塩田千春の作品から他者との「つながり」を考える。圧巻のインスタレーションに注目
2024年10月3日
ライアン・ガンダー われらの時代のサイン/東京オペラシティ アートギャラリー
国際的に注目を集める現代アーティスト、ライアン・ガンダー。そんなガンダーの東京では初となる大規模個展「ライアン・ガンダー われらの時代のサイン」が東京オペラシティ アートギャラリーで開催中です。
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ライアン・ガンダー
ライアン・ガンダーは、1976年イギリス生まれの現代アーティスト。第54回ヴェネツィア・ビエンナーレ(2011)やドクメンタ13(2012)など、数多くの国際展に参加しています。
「ライアン・ガンダー われらの時代のサイン」展示風景より
オブジェ、インスタレーション、絵画、写真、映像など多岐にわたる作品ジャンルを発表しているガンダーですが、そこに一貫しているのは「見る」ということへの考察。彼の作品は、日常生活の中で当たり前のものとして見過ごしている事象に対して意識を向け、考えるきっかけを鑑賞者に与えてくれます。
ライアン・ガンダー《タイーサ、ペリクルーズ;第5幕 第3場》 2022年
ガンダーによると、本展は「時間」についての展覧会であるのだそう。同じことの繰り返しで消費してしまっている何気ない時間が、実はとても大切で価値のあるものだということ。この展覧会全体、そして展示されている作品の一つひとつはそうした考えに基づいているのだそうです。
ライアン・ガンダー《脇役(バルタザール、ヴェニスの商人:第3幕 第4場)》 2019-2020年
例えば、《タイーサ、ペリクルーズ;第5幕 第3場》と《脇役(バルタザール、ヴェニスの商人:第3幕 第4場)》の2つの作品は、ふだん意識していない時間について考える良いきっかけとなるでしょう。
鉛筆の素材であるグラファイトで作られたこちらの作品は、どちらも演劇の出番を待っている若者の姿を表しており、わずか数秒しかない出演シーンと比べて実はそのほとんどを「待つ」という人目につかない時間に費やしているのだということを私たちに伝えます。また、この作品付近の壁には同じくグラファイトで描かれた痕跡が残っており、2人が過ごした時間を視覚的に捉えることができます。
ライアン・ガンダー《編集は高くつくので》 2016年 公益財団法人石川文化振興財団蔵
展示室の奥にある一際目を引くオブジェは芸術家、ジョルジュ・ヴァントンゲルロー(1886〜1965)の《立体の均衡》(1919)という作品をベースにしたもの。本来、直線的なフォルムが特徴の作品でしたが、アルゴリズムを用いて正反対の曲線的な作りに変えることで、波や川の流れで石が丸くなっていくように、時間の流れによって角ばったラインが取り去られていったことを表しています。
ライアン・ガンダー《編集は高くつくので》 2016年 公益財団法人石川文化振興財団蔵
視線を少し下げると、オブジェを支える台座が壊れかかっていることに気がつくでしょう。こちらは、モダニズム(20世紀以降に起こった前衛的な芸術運動)の重さに耐え切れなかった象徴なのだとガンダーは語っています。
ライアン・ガンダー《あなたをどこかに連れて行ってくれる機械》 2020年
ガンダー作品らしい「見る」ことへのアプローチも本展の魅力です。入場口付近に展示されている《あなたをどこかに連れて行ってくれる機械》は、センサーに手をかざすと数字の書かれたチケットを印刷できます。この番号はランダムに選ばれた地球上のどこかの座標となっており、外の世界には目を向けるべきものが数多く存在しているのだということを鑑賞者に伝える役割を担っています。
左:ライアン・ガンダー《あの最高傑作の女性版》 2016年 国立国際美術館像 右:ライアン・ガンダー《最高傑作》 2013年 公益財団法人石川文化振興財団蔵
こちらの2つは、鑑賞者の動きに反応して表情を変える作品。本来は別々に展示されていますが、今回初めて並べて展示をすることになったのだそうです。通常、こうした展覧会では、「見る」という行為は鑑賞者から作品への一方向となりますが、作品自体に目をつけることで「見る・見られる」の関係が双方向で成り立っています。
「ライアン・ガンダー われらの時代のサイン」展示風景より
ライアン・ガンダー《2000年来のコラボレーション(予言者)》 2018年 公益財団法人石川文化振興財団蔵
本展には、大型の迫力ある作品以外にも隠された小さな作品が数多くあり、鑑賞する際は隅々までよく目を光らせる必要があります。今回の展覧会のポスターになっている《2000年来のコラボレーション(予言者)》もそうした作品のひとつです。
美術館の上階では「ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展」も開催中です。こちらは、本展の開催が延期になった昨年に、ガンダー自身の提案で急遽実現した収蔵品展。昨年訪れた方も、そうでない方も必見の内容となっています。
「ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展」展示風景より
ユーモアのある柔らかな眼差しと本質を捉える鋭い感性を余すことなく堪能できる本展。
作品を見て、考えるということを繰り返しているうちに、展覧会の出口に着く頃にはきっと誰しもがガンダーの人柄に魅了されていることでしょう。
本展の詳しい情報は公式サイトをご確認ください。