版画の青春 小野忠重と版画運動/町田市立国際版画美術館

「版画の青春 小野忠重と版画運動」 創作版画300点【町田市立国際版画美術館】

2024年3月27日

「版画の青春 小野忠重と版画運動」 創作版画300点【町田市立国際版画美術館】

昭和初期にブームとなった創作版画運動を紹介する「版画の青春 小野忠重と版画運動-激動の1930-40年代を版画に刻んだ若者たち-」が、町田市立国際版画美術館で5月19日まで開催中です。

昭和初期に活動した「新版画集団」と「造形版画協会」のリーダー、小野忠重(ただしげ)の旧蔵品をはじめ、グループのメンバー約40人の作品約300点を一挙紹介。

圧巻の展示から浮かび上がるのは、創作活動に打ち込み激動の時代を乗り越えた若い版画家たちの青春群像でした。本記事では内覧会のようすをご紹介します。

オリジナルな創作版画の魅力を発信:第一部 新版画集団-「版画の大衆化」を掲げて


藤牧義夫《第1回新版画集団展示会ポスター》1932年 小野忠重版画館所蔵
グループのメンバーは、ほとんどが20代前半の若者22名

展示は第一部と第二部の二部構成。第一部は1932年に小野忠重、藤牧義夫らが中心となって結成した「新版画集団」、第二部は新版画集団解散後、1937年に結成された「造形版画協会」の活動と作品紹介です。


第一部 展示風景より

第一部は新版画集団の活動とメンバーの作品を展示しています。

明治末期から昭和期前半にかけて、作家自らが絵を描き、版を制作する“創作版画”がブームになりました。

浮世絵版画は絵師や彫師、摺師などが工程ごとに分業しますが、これを作家が1人で行う新しい表現スタイルです。

この創作版画に取り組む小野忠重らが、「版画の大衆化」を目標に掲げ「新版画集団」を結成、版画誌『新版画』の発行や展覧会の開催などを活発に行いました。

彼らは活動をとおして切磋琢磨し、創作版画の芸術的価値を発信します。グループの中心的役割を果たしたのが小野忠重でした。


小野忠重《生糸輸出》1932年 東京国立近代美術館所蔵
小野は工場や労働者、時事問題など社会派のテーマを描いた

小野忠重は1909年東京生まれ。学生時代から美術に興味を持ち、やがてプロレタリア美術運動に参加。その後、新版画集団、造形版画協会を結成、版画運動の中心的存在として活躍します。

恐慌による経済悪化や戦争といった、困難な時代を生きる生活者や当時の世相を数多く描きました。版画家・版画史研究家としても活躍し、専門書を多数著しています。


藤牧義夫《つき(『新版画』12号収録)》1934年 神奈川県立近代美術館所蔵
雑誌にとじ込んだ、小さい作品

新版画集団が発行していた版画誌「新版画」に掲載された、藤牧義夫の作品《つき》です。藤牧義夫は群馬県館林出身の版画家で、小野忠重とともに新版画集団の中心メンバーでした。

《つき》は三角刀でガリガリと彫った荒々しいタッチの作品ですが、筆者は細かい線や色使いに繊細さも感じました。

「単に月を描くというより、自分の心情や感情を表現している作品だと思います」と同館の滝沢恭司学芸員は話します。


コラム1 第1回版画アンデパンダン展特別陳列「版画に於ける組織的制作」について 展示風景より

展示には6カ所のコラムコーナーが設けられ、グループが活動の一環で行った企画を紹介しています。

「第1回アンデパンダン展」での小企画「版画に於ける組織的制作」の紹介です。アンデパンダン展とは、出品に審査がない、誰でも参加できる展覧会です。

より多彩に、造形的に:第二部 造形版画協会(戦前を中心に)-絵画的充実を目指して


清水正博《出発》1937年 和歌山県立近代美術館所蔵
4枚を組み合わせた大作

第二部は造形版画協会の紹介です。新版画集団が1936年12月に解散し、1937年に同集団のメンバーだった5名によって、新たに造形版画協会が結成されました。

上の写真は造形版画協会の第1回展に出品された、清水正博(まさひろ)の《出発》です。サイズや質感に油絵を意識しているようすがうかがえます。


第二部 展示風景より

造形版画協会は、絵画の造形性の確立や質的な向上を目標に活動します。版画が大衆に認められるためには、質の向上が欠かせないと考えた結果でした。


小野忠重《狐市街》1938年 神奈川県立近代美術館所蔵
街に狐が歩く、戦時体制下の世相を寓意的に描いた作品

《狐市街》は、重厚な画面に、協会が目標とした絵画的充実が見られる作品です。


矢田卿二(桂一、桂示)《童子》1942年 小野忠重版画館所蔵
矢田は主に石版画の作品を制作した作家

矢田卿二(やだけいじ)の作品《童子》です。滝沢学芸員によると、太い輪郭線は同時代にフランスで活躍したフォービズムの画家、ジョルジュ・ルオーの影響だそうです。

まとめ

「版画の青春」というタイトルには、20代前半を版画の制作と発表に真剣に臨んだ若者の青春。そして、明治末期に登場してから約30年という発展途上期だった、創作版画の青春期という、2つの意味が込められています。

「苦しい時代も、集中できるものがあれば乗り越えられるのかなと想像しながら展覧会を企画しました」と滝沢学芸員。

おびただしい数の作品に、若い作家たちのエネルギーが渦巻いているようでした。

同展では関連イベントとして、講演会、ギャラリートーク、三者鼎談、版画体験、ピアノコンサートなどが予定されています。

Exhibition Information

展覧会名
版画の青春 小野忠重と版画運動 ―激動の1930-40年代を版画に刻んだ若者たち―
開催期間
2024年3月16日~5月19日
会場
町田市立国際版画美術館
公式サイト
https://hanga-museum.jp/
注意事項

※会期中4月23日(火)から約10点を展示替えします