塩田千春の作品から他者との「つながり」を考える。圧巻のインスタレーションに注目
2024年10月3日
「シルクロードの旅」展/東洋文庫ミュージアム
かつて古今東西の思想や宗教、文化などが行き来した「シルクロード」と呼ばれるネットワークがありました。
仏教が栄えた時代のシルクロードに焦点をあてた「シルクロードの旅」展が、東洋文庫ミュージアムにて開催中です。
「シルクロードの旅」展 展示風景
アジア全域の歴史と文化に関する貴重な図書を約100万冊所蔵する、東洋文庫ミュージアム。
そんな同館の所蔵品から、シルクロードにまつわる文献を紹介します。
※展覧会情報はこちら
皆さんは「シルクロード」と聞いて何を思い浮かべますか? 三蔵法師や孫悟空が登場する西遊記や、ラクダにじゅうたんを荷物を乗せた商人、ジリジリと焼けそうな砂漠のなかに現れるオアシス、気が遠くなるほど長い道をまっすぐ歩き続ける・・・こんなイメージを持つ方、多いのではないでしょうか。
シルクロードは実は1本の長い道ではないんです。よく知られるルートは、「オアシスの道」「草原の道」「海の道」の3つがあります。この3つのルートにつながるさまざまな都市や拠点があり、オアシスの道から草原の道へ、草原の道から海の道へ、といったリレーのような貿易が行われていました。
「シルクロードの旅」展 展示風景
ちなみに、シルクロードという名前は、1877年ドイツの地理学者リヒトホーフェンが、ドイツ語で「ザイデンシュトラーセン(絹の道)」を使ったのが始まりとされています(諸説あり)。日本では、1944年に出版された『古代絹街道』で紹介されたことで広まりました。
また、日本最古の物語として知られる『竹取物語』では、シルクロードを感じられる場面が登場しています。
「シルクロードの旅」展 展示風景
お話をおさらいすると、竹から生まれた美しいかぐや姫が、求婚してきた5人の貴公子に対し、難題を課しはねのけ、最後は月に帰っていった、というものです。そのなかの難題のひとつが、中国にあると伝わる燃えない「火鼠の皮衣」を持ってくることでした。結局偽物を売りつけられたことを見破られ、このチャレンジは失敗に終わりました。
この偽物を売りつけた商人は、西の地域の品とはハッキリ言わず、「西の山寺」で買い付けたものだと発言しているのですが、平安貴族はその言葉にすっかりだまされ、西の地域からきた品であると思いこんでしまったのです。
当時の人びとの、シルクロード(西域)へのイメージがわかる描写となっています。
シルクロードではモノだけでなく、多くの思想や文化が行き交いました。そのひとつが宗教です。
古代から中世にかけて、イスラーム教や仏教、キリスト教、ゾロアスター教など、さまざまな宗教が東西を行き来しながら盛衰を繰り返しました。
シルクロード各地で発見された史料から、多様な宗教との交流にも迫ります。
「シルクロードの旅」展 展示風景
イギリスの考古学者スタインが、1900~1901年にかけて行った第一中央アジア探検の調査結果をまとめた報告書では、仏教王国であった古代コータンの意外な姿を見ることができます。
「シルクロードの旅」展 展示風景
シルクロードの西域南道沿いに位置しており、東西貿易の中継地として栄えていたコータン。
本書のなかでは、インドやイランの美術の影響を思わせるような板絵や壁画の図版が掲載されており、異文化を尊重していた姿勢もうかがえます。
紀元前後から10世紀ごろまで、1000年に渡りシルクロード貿易で活躍していた、ソグドという民族があります。
もともとサマルカンド(現在のウズベキスタンからタジキスタンにまたがる地域)で農業をしていましたが、人口が増えたことにより他の地域へ集落を広げ、最終的には黒海周辺から中国までのほとんど全域に集落をつくりました。このネットワークの広さで、ソグド人はシルクロード商人として活躍したのです。
「シルクロードの旅」展 展示風景
ソグド人は時代が進むごとに他の民族のなかに溶け込んでいき、現在では会うことはできません。
長年謎に包まれていたソグド人ですが、近年、ソグド人が残した手書きや契約文書の解読が進んだことから、少しずつ彼らの姿が分かってきています。
「シルクロードの旅」展 展示風景
ソグド語の文献の中でも最も有名な「大英博物館のソグド文書」は、遺跡のごみ溜まりに未開封のまま放置されていたのを発見されました。
文書のなかでもとくに有名な手紙は、313年にサマルカンドにあてたものです。中国でのソグド人の商売のこと、中国内の内情などにふれています。当時のようすや、かつて存在したソグド人の存在が生き生きと感じられる史料となっていますよ。
ちなみに、8世紀に鑑真と一緒に来日した安如宝(あんにょほう)という人物もソグド人だそうです!
貴重な書物から、シルクロードの姿をひもとく本展。
ゆったりと静かな館内で、遠い昔にタイムスリップしてみてはいかがでしょうか。
東洋文庫ミュージアム