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2024年11月21日
ジャポニスム―世界を魅了した浮世絵/千葉市美術館
浮世絵が持つ性質と魅力を「ジャポニスム」から探る展覧会が、千葉市美術館にて開催中です。
「ジャポニスム―世界を魅了した浮世絵」展示風景
本展では、メトロポリタン美術館をはじめアメリカ、ロシアなどから集結したジャポニスム作品、日本で生まれた浮世絵版画作品を、浮世絵コレクションで広く知られる千葉市美術館が誇る所蔵品とともに紹介。浮世絵の魅力について斬新な視点から再発見できる、ユニークな展覧会です。
※展覧会情報はこちら
「ジャポニスム」は、19世紀後半にヨーロッパで流行した日本趣味、とも呼ばれる美術の流れのことです。
江戸時代の庶民に親しまれた芸術だった浮世絵。日本人にとってあまりに身近なものだったことから、その重要性は認識されず、西洋に多く渡ります。海を渡った日本の美術工芸品は西洋の芸術家たちを驚かせ、その美意識に大きな影響を与えました。
本展は全10章。これまで西洋美術のジャンルという切り口で語られることの多かったジャポニスムを通して、改めて日本の浮世絵の特徴を発見します。
誰もが知る超有名な浮世絵、と言えば、やはり葛飾北斎が描いたあの大きな波の作品なのではないでしょうか。
葛飾北斎《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》天保2-4年(1831-33)頃 個人蔵
ダイナミックに襲いかかるような波と、船の上で成す術もない漕ぎ手たち。富士山が主役でありながら、大きな波の奥に控えめに配置された構図も特徴的です。
この図に多くの西洋の芸術家たちはもちろん、北斎の後続の浮世絵師たちにも大いに影響されました。
イワン・ビリービン《アレクサンダー・プーシキン著『サルタン王物語』挿絵》1905年初版
国立国会図書館国際子ども図書館蔵(1/12-2/6展示)
ロシアの画家・ビリービンが挿絵を描いた『サルタン王物語』では、構図や表現のなかに浮世絵の要素を感じることができますが、なかでも見開きの波を描いた場面は、ビリービン本人も北斎の《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》から影響を受けたことを認めています。
西洋の画家とあわせて、北斎の後続の画家たちにも注目です。
展示風景より左:歌川広重《六十余州名所図会 阿波鳴門の風波》安政2年(1855)1855
ホノルル美術館蔵 ジェームズ・ミッチナー・コレクション
北斎以前には、浮世絵版画の小さな画面のなかに、このような大きな動きのある主題を描く絵師はいなかったそうです。
北斎の波の表現が広まったことにより、波は重要なモティーフの一つとなり、浮世絵師たちはダイナミックな表現を競うように表現するようになっていきました。
西洋絵画の世界では、りんかくをぼやかしたり、奥行きを陰影法を使って表現したりと、写実性が非常に重視されています。
日本の美術、浮世絵では対照的に、モティーフを本物らしく描くことより、美しく描くことに重きを置いています。そんな日本の美意識に影響を受けた作品も多数紹介されます。
歌川広重《名所江戸百景 深川洲崎十万坪》安政4年(1857)個人蔵
本作は空を飛ぶ鳥の目線から景色が描かれていますが、当時、江戸で一番高い山は26mしかありませんでした。江戸の絵師たちは空から見える風景を想像し、鳥瞰図(ちょうかんず)を描いたのです。頭のなかでイメージしたものを描くことは、浮世絵師たちの得意分野でした。
こういった作品から影響を受けつつも、対照的な西洋の作品があります。
リヴィエール、アンリ《オーステルリッツ橋より―『エッフェル塔三十六景』のための習作》1891年 ジマーリ美術館蔵
エッフェル塔を望む風景を描いた本作では、制作のため、エッフェル塔に実際にのぼり写真を撮影し、参考にしたといいます。
頭の中でイメージしたものを描くことは、写実性を重んじる西洋の画家たちにとってはとても難しかったようです。
タイトルからは「冨嶽三十六景」のオマージュであることが分かります。エッフェル塔を富士山に見立てているのでしょうか?
西洋絵画のなかで扱いづらいと言われる色が「黒」です。そのまま使えば良くも悪くも目立ち、他の色と混ぜれば黒が勝ってしまう、立体表現の西洋絵画のなかでは、主役の色としては使われてきませんでした。
しかし浮世絵では「黒」は欠かすことのできない重要な色と言えます。
鈴木春信《夜の梅》明和3年(1766)頃 メトロポリタン美術館蔵
美しく深い黒がインパクト大な鈴木春信の《夜の海》。振袖の若い娘が、暗闇に浮かぶ白梅を楽しんでいます。こうした深い黒を表現するためには、何度か同じ墨版を重ね刷りしなければなりません。
シンプルながらも計算された構図と黒色の効果が見事な作品です。
黒い色が映えるジャポニスム作品も出品されています。
展示風景より中央:アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《ディヴァン・ジャポネ》1893年 ジマーリ美術館蔵
パリのカフェの開店公演を告げるポスターでは、黒が効果的に使用されています。ポスター右上に「ディヴァン・ジャポネ」と表記されていますが、こちらはカフェの店名で「日本の長椅子」を意味するそう。
作者であるロートレックは、印象派やポスト印象派など、当時の最先端の技術から影響を受けた画家です。1884年にモンマルトルに拠点を移した頃には浮世絵に関心を抱いており、自身でも多数の浮世絵版画をコレクションしていたそうです。
赤い髪色と黒のドレスの対比が鮮やかな本作は、日本からの影響が色濃く感じられますね。
現代では日本を代表する芸術として世界で知られる浮世絵。当時の西洋の人びとはどんな部分に感動し、影響されたのでしょうか? ぜひ間近でジャポニスム作品と、浮世絵を比較してみてくださいね。
コロナ禍のなかで海外からすぐれたジャポニスム作品が観られるのはとても貴重です。展示替えも数点ありますが、会期を通して常に200点以上を鑑賞することができます!
遠い西洋の世界を通して、日本の美意識に想いを馳せてみてはいかがでしょうか?
※会期中2月7日(月)に展示替えを行います。