大西茂 写真と絵画/東京ステーションギャラリー

数学×写真×絵画で挑んだ「世界の謎」 異色の芸術家・大西茂の全貌【東京ステーションギャラリー】

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2026年2月12日

数学×写真×絵画で挑んだ「世界の謎」 異色の芸術家・大西茂の全貌【東京ステーションギャラリー】

東京ステーションギャラリーにて、2026年3月29日まで「大西茂 写真と絵画」が開催されています。

異色のアーティスト、大西茂とは?

大西茂(1928-1994)は、北海道大学で数学を研究しながら写真家としてデビューし、のちに抽象画家としても活躍した、異色のアーティストです。

既存の枠にとらわれない独自の表現は、没後約30年が経った今、国内外で改めて注目を集めています。

大西茂ポートレート

本展は、芸術作品と資料の両面から大西の全貌を明らかにする、世界初の機会です。

会場には、現存する1,000点以上の作品から厳選された写真や絵画が集結。あわせて数学の研究ノートや手紙、プライベートな写真といった、彼の思考の跡をたどる貴重な資料も並んでいます。

数学者がアートの世界へ飛び込んだ理由

大西の活動の根底にあるのは、「超無限(ちょうむげん)」という独自の考え方です。

彼は、世界を成り立たせている目に見えない働きを「超無限」と名づけ、それを知ることを生涯の目標としていました。

数学研究に関する資料の展示

大西はまず、得意な数学でその答えを探しました。しかし、論理だけでは自分の直感が捉えた世界を十分に表現できないことに気づきます。

その限界を突破するために選んだのが、写真や絵画というアートの領域でした。

「見えない世界」を写真で映し出す

大西は1950年代半ばから写真の制作を始めました。

目に見えない「超無限」そのものを写すことはできません。

そこで彼は、あえて熱いお湯を使って現像したり、画像を何度も重ねてプリントしたりといった実験を繰り返しました。

そうすることで、超無限の世界の断片を写真の中に映し出そうとしたのです。

《題不詳》1950年代 MEM蔵

作品には、黒い線で分断された女性像や、いくつもの顔が重なり合う不思議な光景が見られます。

そこでは時間や空間が混ざり合い、現実にはありえない幻想的な世界が広がっています。

大西にとって写真は、日常とは異なる世界を視覚化するための、大切な道具でした。

大西の写真は、「何が写っているか」と考えるよりも、画面の中の「非現実的な世界」をそのまま楽しんでみてください。

そして「よくわからないけれど、どこか心が揺さぶられる」と感じたとしたら、それは彼が見ようとした世界に一歩近づけたのかもしれません。

当時まだ無名だった大西を支えたのが、東京国立近代美術館に勤めていた友人の小倉忠夫でした。

大西の表現はあまりに独創的だったため、当初は批判を受けることもありました。

しかし小倉らの尽力により展覧会などで作品が紹介され、やがて時代の先端を行く表現として高く評価されるようになります 。

東京の画廊で開催された写真展のリーフレット

直観から生まれた迫力の抽象画

大西は1960年頃から墨による絵画を始め、やがて鮮やかな色彩を伴う作品へと展開していきます。

数学が「頭で考えること」だとしたら、絵画は「体で感じること」でした。

彼は「超無限」を直感した瞬間のエネルギーや体の動きを、そのまま絵として残そうとしたのです。

会場には、長辺が2〜3m、なかには4mに及ぶ特大サイズの絵画が並び、その迫力に圧倒されます。

飛び散る墨やうねるような線の重なりは、書道のようでもあり、激しいアクション・ペインティングのようにも見えます。

《空間的直観》1969年 京都国立近代美術館蔵

また、会場のレンガ壁が作品の魅力を引き立て、展示室そのものが一つの巨大なアート空間のようになっています。

いずれも《題不詳》MEM蔵 、(左から)1950年代後半~1960年代、1962年、1950年代後半~1960年代

多くの作品が額に入れられず、紙がむき出しの状態で展示されている点も見どころの一つ。

紙のシワや折り目、墨の生々しい質感を間近で感じられ、制作時の力強い躍動感がダイレクトに伝わってきます。

いずれも《題不詳》1960年代 MEM蔵

海を越えて見出された才能

大西の才能をいち早く見出したのは、フランスの著名な美術評論家ミシェル・タピエでした。

タピエは大西を、既存の形式を打ち破り、個人の内面のエネルギーを表現する芸術運動「アンフォルメル」を体現する存在として世界に紹介します。

その交流を通じて、大西の活動はヨーロッパへと広がり、国際的な評価を確立していきました。

展示資料からは、二人が国境を越えて、数学や芸術の真理について深く共鳴していたことが伝わってきます。

タピエとの交流を紹介する展示

晩年にたどり着いた真理

1960年代後半以降、大西は表舞台から離れ、両親の介護をしながら研究や創作を続けました。

それは、独り静かに真理を追い求め、自身の内面と向き合う時間でもありました。

晩年の写真・手紙・研究資料の展示

晩年の文書には、長い探求の末に「世界の真理を見る目(神眼)を得た」という、悟りにも似た言葉が残されています。

自筆文書

没後、長く忘れられていた大西ですが、近年ニューヨーク近代美術館(MoMA)に作品が収蔵され、オランダやスペインで展覧会が開催されるなど、世界的な再評価が進んでいます。

本展は、満を持して開かれる、日本初となる大西茂の本格的な回顧展です。

常識やジャンルを飛び越え、生涯を通して一つの大きな問いを追い続けた、孤高の芸術家・大西茂。

その挑戦の軌跡を、ぜひ会場で体感してみてください。

フォトスポット

 

Exhibition Information

展覧会名
大西茂 写真と絵画
開催期間
2026年1月31日~3月29日
会場
東京ステーションギャラリー
公式サイト
https://www.ejrcf.or.jp/gallery/