塩田千春の作品から他者との「つながり」を考える。圧巻のインスタレーションに注目
2024年10月3日
メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年/国立新美術館
コレクションの質・量ともに世界屈指の美術館として名高いメトロポリタン美術館。
1870年に創立された同館は、先史時代から現代まで、5,000年以上にわたる世界各地の文化遺産を幅広く所蔵しています。
現在、国立新美術館にて、同館を構成する17部門のうち、ヨーロッパ絵画部門に属する約2,500点の所蔵品から選りすぐりの西洋絵画65点を紹介する展覧会が開催中です。
「メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年」 2022年 国立新美術館 展示風景
展示作品65点のうち、46点は日本初公開! 会場では、ルネサンスやバロック、そしてポスト印象派まで、500年間の西洋絵画史を彩る絵画を堪能できます。
本記事では、巨匠たちの作品がずらりと並ぶ展示の見どころや、オリジナル企画やグッズについて紹介します。
※展覧会詳細はこちら
メトロポリタン美術館は、アメリカ、ニューヨークにある世界最大規模の私立美術館です。正式名は「The Metropolitan Museum of Art」。The Met (ザ・メット)という通称でも親しまれています。
1870年に開館した当初は、マンハッタンの小さな建物の中にありましたが、1872年にセントラル・パーク内に移転。以後、コレクションの拡充を続け、現在では規模・来館者数ともに世界でもトップクラスの美術館となりました。
2018年からヨーロッパ絵画部門の常設展ギャラリーは改修工事中とのこと。この改修を機に、同部門選りすぐり65点の絵画の来日が実現しました!
本展では、ルネサンスから19世紀ポスト印象派までの名画を、「信仰とルネサンス」「絶対主義と啓蒙主義の時代」「革命と人々のための芸術」と、時代順に3章構成で展示。
エル・グレコやレンブラント、ドガ、ルノワールなど、誰もが知っている画家の作品がズラリと並びます。
ここでは日本初公開となる作品を中心に、その見どころを紹介していきます。
カラヴァッジョ(本名 ミケランジェロ・メリージ)《音楽家たち》1597年 油彩/カンヴァス ニューヨーク、メトロポリタン美術館 Rogers Fund,1952 / 52.81 展示風景
本展のメインビジュアルにもなっている《音楽家たち》は、写実的な人物画で知られるイタリアの画家、カラヴァッジョの代表作のひとつです。
カラヴァッジョの描く人物は、ほとんどが男性だったとのこと。右から2番目の角笛を手にした男性は、カラヴァッジョ本人の自画像と考えられています。
まるでそこにいるかのような、写実性に富んだカラヴァッジョの作品を、ぜひ会場で観てみてください。
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール《女占い師》おそらく1630年代 油彩/カンヴァス ニューヨーク、メトロポリタン美術館 Rogers Fund,1960 / 60.30 展示風景
17世紀フランスで活躍したものの没後忘れ去られており、20世紀になって再評価された画家、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの作品《女占い師》。
本作は、若者が占い師の老婆に気を取られている隙に、周りの女性たちが財布や宝飾品を盗もうとするシーンを臨場感たっぷりに描いています。
登場人物たちが美しい衣服をまとっていることから、演劇から着想を得たのではないかと考えられているそうです。
ヨハネス・フェルメールは、17世紀のオランダを代表する画家です。
メトロポリタン美術館は、フェルメールのさまざまな時期の作品を5点収蔵する、世界でもっとも多くのフェルメール作品を持つ美術館としても知られています。
一般市民の日常を描いた「風俗画」で名高いフェルメール。しかし、本展で展示されている《信仰の寓意》は、彼の作品の中でも異色の「寓意画(ぐういが)」です。
寓意画とは、抽象的な概念や思想を、具体的な形で暗示した絵画表現のこと。その主要手段は擬人化だと言われています。
ヨハネス・フェルメール《信仰の寓意》1670-72年頃 油彩/カンヴァス ニューヨーク、メトロポリタン美術館 The Friedsam Collection, Bequest of Michael Friedsam, 1931 / 32.100.18 展示風景
本作中で、「キリストの磔刑(たっけい)」の絵画を背にして座る女性は、「信仰」の擬人像です。
