坂本龍一 | 音を視る 時を聴く/東京都現代美術館

音の可能性を探究し続けた 坂本龍一の挑戦に迫る展覧会【東京都現代美術館】

2025年1月8日

音の可能性を探究し続けた 坂本龍一の挑戦に迫る展覧会【東京都現代美術館】

東京都現代美術館で、音楽家・アーティスト 坂本龍一の、大型インスタレーション作品を紹介する日本では初となる最大規模の個展「坂本龍一 | 音を視る 時を聴く」が開催されています。

生前に坂本が遺した展覧会構想を軸に、未発表の新作とこれまでの代表作の没入型・体感型サウンド・インスタレーション作品を体験できる展覧会です。

音楽とアートの枠をこえる 坂本龍一の探究

世界的な音楽家として知られる坂本龍一は、1970年代から「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」のメンバーとして活躍。

さらに、映画「戦場のメリークリスマス」をはじめとした映画音楽でも広く知られています。

一方、その活動は音楽の枠を超え、1990年代からはマルチメディアを駆使したライブパフォーマンスを展開。

2000年代からは空間全体を取り込むサウンドインスタレーションを手掛けるなど、ライブコンサートやCDで鑑賞するのとは違った形の音楽の可能性を探究してきました。


坂本龍一+高谷史郎《async–immersion tokyo》2024年

今回の展覧会では、「時間とは何か」、「音を立体的に設置すること」といった坂本の探究を、作品を体験しながら考えることができる、東京の公立美術館では初の試みです。

音・光・時間の関わりを探る

アーティストで、「ダムタイプ」のメンバーとしても活動する高谷史郎は、坂本龍一と数多くの作品を制作してきており、今回の展覧会ではコラボレーション作品5点を展示しています。

会場に入ると、3つの大きなスクリーンが現れます。高谷史郎とのコラボレーション作品《TIME TIME》は、本展のために坂本が生前から構想していた新作インスタレーションです。


坂本龍一+高谷史郎《TIME TIME》2024年

水盤の上に映し出される映像では、夏目漱石の『夢十夜』や荘子の「胡蝶の夢」などを参照しながら、笙奏者・宮田まゆみの演奏、田中泯による舞踊によって、「時間とは何か」という普遍的なテーマを夢幻的に問いかけています。


坂本龍一+高谷史郎《TIME TIME》2024年

フィールドレコーディングによって収集した音を配置・編曲した楽曲は、鑑賞者の前面と背面に複数設置されたスピーカーから、「音を空間に配置する」ように聞こえてくるようです。

また、高谷史郎との代表作のひとつ《LIFE–fluid, invisible, inaudible…》は、グリッド状に吊るされた水槽内に霧が立ちこめ、その中に映像が投影される作品です。各水槽には2基ずつスピーカーが設置されており、水槽の真下に立つと、それぞれ違った音が聞こえてきます。


坂本龍一+高谷史郎《LIFE–fluid, invisible, inaudible,,,》2007年

本作品に登場する「水」と「霧」という要素は、坂本にとって特別な要素であり、他の作品にも繰り返し登場してきました。


坂本龍一+高谷史郎《LIFE–fluid, invisible, inaudible…》2007年

このほか、カールステン・ニコライアピチャッポン・ウィーラセタクンZakkubalanらとコラボレーションした作品も展開されます。


坂本龍一+Zakkubalan《async–volume》2017年

屋外にも広がる 霧と音の空間

今回の展覧会では、屋外にも作品が展開されています。

坂本にとって大切な要素のひとつである「霧」を主役にしたのは、中谷芙二子、高谷史郎とのスペシャル・コラボレーション作品《LIFE–WELL TOKYO》霧の彫刻 #47662。

会場の地下2階からつながるサンクン・ガーデンで、毎時0分・30分にスタートします。


坂本龍一+中谷芙二子+高谷史郎《LIFE–WELL TOKYO》霧の彫刻 #47662 2024年

中谷芙二子は、人工の霧による「霧の彫刻」の作品で知られるアーティスト。今回の展示では中谷による霧の彫刻の動きをカメラで捉え、坂本による「音」へと変換します。

階上に設置された可動式の鏡には太陽の光が反射され、霧の中に光線を描き出します。晴天の日中に屋外で体験したい作品です。


坂本龍一+中谷芙二子+高谷史郎《LIFE–WELL TOKYO》霧の彫刻 #47662 2024年

真鍋大度との共作《センシング・ストリームズ 2024–不可視、不可聴 (MOT version)》は、目には見えない電磁波の「流れ(ストリームズ)」を一種の生態系と捉え、リアルタイムで映像と音によって顕在化させる作品です。


坂本龍一+真鍋大度《センシング・ストリームズ 2024–不可視、不可聴 (MOT version)》2024年

2014年に発表されて以来、アップデートを繰り返しながら展示されてきた本作。今回の展示では、16メートルにわたるLEDディスプレイで展示されています。展示室を出て、中庭に展示されているのでぜひお見逃しなく。

ピアノが奏でる、記憶と再生のインスタレーション

最後の展示室では、坂本龍一と岩井俊雄によるパフォーマンス《Music Plays Images X Images Play Music》を再現した、新作インスタレーションが展開されます。

1996–97年に行われた本パフォーマンスは、岩井の代表作のひとつ《映像装置としてのピアノ》を応用したもの。

坂本が鍵盤を叩くことでピアノから映像が立ち上がり、映像の光が鍵盤に落ちることで光がピアノを奏でるという、実験的な試みでした。


坂本龍一×岩井俊雄《Music Plays Images X Images Play Music》1996–1997/2024年

今回は、坂本が当時演奏した記録データと記録映像、さらに、映画「Ryuichi Sakamoto | Opus」にも登場する、生前に坂本が演奏したピアノと椅子を組み合わせ、パフォーマンスを再現しています。

半透明のスクリーンに坂本龍一の後ろ姿が映し出され、まさにその指先が鍵盤を押さえ、目の前でパフォーマンスが行われているかのように感じさせます。

まとめ

「坂本龍一 | 音を視る 時を聴く」は、坂本龍一が追い求めた「音」と「時間」の可能性を感じることができる展覧会です。


左から (キュレーター)難波祐子、(アーティスト) 岩井俊雄、カールステン・ニコライ、中谷芙二子、高谷史郎

高谷史郎は、「(坂本は)インスタレーションをつくるときにはインスタレーションの枠をはみ出るようなことを考え、舞台をつくるときには舞台のフォーマットからはみ出してでも自分のやりたいことを表現しようとされてきました。」と、坂本とコラボレーションを行った作品について振り返りました。

既存のフォーマットを超え、音楽の可能性を追求してきた坂本龍一の挑戦を、ぜひ会場で体験してみてください。

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