アートな街歩き(山手線南エリア編)アール・デコ建築から奇界写真家、美人画まで、記憶をめぐる初夏の美術展へ

2025年6月16日

アートな街歩き(山手線南エリア編)アール・デコ建築から奇界写真家、美人画まで、記憶をめぐる初夏の美術展へ

忘れられた浮世絵師の繊細なまなざし、気品を極めた女性像、アール・デコ建築に宿る静かな時間、そして世界の“奇妙”と“美”をめぐる写真の旅。

この初夏は、原宿・恵比寿・目黒・品川へ。

JR山手線や東京メトロ沿線をたどりながら、浮世絵、日本画、建築、写真と、多彩なジャンルのアートと出会うひとときを。

太田記念美術館から山種美術館、東京都庭園美術館、キヤノンギャラリーSまで、それぞれの場所でしか味わえない“美の物語”が、あなたを待っています。

<原宿>
鰭崎英朋が映す、物語を秘めた繊細な美人画

1980年開館の太田記念美術館は、浮世絵に特化した貴重な美術館。

約15,000点のコレクションをもとに、緻密なテーマ性をもって江戸から明治・大正に至る浮世絵の魅力を多角的に伝えています。


太田記念美術館の外観

今回の展覧会では、「最後の浮世絵師」とも称される鰭崎英朋(ひれざき・えいほう)を特集。

明治から大正にかけて活躍した彼は、小説の口絵を舞台に、繊細で物語性に富んだ“美人画”を数多く生み出しました。

色鮮やかな木版画、やわらかな石版画、そして筆致が息づく肉筆画まで──彼の作品には、誰にも語られなかった“物語”がそっと潜んでいるかのようです。


会場のようす

一枚の絵が語り出すのは、時代を超えて心に響く美しさと、その奥に漂う哀しみや影。

大衆のために描かれながらも、どこか現代にも通じる繊細な感性が、鰭崎英朋の絵には宿っています。

忘れられていた美が、ここで静かに息を吹き返す──そんな出会いが、きっとあなたを待っています。


会場のようす

展覧会名:鰭崎英朋
開催期間:5月31日~7月21日
会場:太田記念美術館
公式サイト:https://www.ukiyoe-ota-muse.jp/

<恵比寿>
上村松園のまなざしが描く、気品ある美のかたち

1966年に日本橋で開館した山種美術館は、日本画専門の美術館として、横山大観や上村松園、速水御舟らの名作を数多く収蔵し、その質の高さと企画力で定評を得ています。

渋谷・広尾に拠点を移してからも、伝統と現代をつなぐ日本画の魅力を発信し続けています。


会場のようす

生誕150年を迎える上村松園──彼女が生涯をかけて描き続けたのは、「気品ある美」。凛とした佇まい、たおやかな身のこなし、そして沈黙の中に宿る強さ。

今回の展覧会では、美術館所蔵含むの22点を中心に、初期から晩年までの代表作が並びます。

さらに、松園が遺した言葉や衣装の美にも焦点を当て、彼女のまなざしに宿る“美”の本質に迫ります。


会場のようす

また、小倉遊亀、片岡球子ら女性画家たちの作品も交え、女性たちが描いてきた“女性像”の系譜をたどります。

美人画という枠を越え、ひとりの女性の矜持と美意識に触れる時間──それは、今を生きる私たちにとっても大切な問いを投げかけてくれるはずです。

展覧会名:生誕150年記念 上村松園と麗しき女性たち
開催期間:5月17日~7月27日
会場:山種美術館
公式サイト:https://www.yamatane-museum.jp/exh/2025/uemurashoen.html

<目黒>
アール・デコが語る建築美と日本の近代の記憶

この夏、東京都庭園美術館では、一つの建物が歩んできた静かな時間にそっと耳を澄ます展覧会が開かれます。

1933年、朝香宮家の邸宅として誕生したこの空間は、時代の流れとともに皇族の私邸から政務を支える場、迎賓館へとその姿を変え、やがて美術館として多くの人びとに開かれてきました。

そのひとつひとつの変遷が、日本の近代史と美意識の軌跡を語りかけてきます。


東京都庭園美術館の外観

会場では、建物が果たしてきた役割や意味を、貴重な写真・映像資料とともに紹介。

特に目を引くのは、朝香宮夫妻がパリで魅せられたアール・デコ様式──柔らかな光を受けて浮かび上がる意匠の数々が、来館者の心に静かな余韻を残します。


会場のようす

さらに今回は、6年ぶりとなる夏の開催。窓辺から庭園へと光が流れこみ、邸宅が本来もつ開放感が広がります。

普段は非公開の3階・ウインターガーデンも特別公開。陽光とともに感じる空間の息吹に、建築とともに紡がれた“時間”の豊かさが、そっと胸に沁みてくることでしょう。


会場のようす

展覧会名:建物公開2025 時を紡ぐ館
開催期間:2025年6月7日~8月24日
会場:東京都庭園美術館
公式サイト:https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/20250607-0824_lookingatarchitecture/

<品川>
佐藤健寿が辿る、旅のなかの記憶と風景

佐藤健寿は、世界各地の“奇妙”で“美しい”ものを求めて旅を続ける写真家。宗教建築や奇怪な風習、都市伝説の現場まで、さまざまな“未知”をフィールドワークのように撮り歩いてきました。

代表作『奇界遺産』シリーズは写真集として異例のヒットとなり、TBS『クレイジージャーニー』出演をきっかけに、その独自の世界観が一躍注目を集めました。


キヤノンギャラリー Sのエントランス

今回の展覧会「U.F.O. — Unknown/Forgotten/Overlooked」では、彼が約20年にわたって世界中を旅する中で出会った“記憶の断片”をたどります。

特別な名所でも有名な出来事でもない、けれど、なぜか目を奪われ、心に残った名もなき風景たち──そんな写真の数々が、時の層をめくるように静かに並びます。

構成は2003年から現在へとさかのぼるように展開され、まるで誰かの記憶をともに旅しているような感覚に。


会場のようす

会場では30分に及ぶ映像作品も上映されており、音と光が記憶の旅をさらに深めます。

ふと立ち止まって見つめた景色、その中に、あなた自身の記憶と重なる風景がきっとあるはずです。

展覧会名:佐藤健寿写真展「U.F.O.」
開催期間:2025年5月15日~6月24日
会場:キヤノンギャラリー S
公式サイト:https://personal.canon.jp/event/photographyexhibition/gallery/sato-ufo