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2024年11月1日
ときめきの髪飾り ―おしゃれアイテムの技と美 ―/細見美術館
おしゃれ心は今も昔も変わらない!
「櫛」や「簪(かんざし)」など江戸時代のおしゃれアイテムを特集したちょっと珍しい展覧会が、細見美術館(京都府)で開催されています。
会場には、髪飾りをはじめ化粧道具や当時の花嫁衣裳までがズラリと並び、江戸時代のファッションカタログのような様相なのです。
(※展示品は一部を除き、澤乃井櫛かんざし美術館所蔵)
本展の展示物は、現在休館中の「澤乃井櫛かんざし美術館(東京・青梅市)」が所蔵する日本工芸の技が凝縮された装身具の数々。
それを京都で観ることができる貴重な機会となっています。
この斬新なデザインにご注目。桜の花を大胆に図案化した蒔絵櫛です。
ドイツの展覧会でも人気を博したというデザインは、江戸時代のもの。この櫛は、澤乃井櫛かんざし美術館のシンボルマークにもなっています。
このコレクションは、京都・祇園生まれの岡崎智予(おかざきちよ)氏が40年以上かけて収集した3,000点以上の櫛や簪が中心。
岡崎氏は祇園で芸妓となり、その後東京で料亭の女将として活躍しました。
そのコレクションにかける情熱は、岡崎氏を主人公のモデルとした『光琳の櫛』という小説になったほどです。
このコレクションが失われないように尽力したのが、銘酒「澤乃井」で知られる小澤酒造株式会社の名誉会長・小澤恒夫氏です。
小澤氏は本社・酒蔵のある青梅の地に「澤乃井櫛かんざし美術館」を開館しました。
本展では、岡崎氏が愛用した着物や帯も展示。さらに、彼女と親交のあった坂東玉三郎氏の舞台衣装なども紹介しています。
展示の中心である櫛や簪のコレクションの他に、人と人とのつながりが感じられる品々を紹介しているのも興味深いです。
花嫁衣装も展示されていました。
こちらは秋田地方の婚礼衣装。手の込んだ刺しゅうに見とれてしまいます。
秋田花嫁の簪は、派手で豪華。髷(まげ)も一般的な高島田ではなく、大きな簪にあった勝山髷(かつやままげ)を結っていたそうです。
簪によって髪の結い方も変わってくるんですね。
こちらは婚礼化粧道具。江戸時代初期には体系化され、豪華なものになったそうです。
岡崎氏が生涯をかけて収集した美しいコレクションを観ていきましょう。
こちらは琳派の絵師、尾形光琳図案。江戸中期の櫛です。
光琳がお世話になった人にプレゼントしたと伝えられています。
日本最古の櫛は約7000年前の遺跡で発掘されましたが、古代ではファッションではなく占いや祈祷に使われたそう。
櫛が実用化したのは江戸時代に入ってからのこと。
ヘアスタイルの変革が起こり、それまでの「垂らし髪」から「結い上げ髪」へ。
そこで櫛や簪の需要が高まり、ファッションとして装飾性が求められるようになりました。
シンプルだけれど遠目でもとても目立つデザインの櫛は、江戸で人気の蒔絵師・原羊遊斎作(はらようゆうさい)です。
羊遊斎による印籠(いんろう)も人気でした。
櫛や簪は、象牙(ぞうげ)や鼈甲(べっこう)などさまざまな素材の特徴を生かして作られました。
これらの素材は輸入品で高価だったため、鼈甲に似せて作った「擬甲(ぎこう)」も出回りました。
上の写真の中央にあるのは「びらびら簪」と呼ばれる簪。
歩くとサラサラと微かに音がするため、良家の若い娘や舞妓さん愛好のおしゃれアイテムだったとのことです。
この変わったデザインの櫛に描かれているのは日本地図。西日本の地図ですね。
伊能忠敬による「大日本沿岸海輿地全図」がこの頃ブームになり、ファッションアイテムにも登場。
日本地図の櫛や印籠は他にも展示されていました。
素材は今や貴重品の象牙です。
鮮やかな赤、櫛いっぱいに広がる桜の花びら。若い女性の髪を飾ったのでしょうか。とても愛らしい櫛です。こちらも象牙細工です。
江戸時代のお嬢様の揃いのおしゃれ3点セット。上から櫛、簪、そして一番下が笄(こうがい)です。
笄は髷に挿して使ったり、髪をぐるぐると巻きつけたりして使います。
今でも人気になりそうなデザインです。
こちらは昭和に入ってからの作ですが、あまりに可愛いのでピックアップ。
素材は合成樹脂のセルロイド。象牙の代替品として使用されました。
ところで、江戸時代には財政再建のために贅沢禁止のお触れ「倹約令」が何度も出されたのをご存じでしょうか。
倹約令は衣服や髪飾りまで制約するものでした。
でもどうにかしておしゃれを楽しみたい人びとは、あの手この手を使います。
上の簪をよく見てみてください。先端部が耳かき状になっているのがお分かりいただけるでしょうか。
「これは耳かきだから」と実用品のフリをしてお上の目をくぐったのです。
今回の展示で面白かったのはこちら。江戸時代版「女性用美容完全マニュアル本」です。
髪型、化粧法、着こなしなどが絵入りで解説されています。
鼻が低いのを高く見せる化粧法など、本当に今も昔も変わらないですね。
当時の女性たちも、きっとマニュアル本を参考に髪を結い、流行りの髪型に整えたのでしょう。
左の帯状のかみ紙は「丈長(たけなが)」と言って、髷を形づくる時に用いる和紙です。
そしてこちらが「紅板(べにいた)」と呼ばれる、江戸後期に発達した外出時の携帯用紅入れです。
象牙や金銀、鼈甲などの材質に象嵌(ぞうがん)や蒔絵が施してある、美しい工芸品です。
「こんなに多くの櫛やかんざしを観る機会はなかなかないと思います。作り手、オシャレを楽しんだ人、情熱をもって収集した人。小さな髪飾りに関わった人の心意気を感じてもらえたら」と、細見美術館の伊藤京子主任学芸員が語ってくれました。
展覧会場では、来場の皆さんが楽しそうに鑑賞していたのがとても印象的でした。
あなたもぜひ、お気に入りの櫛や簪を探してみてください。
さまざまな素材、デザイン、細工の中に、きっと心の琴線に触れる一品と出会えることでしょう。
鑑賞後は、ミュージアムショップに立ち寄るのもお忘れなく!