information

展覧会名
令和4年度第1回企画展 「江戸城の事件簿」
開催期間
2022年7月16日~9月11日 終了しました
会場
国立公文書館 東京本館
公式サイト
https://www.archives.go.jp/exhibition/
注意事項

※新型コロナウイルスの感染予防・拡大防止のため、会期が変更となる場合があります。

※お出かけの際は、事前に公式サイトの「ご来館にあたってのお願い」をご確認ください。