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2024年11月1日
北斎とライバルたち/太田記念美術館
海外でも「Ukiyo-e」と呼ばれ、高い人気を誇る浮世絵。この浮世絵を描く絵師の中で国内外でもっとも知られている葛飾北斎は、代表作「冨嶽三十六景」のほか、さまざまなジャンルを手がけて高い名声を得た浮世絵師です。
現在太田記念美術館で、北斎の作品を同時代・次世代に活躍した総勢25名の絵師たちの作品とともに紹介する「北斎とライバルたち」が開催中です。
展示風景
これまでさまざまな美術館で葛飾北斎の展覧会が開催されてきましたが、その多くが北斎の作品のみを紹介するものでした。
本展では、よく北斎と比較される歌川広重をはじめ、東洲斎写楽、月岡芳年など多くの絵師に焦点を当ててその関係性に迫ります。
※展覧会詳細はこちら
北斎のライバルとしてよく紹介される歌川広重は、「名所絵」と呼ばれる風景画を得意とした浮世絵師です。
日本各地から眺めた富士山を描いた北斎の代表作「冨嶽三十六景」シリーズは、北斎が70代前半ごろに制作されたものです。本作から着想を得たと思われる富士山を題材としたシリーズ作品を、広重や歌川国芳、歌川国貞ものちに発表しています。
本展の冒頭では北斎の「冨嶽三十六景」とともに、広重などライバルたちが描いたさまざまな富士山を紹介。なかでも見どころの作品は、北斎が亡くなったあとに広重が発表したシリーズ作品「冨士三十六景」です。
(左から)葛飾北斎 冨嶽三十六景 登戸浦 天保元~4年頃/歌川広重 冨士三十六景 相模江之島入口 安政5年4月 いずれも、太田記念美術館蔵
「冨士三十六景」は、広重が安政5年(1858)に数え年62歳で亡くなる年に制作しました。本作と比較する形で、北斎の「冨嶽三十六景」が並べて展示されています。
北斎は登戸浦(現:千葉県千葉市中央区)、広重は江ノ島と場所は異なりますが、それぞれ鳥居越しに眺めた富士山を描いています。見比べてみるとお互い似たような構図で描いていますが、並べて作品を紹介することで北斎と広重の個性の違いが分かれているのが読み取れますね。
(左から)葛飾北斎 冨嶽三十六景 武州玉川 天保元~4年頃/二代歌川豊国 名勝八景 玉川秋月 天保4~5年頃 いずれも、太田記念美術館蔵
本展では広重のほかにも、さまざまな浮世絵師の作品と北斎の作品を比較する形で展示されています。同じ画題あるいは同じ場所を描いているのに、絵師によってまったく違う風景に見えるのもユニークです。ぜひ、細かなところにまで注目してみてください。
北斎は10代の終わりに、当時役者絵界の第一人者だった勝川春章(かつかわしゅんしょう)に弟子入りします。「冨嶽三十六景」などの風景画の印象が強いためにあまり知られていませんが、北斎は20代から30代前半にかけて、役者絵を数多く制作していました。
(左から)葛飾北斎 中村仲蔵のてん竺徳兵衛実ハそうふくわん 天明3年8月/葛飾北斎 三代目沢村宗十郎のしけたゞ 寛政3年3月 いずれも、太田記念美術館蔵
しかし、兄弟子である春好(しゅんこう)や春英(しゅんえい)に比べ、北斎の役者絵はそれほど高い評価を得ることはなかったといいます。
とくに北斎と春好は大変仲が悪かったようで、春好が北斎が描いた店の看板を見ると「春章師匠の顔に泥を塗るようなへたくそな絵だな」と言って、北斎の目の前で打ち捨てたというエピソードもあります。
このとき、北斎は春好に文句を言えずに引き下がりますが、心に「いつか立派な絵師となってこの悔しさを晴らす!」と誓い、より一層絵の修行に励んだそうです。
勝川春好 三代目沢村宗十郎の一寸徳兵衛 六代目中山小十郎釣船の三ぶ 三代目大谷広次の団七九郎兵衛 天明6年6月 太田記念美術館蔵
役者絵界では活躍できなかった北斎は、勝川派を寛政6年(1794)ごろに離脱します。そのタイミングで東洲斎写楽(とうしゅうさいしゃらく)などの絵師が、役者絵界に新しい風を吹き込み華々しい活躍をし始めました。
北斎が役者絵を描いていた若き時代を紹介する展示は珍しいとのこと。こちらもぜひお見逃しなく。
北斎は同世代の絵師たちと技術を高め合うだけではなく、次世代の絵師たちにも影響を与えました。
幕末から明治へと移り変わる激動の時代を駆け抜けた浮世絵師である月岡芳年。江戸時代の大ベストセラー作家である曲亭馬琴(きょくていばきん)と北斎がタッグを組み、刊行した読本の復刻版の挿絵を手がけました。
(左から)曲亭馬琴著・葛飾北斎画『椿説弓張月』後篇巻之一 文化5年/曲亭馬琴著・月岡芳年画『椿説弓張月』後編上 明治16年 いずれも、太田記念美術館蔵
写真右は芳年が馬琴の読本の冒頭にあった北斎の挿絵を描き直したもの。ただ模写をするだけではなく、芳年らしさも垣間見えますね。
没後、北斎が多くの絵師に影響を与えたことがよくわかる展示内容になっています。
北斎とともに、あるいは北斎が没したあとに活躍した絵師たちの作品でその関係性に迫る本展。
北斎の展覧会は毎年のように開催されますが、本展は江戸時代の葛飾北斎という絵師の等身大の姿が浮かび上がってくるような内容でした。
また同館では、新型コロナウイルス感染予防対策により、主に肉筆画のコレクションを展示するたたみの展示スペースを、長期間封鎖していました。本展からその畳のスペースを撤去し、フラットな展示スペースへと改装したとのこと! 車椅子の方などがより見やすいようになっています。
展示風景
新しくなったこちらのスペースでは、北斎の代表作である「冨嶽三十六景」シリーズの通称・赤富士と呼ばれる「冨嶽三十六景 凱風快晴」などを展示。ますます展覧しやすくなった新スペースにも注目です。