ハプスブルク家/10分でわかるアート
2024年12月18日
企画展「知覚の大霊廟をめざして——三上晴子のインタラクティヴ・インスタレーション」/NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

三上晴子《Eye-Tracking Informatics》 2011年/19年
身体の動きや視線にあわせて作品が変化していく—— 作品とそれを観る私たちが相互作用する「インタラクティヴ」な作品を1990年代から制作してきたアーティスト・三上晴子。
企画展「知覚の大霊廟をめざして——三上晴子のインタラクティヴ・インスタレーション」が、東京・初台のNTTインターコミュニケーション・センター[ICC]で開催されています。
本展では、2015年に急逝した三上晴子のインタラクティヴ・インスタレーション4作品が展示されています。
タイトルにある「知覚の大霊廟」は、三上が残したテキストからの引用で、「知覚によるインターフェース」をめぐる作品群を集めた「知覚の美術館/大霊廟」を構想していたことに由来するもの。
自分の「知覚」を使って体験することで成立する作品群です。
アーティスト・三上晴子(1961–2015)は、1980年代から情報社会と身体をテーマに、廃材を用いたジャンク・スカルプチャーや大規模なインスタレーション作品を発表してきました。
1995年以降は、「視覚」などの知覚を鑑賞の手段にとどめず、作品を動かすインターフェースとして扱い、作品が観る人の行為に反応して変化するインタラクティヴな作品を展開してきました。
今回は、大規模なインタラクティヴ・インスタレーション作品群を複数体験できる貴重な機会です。

本展では、4つのインタラクティヴ・インスタレーション作品と、その関連資料が展示されています。
《Eye-Tracking Informatics》は、「視線」を入力装置として用いる作品です。
眼鏡型のデバイスを装着すると、スクリーンに広がる宇宙空間のような暗い仮想空間に自分の「視線」が縦横無尽に走り回り、血管のような赤い軌跡として示されていきます。まさに「視ることそのものを視る」体験です。

三上晴子《Eye-Tracking Informatics》 2011年/19年
本作は、1996年に三上が初めて手がけたインタラクティヴ作品《モレキュラー インフォマティクス—視線のモルフォロジー》を原型としています。
スクリーンには過去の体験者の「視線」も青い軌跡で現れ、自分の視線と交差していきます。視線の動きにあわせて椅子が振動し、サウンドアーティストevalaによる三次元音響に包まれる感覚も印象的な作品です。
音の反響がほとんどない「無響室」で体験するのは、聴覚をめぐる作品です。
診療所の椅子のような椅子に身を預けると、部屋の灯りが落ち、心電図のような映像が浮かび上がります。やがて心臓や呼吸の音に包まれ、生き物の体内でその音を聴いているように、身体の内部と外部の境界が揺らいでいきます。

三上晴子《存在,皮膜,分断された身体》(サウンド・インスタレーション版の再現展示) 1997年 NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]
本作は1997年、ICC開館時に委嘱制作されたもので、「無響室」で1997年から2000年まで常設展示されました。
当時は、聴診器型の装置で自分の心拍や肺音を取り込み、立体音響と同じ音をもとに生成される動的な3Dグラフィックスを合わせて体験する構成と、作家の心拍音を用いたサウンド・インスタレーション版を選択して体験することができました。
本展では、サウンド・インスタレーション版の再現展示を体験できます。
2000年以降は展示の機会がなく、約25年ぶりの公開です。
《gravicells—重力と抵抗》は、重力を「第六の感覚」として身体で捉え直す作品です。

三上晴子+市川創太《gravicells—重力と抵抗》2004年/10年/25年
白い光のラインが並ぶステージに上がると、床からわずかに反発するような力を感じ、立つ位置にあわせてラインが歪んでいきます。
身体の重さや動きなどを床下センサーが検知し、重力の変化が線の歪みや音として表現されていきます。同じ場にいる他の人の動き、さらにGPSの位置情報も取り入れられ、状態は刻々と変化。

三上晴子+市川創太《gravicells—重力と抵抗》2004年/10年/25年 山口情報芸術センター [YCAM] 委嘱作品
ふだんは意識しない地球や他の物質との間の引力、そして今、自分が重力を感じながらここに立っていることを改めて認識するような作品です。
アップデートを重ねてきた作品ですが、本展では発表当時のオリジナル版で展示されています。
今回もっとも大きな展示室で展開される《欲望のコード》は、他の3作品で扱う「知覚によるインターフェース」からは少し離れつつも、インタラクティヴであることを強く感じさせる作品です。
薄暗い部屋で、壁面いっぱいに並ぶ横15列・縦6列の小さな光の前を横切ると、「カシャカシャ・・・」という無数の音とともに、アーム先端の光が一斉にこちらを照らし出します。
移動すれば追いかけるように向きを変え、音を立てながら常にこちらを向き、作品を観ているはずの自分が、観られているようにも感じます。

三上晴子《欲望のコード》 2010/11年
本作は、この「蠢く壁面」のほか、合計3つのパートから構成される作品です。中央の「多視点を持った触覚的サーチアーム」では、カメラとプロジェクターを備えたロボットアームが観客を検知して向きを変え、撮影した映像を床面へリアルタイム投影します。
また、壁面の「巡視する複眼スクリーン」には、会場内の映像や外部の公共カメラ映像、過去の記録映像などが六角形スクリーンに現れ、収集された音も雑踏のように響きます。

三上晴子《欲望のコード》 2010/11年
2010年に公開された作品ですが、SNSを通じて常に誰かの日常を観たい「欲望」や、一方でSNSや監視カメラを通じて知らないうちに誰かに監視されているかもしれないという怖さなど、その感覚はいっそうリアリティを伴って感じられるかもしれません。
メディアアートはコンピューターや周辺機材の更新が早く、継続展示のためのアップデートが常に課題になります。
とりわけ作家の死後は、「どこを変え、どこを残すのか」の判断が難しいといいます。
一方で三上は生前からアップデートに積極的で、制作には多くのコラボレーターが関わってきたことが、修復の実現につながったそうです。
本展は三上晴子のインタラクティヴ・インスタレーション4作品をまとめて体験できる貴重な機会で、大型インスタレーション作品3点の同時公開は国内外でも初。
4作品は単体でも印象的ですが、連続して体験すると「知覚の大霊廟」という構想を“体感できます。
予約が必要な作品も2作品あるので、事前に確認のうえ、ぜひ4作品を体験してみてください。