特別展「法然と極楽浄土」/東京国立博物館

浄土宗ゆかりの多彩な文化財が一堂に集結【東京国立博物館】

2024年4月26日

特別展「法然と極楽浄土」/東京国立博物館

《仏涅槃群像》江戸時代 17世紀 香川・法然寺

東京国立博物館 平成館にて、特別展「法然と極楽浄土」が6月9日まで開催中です。

平安時代末期、たび重なる戦乱や地震などの災害、疫病の流行などによって、社会は混乱し、多くの人びとが苦しんでいました。

こうしたなか法然(ほうねん、1133-1212)は、阿弥陀如来を信じ念仏を唱えれば、誰でも救われ極楽往生できると説き、浄土宗を開きました。
そのわかりやすい教えは、身分を問わず多くの人びとに支持され、現代まで受け継がれています。

本展は、この浄土宗の美術と歴史を鎌倉時代から江戸時代まで紹介する初めての展覧会です。

会場には国宝・重要文化財を含む多彩な文化財が一堂に集結。
浄土宗850年の歴史を、各地の浄土宗寺院などが所蔵する名宝によってたどります。

法然ってどんな人?法然の教えとその生涯

第1章では、浄土宗の宗祖・法然とその生きた時代に着目。
法然の肖像彫刻や伝記、法然の記した書物などで、その教えと生涯を紹介します。

鎌倉時代に造られた数少ない法然の彫像のひとつ。表情は柔和で親しみやすく、今にも動き出しそうなリアリティある描写が素晴らしい逸品です。


《法然上人坐像》鎌倉時代・13世紀 京都・百萬遍知恩寺

会場には、法然の生涯を描いたさまざまな伝記絵が並び、ビジュアルに法然の足跡をたどることができます。

なかでも国宝《法然上人絵伝》は、法然の伝記を描いた絵巻のうち、もっともよく知られた名品。

法然の生涯だけでなく、浄土宗を信仰した公家・武家や弟子たちのようすも描かれており、当時の人びとの暮らしを知る資料としても貴重な作品です。


国宝《法然上人絵伝》鎌倉時代・14世紀 京都・知恩院 ※会期中巻替えあり

浄土教美術の最高峰「早来迎」が修理後初公開

第2章では、浄土宗でもっとも信仰される仏である阿弥陀如来に着目。

阿弥陀如来が菩薩たちとともに、極楽浄土から亡くなる人を迎えに来るさまを描いた来迎図や、各地に伝わる阿弥陀如来像などから、多くの人びとの心のよりどころとなった阿弥陀のすがたを観ていきます。


(左)国宝《阿弥陀二十五菩薩来迎図(早来迎)》鎌倉時代・14世紀 京都・知恩院 展示期間:4月16日(火)~5月12日(日)

国宝《阿弥陀二十五菩薩来迎図(早来迎)》は、スピード感を強調した表現から、 「早来迎(はやらいごう)」の名で知られています。

2019年から3年をかけて行われた修理によって、より美しく鮮明になりました。今回は修理後初公開となります。


《阿弥陀如来立像》 鎌倉時代・13~14世紀 岡山・誕生寺 展示期間:4月16日(火)~5月12日(日)

岡山県・誕生寺は、法然誕生の地として、古くから信仰を集めてきたお寺です。
ここに伝わる鎌倉時代の像も展示されています。

縦横4メートル!究極の極楽浄土図が東京初公開

法然の没後、その弟子たちは教えを広めるために九州や鎌倉、京都などを拠点に活動を展開していきます。

第3章では、法然の弟子たちにスポットを当て、肖像画や関連資料などから法然の教えの広がりをたどります。


第3章展示風景より

本展の大きな見どころのひとつ国宝《綴織當麻曼陀羅》は、奈良時代に貴族の娘の祈りによって織り上げられたとされる巨大な極楽浄土図です。

東京では初公開で、5月6日までの期間限定公開。
東京で當麻寺の本尊に対面できるまたとない機会です。ぜひ会場でそのサイズ感と美しさを体感してみてください。


国宝《綴織當麻曼陀羅》中国・唐または奈良時代・8世紀 奈良・當麻寺 展示期間:4月16日(火)~5月6日(月・休)

京都を拠点に活躍した浄土宗・西山(せいざん)派によって見いだされた国宝《綴織當麻曼陀羅》。
法然の弟子の証空(しょうくう)が、この曼陀羅の写しを数多く作ったことにより、広く知られるようになりました。


(左)重要文化財《當麻曼陀羅縁起絵》鎌倉時代・14世紀 奈良・當麻寺
(右)《当麻曼荼羅図》鎌倉時代・14世紀 東京国立博物館 いずれも展示期間:4月16日(火)~5月12日(日)

国宝《綴織當麻曼陀羅》の成立に関わる説話を描いたのが、国宝《当麻曼荼羅縁起絵巻》です。
5月12日までは、井戸を掘り、曼陀羅を織るための蓮糸を染める場面が展示されています。


