妃たちのオーダーメイド セーヴル フランス宮廷の磁器/細見美術館

セーヴルとフランス宮廷が織りなす美の軌跡を辿る【細見美術館】

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2025年11月14日
セーヴルとフランス宮廷が織りなす美の軌跡を辿る【細見美術館】

《青地色絵金彩花果文皿》1776-83年 個人蔵

細見美術館にて、「妃たちのオーダーメイド セーヴル フランス宮廷の磁器-マダム・ポンパドゥール、マリー=アントワネット、マリー=ルイーズの愛した名窯-」が開催中です。

「陶磁器に出会う」シリーズ10回目となる本展。
セーヴル誕生からナポレオン帝政時代を中心に、厳選された国内コレクションを展示します。

《色絵金彩真珠花文皿》1781年 Masa’s Collection蔵

王侯貴族に愛されてきたセーヴル

細見美術館といえば、日本美術を中心に展示していることで知られていますが、今回は西洋陶磁がテーマ。

フランスの名窯・セーヴルの魅力を、約140件の作品で紹介しています。

展示は全4章構成で、ルイ15世の時代からナポレオン帝政期までのセーヴル磁器の歩みをたどることができます。

まず登場するのは、ルイ15世時代のフランス。

当時ヨーロッパでは、中国や日本から伝わった東洋磁器が流行しており、白くてツヤのある磁器は貴族たちの憧れでした。

そのような中、陶工デュポワ兄弟が1740年ごろにヴァンセンヌ窯を開きます。

そして、ルイ15世の愛人であり芸術の庇護者でもあったポンパドゥール夫人の支援を受け、1756年にセーヴルへ移転。ここから“セーヴル窯”としての歴史が始まりました。

1759年には王立セーヴル陶磁製作所となり、資金も技術も芸術家も集められ、まさに国家をあげてのプロジェクトに。

その結果、当時の流行を取り入れた意匠や精密な絵画表現、そして鮮やかな地色を誇るセーヴル磁器が次々と誕生していったのです。

たゆまぬ“美”の追求

ルイ15世の時代に“王の青”と称された「ブルー・セレスト」をはじめ、地色を多く持っていたことがセーヴルの特徴の一つです。

有名な地色の一つ、ポンパドゥール夫人の名前を冠した「ポンパドゥール・ピンク」。
今見ても可憐で上品ですが、作品によって色が微妙に異なることをご存知でしょうか。

左から《淡紅地色絵金彩鳥図輪花鉢》1758年 個人蔵、《淡紅地色絵金彩天使図四方皿》1759年 Masa’s Collection蔵、《淡紅地色絵金彩花文カップ&ソーサー》1759年 個人蔵、《淡紅地色絵金彩花文カップ&ソーサー》1761年 個人蔵

実は、この色の研究をしていた科学者が亡くなったことにより、未完の地色であるという説があります。

同展では、色味の異なる4つの「ポンパドゥール・ピンク」を見比べることができます。

《色絵金彩花文スープ鉢》1782年 個人蔵

そしてルイ16世の時代になると、国王自身がセーヴル窯の最大のパトロンに。
王宮での食卓を飾る食器や王妃マリー=アントワネットへの贈り物、外交の贈答品などが多数制作されます。

手描きの山鶉目模様(やまうずらめもよう)や贅沢な金彩など、細部までこだわり抜かれた豪奢な作品が並び、当時の華やかな宮廷文化が伝わってくるようです。

やがて、フランス革命が起こりナポレオン帝政時代に入り、セーヴル窯にも大きな変化が起こります。

《赤地色絵金彩蝶文皿》1809年 Masa’s Collection蔵

1800年、所長アレクサンドル・ブロンニャールのもとで近代化が進み、セーヴルは軟質磁器から硬質磁器へと転換。

硬質磁器を使うようになったことで、それまで油絵のような仕上がりであった絵付けがより精緻なものになりました。

また、カメオのような立体的な表現も可能に。華やかでありながら、より丈夫で実用的な作品が生み出されました。

宮廷を彩る、贅を尽くした品々

《色絵花》1750-60年代 個人蔵

会場を歩いていくと、時代ごとに少しずつ雰囲気が変わっていくのがわかります。

例えば、初期のヴァンセンヌ時代とされる《色絵花》は、本物かと見紛うような繊細な作品。

展示では花の部分のみが並べられていますが、元々は生花を生けるように飾られていたのだそうです。

また、宮廷で王侯貴族に使われていたティーカップや花瓶などは、生活に使うための実用品も多いのに、どれもまるで芸術作品のよう。

《色絵金彩婦人図花瓶》1774-75年 個人蔵

特に、《色絵金彩婦人図花瓶》は、ルイ16世の妹を描いた花瓶。

小ぶりな作品に細かく書き込まれた人物や花、美しい曲線を描くフォルムがひときわ存在感を放ちます。

展示では、その美をガラスケース越しに360度から鑑賞することができます。

《金地色絵昆虫文台皿付砂糖壺》1807年 Masa’s Collection蔵

そしてナポレオン帝政時代の作品では、金で装飾された食器や大型の壺など、公的な場面で使われた品々がずらり。

皇帝の威信を示すような厳かな雰囲気が感じられます。

初期は繊細で優雅、やがて豪華で力強いデザインへ。まるでフランスの歴史そのものが、セーヴル磁器を通して語られているようです。

まとめ

フランス貴族のための磁器として誕生したセーヴルは、日用品に始まり贈答品や記念品として発展していきました。

オーダーに応えると同時に、素材や色の研究によって宮廷にふさわしい美を追求。時代ごとに少しずつ異なる華やかさがセーヴルの魅力の一つとなっています。

ぜひ、細見美術館でその軌跡を体感してみてください。