永青文庫 近代日本画の粋―あの猫が帰って来る!―/永青文庫

あの猫が帰ってきた!名画で楽しむ近代日本画の世界【永青文庫】

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2025年10月16日

会場風景

永青文庫で、令和7年度秋季展 重要文化財「黒き猫」修理完成記念「永青文庫 近代日本画の粋―あの猫が帰って来る!―」が開催中です。

永青文庫の設立者・細川護立(ほそかわもりたつ)は、同時代の日本画家たちにいち早く注目し、優れた近代日本画コレクションを築きました 。

本展では、コレクションの中でも特に人気の高い、菱田春草の重要文化財《黒き猫》が本格的な修理後、初めて公開されます。

これを記念して、横山大観、竹内栖鳳、鏑木清方といった巨匠たちの名作も一堂に会します。

本レポートでは、前期展示の見どころをご紹介します。

猫好きではなかった?
春草が描いた《黒き猫》の魅力

重要文化財 菱田春草《黒き猫》 明治43年(1910) 前期展示

菱田春草は、横山大観らとともに新しい日本画の表現を追求し、近代日本画の発展に大きく貢献した画家です。

36歳の若さで亡くなりますが、短い生涯の中で多くの名作を生み出しました。

実は猫好きではなかったといわれる春草ですが、画題としては好んで取り上げ、生涯に20点以上の猫の絵を描いています。

その中でも最も完成度が高いとされるのが《黒き猫》です。

本作の見どころは、装飾性と写実性の見事な調和にあります。

背景の柏の葉は金泥と緑青を用いて、装飾的な美しさを強調。一方、猫は墨の濃淡とぼかしのみで、柔らかな毛並みや体の立体感まで表現しています。

引き込まれるような猫の瞳や、毛並みの質感は写真ではなかなか伝わりません。

修理を経て輝きを増したこの傑作を、ぜひ会場でご覧ください。

春草と近代日本画の巨匠たち

本展では、永青文庫が所蔵する春草作品全4点が、前後期に分けて公開されます。

《黒き猫》は前期のみの展示。後期には同じく春草の代表作である重要文化財《落葉》が登場します。

重要文化財 菱田春草《落葉》明治42年(1909) 熊本県立美術館寄託 後期展示

前期では、東京美術学校在学中の作品《平重盛》や、琳派の影響がうかがえる《六歌仙》が展示され、春草の多彩な表現をたどることができます。

菱田春草《六歌仙》 明治32年(1899) 熊本県立美術館寄託 前期展示

4階の展示室は、春草だけでなく、近代日本画を代表する画家たちの名品が並ぶ豪華な空間です。

大観の屏風作品《柿紅葉》は、柔らかな光の中で、木々の緑と柿紅葉の赤が美しく響き合う一作。

下村観山の《春日の朝》では、春日大社の静かな朝の情景が見事に表現されています。

下村観山《春日の朝》 明治42年(1909)頃 前期展示

画家とコレクターの深い絆

3階の展示室では、護立と画家たちの関係を物語る、永青文庫ならではの貴重なコレクションが紹介されています。

大観からは、毎年正月に宮中の歌会始の御題を描いた「勅題画」が贈られました。《社頭雪》はその連作の一点です。

(左から)横山大観《簑田喜太郎宛書簡》 昭和6年(1931)2月4日、横山大観《社頭雪》 昭和6年(1931) いずれも前期展示

また、日本美術院の再興期を支えた小林古径とは、護立がアトリエをたびたび訪ね、親しく交流しました。

古径の主要な作品の画稿を、ほぼ制作年代順にまとめた《画稿》は、没後に遺族から細川家に寄贈されたもの。
各作品の制作過程を知るうえで重要な資料です。

小林古径《画稿》 通期展示(頁替えあり)

暮らしを彩ったアート

護立のコレクションには、日々の暮らしを彩る身近な品々も含まれています。

展示作品からは、日常の中に芸術を取り入れて楽しんだ、護立の美意識が伝わってきます。

(右)横山大観《月に雲図(小襖)》 大正10年(1921)頃 通期展示

会場では、自邸や別荘のために依頼した小襖や、画家のデザインセンスが光る扇や手拭が展示されています。

横山大観《扇子箱下図》は、松を配した山々に大きな月を描いた扇子箱の下図。

これをもとに作られた蒔絵の扇子箱では、風に耐えて立つ松の姿など、細部まで忠実に再現されました。

(上段)横山大観下図《手拭》、(下段)平田百福下図《手拭》 昭和初期 いずれも通期展示

護立の言葉に見るコレクションへの想い

2階の展示室では、護立自身が遺した言葉を通して、彼のコレクションへの想いに迫ります。

戦時中、護立はコレクションに関する「書付」を残し始めました。

そこには、作品にまつわるエピソードや画家との関わりなどが彼自身の言葉で綴られ、その多くは作品を収める箱のなかに保管されました。

《春日の朝》の書付では、この作品を「観山の最もよき時代の作品」と評価し、後に観山自身が補筆した経緯についても詳しく触れています。

細川護立 下村観山「春日の朝」書付  昭和19年(1944)1月22日 前期展示

《平重盛》の書付では、「(春草が)第一人者となる素質はこの頃早くも萌されて居る」と、若き日の春草の才能について記しています。

細川護立 菱田春草「平重盛」書付 昭和18年(1943)年11月22日 前期展示

コレクターと画家たちの深い交流から生まれた、永青文庫の近代日本画コレクション。

その魅力を存分に味わえる、またとない機会です。

この秋、より美しくなって帰ってきた《黒き猫》とともに、珠玉の名画との出会いを楽しんでみてはいかがでしょうか。

※出品作品はすべて永青文庫蔵

Exhibition Information

展覧会名
令和7年度秋季展 重要文化財「黒き猫」修理完成記念 永青文庫 近代日本画の粋―あの猫が帰って来る!―
開催期間
2025年10月4日~11月30日
会場
永青文庫
公式サイト
https://www.eiseibunko.com/
注意事項

前期:10月4日〜11月3日
後期:11月7日〜11月30日
※前・後期で大幅な展示替えを行います。詳細は永青文庫の公式サイトをご確認ください。