国宝《当麻曼荼羅縁起絵巻》鎌倉時代・13世紀 神奈川・光明寺 ※会期中巻替えあり

5月8日からは、もっとも詳細に国宝《綴織當麻曼陀羅》の図様を伝え、鮮やかな色彩で描かれた重要文化財《當麻曼荼羅(貞享本)》(當麻寺)が展示されます。

江戸時代における浄土宗の発展

浄土宗は、徳川家康が増上寺、知恩院をそれぞれ江戸、京都の菩提所と定めたことで、江戸時代に大きく発展しました。

第4章では、多彩でスケールの大きな宝物で、江戸時代の浄土宗のようすをたどります。

家康が収集し、増上寺に寄進した「大蔵経(だいぞうきょう)」は、中国の宋・元代、朝鮮・高麗時代に制作された膨大な仏教の経典類(仏の教えを記した書物)です。

個別でも貴重な大蔵経が3部も伝来していることは、世界的にも珍しいそうです。


展示風景より、重要文化財《大蔵経》宋版、元版、高麗版の展示

知恩院三門(国宝)などを造営した2代将軍秀忠。
元和7年(1621)には、同寺に経蔵(八角輪蔵、重要文化財)を建立し、躍動感のある《八天像》を安置しました。


《八天像(帝釈天像、持国天像、金剛力士像、密迹力士像)》康如・又兵衛等作 江戸時代・ 元和7年(1621) 京都・知恩院

家康自身の命によって造られたと伝わる重要文化財《徳川家康坐像》(東京国立博物館)も、4月30日から公開されます。

本展は、東京、京都、福岡の3会場で開催されます。
東京会場では全国のゆかりの名宝とともに、芝・増上寺、目黒・祐天寺など、関東浄土宗寺院の宝物にも注目して紹介しています。


《祐天上人坐像》 竹崎石見作 江戸時代・享保4年(1719)  東京・祐天寺

祐天は、将軍から庶民に至るまで多くの人びとの尊敬を集めた浄土宗の高僧のひとり。
その姿は祐天寺の本尊として生き生きと写されています。

幕末の増上寺に奉納された破格の羅漢図

本展の注目作品のひとつ《五百羅漢図》は、幕末の絵師、狩野一信が晩年におよそ10年の歳月をかけて制作し、増上寺に奉納された羅漢図の大幅です。

500人の羅漢の日常や不思議な力で奇跡を起こすすがたなどを描いた全100幅のうち、24幅が展示されます(会期中展示替えあり)。


《五百羅漢図》 狩野一信筆 江戸時代・19世紀 東京・増上寺 ※会期中幅替えあり

西洋の絵画技法も用いて描かれた、色鮮やかでエネルギッシュな画面は圧巻の一言!羅漢たちの個性豊かな表情をじっくり鑑賞してみてください。

壮大なスケールで立体化された涅槃群像

そして展示の最後では、香川・法然寺の三仏堂(涅槃堂)にある、壮大なスケールの立体涅槃群像が登場!

これは、お釈迦様亡くなったときの場面を立体的に再現した群像で、高松藩初代藩主松平頼重(水戸徳川家2代藩主光圀の兄)が京都の仏師を招いて造らせたものです。


《仏涅槃群像》江戸時代・17世紀 香川・法然寺

2mを超える巨大なお釈迦さまの像の周りを、その死を嘆き悲しむ菩薩、 羅漢、 動物など26体が取り囲み、圧倒的な存在感と迫力のある空間を作り出しています。

このエリアはフォトスポットになっていて、写真撮影も可能です。


《仏涅槃群像》江戸時代・17世紀 香川・法然寺

会場内の特設ショップでは、《仏涅槃群像》に登場する動物をモチーフにしたぬいぐるみなども販売中。

ほかにも展覧会名にちなんだ”極楽風呂桶”、お湯を注ぐと”極楽”の文字が浮かび上がる湯呑など、展覧会オリジナルの特別なグッズが多数用意されています。
ぜひお気に入りのアイテムを見つけてみてださい。

音声ガイドナビゲーターは、歌舞伎俳優の松本幸四郎さん、市川染五郎さんが担当。
作品の魅力をわかりやすく紹介してくれます。

本展は秋には京都、来年は福岡に巡回しますが、会場ごとに特色があり、出展作品も異なります。

詳細は展覧会公式サイトでご確認ください。

仏教の教えに関する展覧会というと、ちょっと難しいように感じますが、すべての苦しむ人が救われることを目指した法然やその継承者たちの教えは、混沌とした現代に生きる私たちにも、大きな示唆を与えてくれそうです。

850年の長きにわたり受け継がれてきた浄土宗の歴史と、多くの人を救い、生きる希望を与えてきた法然の教えに、この機会に触れてみてはいかがでしょうか。

※文中、展示期間表記のない作品は通期展示です。

Exhibition Information

展覧会名
特別展「法然と極楽浄土」
開催期間
2024年4月16日~6月9日
会場
東京国立博物館 平成館
公式サイト
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/honen2024-25/
注意事項

※会期中、一部作品の展示替えを行います。
前期:4月16日~5月12日
後期:5月14日~6月9日