ピエール=オーギュスト・ルノワール/10分でわかるアート
2021年11月17日
企画展「もてなす美 ―能と茶のつどい」/泉屋博古館東京

泉屋博古館東京にて、企画展「もてなす美 ―能と茶のつどい」が開催中です。
本展は、住友家の歴代当主に伝わる能楽と茶の湯の文化に注目し、もてなしの場で使用された道具類を紹介するものです。
普段、能楽になじみのない私は、「茶の湯はともかく、もてなしに能楽とは?」という疑問をいだきつつ、訪問しました。
15代当主の春翠が集めた能装束のコレクションが展示されています。
能装束は東京国立博物館の常設展示でよく見ますが、これだけの量を一気に見るのは初めてです。
泉屋博古館でも能装束をまとまったかたちで展示するのは約20年ぶりとのことで、貴重な機会になりました。
最初は、どれも綺麗だなぁ、と思いながら見ていたんですが、作品とキャプションを見比べているうちに、作品名が「地の色/描かれたもの全部/装束の名前」で構成されていることに気づき、俄然面白くなってきました。
例えば、「紅地/二重菱繋蝶花熨斗模様/唐織」といった具合です。


紅地二重菱繋蝶花熨斗模様唐織
そこからは頭の中で、作品名を当てるクイズ大会の始まりです。
色味を浅葱と萌黄で迷ったり、桔梗だと思ったのがクレマチス(鉄線)だったり、金糸が多めなのに「紺地」だったり・・・、知らなかった意匠の名前も覚えられ、漫然と見ているより数倍楽しめました。


紺地唐花七宝繋模様袷法被
これらのコレクションは実際に使用していたものもあり、春翠の生活に能楽が溶け込んでいたことがよくわかります。
(第1章のみ、写真撮影が可能です)
私の疑問「能楽=もてなす?」の答えがここで明らかになります。
大阪の有力商人だった住友家の当主たちが能をたしなんだのは、「武家との交際のため」という側面があったそうです。
足利将軍家が能を愛好し、それに他の武士が倣い、やがて観能が武士の社交場となって、能が武士のたしなみになる、という流れから、江戸時代には「能を知らねば商売にならん」という状況だったのでしょう。
12代当主の頃から能楽師の大西家とは交流があったようですが、春翠の代には師となった大西亮太郎が道具類の収集まで手伝う仲になっていたそうです。
春翠の財力と亮太郎の専門知識を駆使して、二人であれこれ品定めをしながら集めたんじゃないかと想像すると、こちらまで楽しくなってきます。
ちなみに、この章で展示されていた春翠が着用したとされる『紫地鉄線唐草模様長絹』は、完全に作品名を当てることができました!

白色尉
幼少期から茶の湯にも親しんでいた春翠は茶会を催すようになりますが、そこにはやはり茶の湯をたしなむ亮太郎も参加しており、ここでも二人の交流が深まります。
それにしても、芸事を通じて知り合ったら趣味まで同じだった、なんて友人にはなかなか巡り合えるものではありません。羨ましい関係性ですね。
展示には普段見慣れない土風炉や茶釜があったんですが、本展の鑑賞前に「千家十職」という茶道具を代々製作する職家集団があることを知ったばかりだったので、興味深く見ることができました。
100年前の風流人のおもてなしの様子が垣間見える、貴重な展示となっています。