胸に手を当てる仕草は心のなかの「信仰」を示し、地球儀を踏むポーズは「カトリック教会による世界の支配」を象徴していると解釈されています。
フランス・ノルマンディー地方のジヴェルニーで半生を過ごしたクロード・モネ。彼は自宅の庭につくった睡蓮の池をモチーフにした作品群を200点以上残しました。
(手前)クロード・モネ《睡蓮》1916-19年 油彩/カンヴァス ニューヨーク、メトロポリタン美術館 Gift of Louise Reinhardt Smith, 1983 / 1983.532 展示風景
晩年、モネは白内障を患っていました。
抽象的に睡蓮の池のようすが描かれた本作は、当時白内障に侵されていたモネの目を通した風景なのだそう。抽象表現主義の先駆けとも評価されたモネらしい作品でもあります。
さまざまな背景を持つ作品の中で、編集部がとくに気になった2点もご紹介します。
「パリスの審判」は、トロイアの王子パリスが「最も美しい者に」と記された黄金のリンゴを、ユノ、ミネルヴァ、ヴィーナスの3人の女神の誰かに渡すというギリシャ神話のエピソードのひとつです。
このパリスの審判は、さまざまな画家が好んで画題にしたといいます。
ルカス・クラーナハ(父)《パリスの審判》1528年 油彩/板(ブナ) ニューヨーク、メトロポリタン美術館 Rogers Fund, 1928 / 28.221 展示風景
本作では、3人の女神に渡す黄金のリンゴが「水晶」で描かれています。
その水晶を持つパリスに選ばれたのは、真ん中の女神・ヴィーナス。彼女はパリスに「世界一の美女を与える」と約束して水晶を勝ち取りました。
王子と3人の女神たちの物語を想像しながら、緻密に描かれた背景までじっくり眺めたくなる作品ですね。
18世紀後半になると、社会的な制約を受けながらも、美術の世界で活躍する女性画家が現れます。
本作を描いたマリー・ドニーズ・ヴィレールもそのひとりです。
(右)マリー・ドニーズ・ヴィレール《マリー・ジョセフィーヌ・シャルロット・デュ・ヴァル・ドーニュ(1868年没)》1801年 油彩/カンヴァス ニューヨーク、メトロポリタン美術館 Mr. and Mrs. Isaac D.Fletcher Collection,Bequest of Isaac D.Fletcher,1917 / 17.120.204 展示風景
現在、確実に彼女の作品だとわかっている絵は、わずか3点のみ。本作の作者も、当初は新古典主義の巨匠ジャック=ルイ・ダヴィッドの制作と考えられていました。
しかし、後の研究によってダヴィッドではなくヴィレールの作品であることがわかったそうです。
窓の外には建物が描かれていますが、ここがいったいどこなのか、なぜ窓ガラスにヒビがはいっているのかなどの謎は未だ解明されていません。
儚げな少女の表情には強い意志も感じられ、印象に残る一作です。
会場最後では、メトロポリタン美術館ヨーロッパ絵画部門の所蔵品、約2,500点のデータをビジュアライズした年表《The European Masterpieces Timeline》が紹介されています。
映像に登場する絵画は本展の展示作品ですが、絵をかたちづくる無数の小さな点は、同館ヨーロッパ絵画部門が所蔵する約2,500作品の縮小画像なのだそう!
それぞれの作品が制作された年代や手法、地域を世界の歴史とともに時代を追って投影しています。
特設ショップのレジの横にある「フェイスチェンジャー」では、ジョルジュ・ド・ラ・トゥール《女占い師》の世界に入り込んだような、ユニークな画像が撮れます。
撮影した画像はかんたんにダウンロードできるので、ぜひハッシュタグ「#メトロポリタン美術館展」「#TheMetTOKYO」を付けてSNSでシェアしてみてください。
東京展限定で『すみっコぐらし』のオリジナルコラボグッズも販売中です。
てのりぬいぐるみ5種 各1,430円(税込)
“音楽家”や、“ヒナギクを持つ少女”に扮したキャラクターたちのぬいぐるみは、全5種類。売り切れ次第販売終了とのことです。最新情報は、展覧会ホームページをご確認ください。
ほかにも、スタイリッシュな「THE MET」のロゴの入ったバッグやTシャツ、名画のあしらわれた文具など、さまざまな展覧会オリジナルグッズが販売されています。
※特設ショップのみの利用や、特設ショップ・展示室への再入場はできません。
一度は観たことのあるおなじみの名画がずらりと並ぶ本展。ルネサンスからバロック、そして印象派と、西洋美術史を網羅的に紹介しているので、西洋美術初心者の方にもおすすめの展覧会です!
日本にいながら、メトロポリタン美術館の展示室にいるような気分に浸りながら鑑賞できます。
海外旅行もままならないコロナ禍だからこそ、国立新美術館でプチ旅行を楽しんでみてはいかがでしょうか。