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2024年11月1日
自然という書物/町田市立国際版画美術館
町田市立国際版画美術館で「自然という書物 15〜19世紀のナチュラルヒストリー&アート」が開催中です。
本展のタイトルにある「自然という名の書物」とは、キリスト教の自然観を反映した古くからの常套句です。
キリスト教世界において「自然」は第一の書物である聖書に次ぐ、父なる神に創造された神の真意が刻まれた第二の書物としてみなされていました。
人間は科学をはじめとするさまざまな技術を時代とともに培っていく中で、自然を畏れ・崇拝する(サブライム)だけでなく、自然を科学的に解明しよう、自然の脅威を乗り越えようとするようになりました。
本展では、15世紀から19世紀までのナチュラルヒストリー(自然史/博物学)とアート(美術/技法)を軸とし、人間が表してきた自然のすがたとかたちを約200点にわたって紹介しています。
ナチュラルヒストリーとは日本語で「自然史」「博物誌」と一般的に訳されます。
また広い意味で、動物学や植物学、鉱物学、地質学などもナチュラルヒストリーの一種とされています。
自然物の収集や観察は古くから行われており、古代ギリシアにおけるアリストテレスや、古代ローマのプリニウスの時代からナチュラルヒストリーが存在していました。
また、中国を中心とした東アジアでは「本草学」が博物学と同一視されています。
中世ヨーロッパの自然観はキリスト教の世界観の他、人びとの想像力や規範となる書物からの知識に基づくものでした。
15世紀になると、人びとの自然観に観察の結果が大きな影響を与えるようになりました。
例えば、医師ヨハン・フォン・クーバによる『健康の庭』(初版1485年)という薬物誌には、植物が正確に描かれています。
『健康の庭』より一葉 1485年刊 木版・手彩色 町田市立国際版画美術館
この本はクーバーが画家と一緒に旅をして執筆されたもので、描かれている薬草は実際の観察が基になっています。
そして、16世紀には版画の技術も発展し、草本誌は洗練された木版技法によって彩られていきます。
イタリアの植物学者ピエトロ・アンドレア・マッティオリは、古代ローマから受け継がれてきた『ディオスコリデスの薬物注釈』を増補改訂します。
挿絵を大判にした版が1562年に刊行されましたが、町田市立国際版画美術館の収蔵物にはその版木の1つが含まれています。
17世紀に入ると、望遠鏡や顕微鏡の発明などによって自然に対する見方がより細やかなものへと変化していきます。
加えて、フランシス・ベーコンによる経験論(*)やルネ・デカルトの自然への見方(*)も、人びとの自然に対する見方に影響を与えました。
*フランシス・ベーコンによる経験論:過去の規範を盲信するのではなく、実験や観察といった経験を重視する考え方。
*ルネ・デカルトの自然への見方:数字と数学的方法や機械との類比で自然を読み解こうとした。
バシリウス・ベスラー『アイヒシュテット庭園植物誌』より一葉 (初版1613年刊) 銅版・手彩色 コノサーズ・コレクション東京
『アイヒシュテットの庭園』(1613)には1000種類以上の植物が描かれています。この本の中の植物は実際の観察に基づき、精緻に描写されています。
この絵でも花柱や柱頭、蕚などが細やかに描写されています。鮮やかな色合いの美しい絵に仕上がっています。
18世紀にはカール・フォン・リンネの『自然の体系』(1748)が大きなきっかけとなり、自然物は解剖や分類が行われ、比較されるようになりました。
リンネは植物の観察において外観の類似の他にもおしべとめしべなど内部にも注目します。
エズラマス・ダーウィンはリンネの分類体系を解説した著『植物園』(1794)を出版するなど、イギリスにおいてリンネの普及に努めます。
また、ドイツ出身のゲオルク・ディオニシウス・エーレットはリンネの性の体系を図解しました。
彼が執筆した『花蝶珍種図鑑』(1748〜1758)には新大陸や東洋の植物が描かれています。
18世紀になると、海を渡る大規模な探検調査が普及します。この時代の西洋では当時においてあまり知られていなかった土地(オーストラリアやエジプト、日本など)に生息する植物や動物が次々と描かれるようになりました。
こうした風潮の中で生み出された著書の一つとして、ロバート・ジョン・ソートンによって編集された『フローラの神殿』(1798〜1807年刊)が挙げられます。
ロバート・ジョン・ソーントン『フローラの神殿』より「エジプトハス」 1798-1807年刊 銅版(多色)・手彩色 町田市立国際版画美術館
この本の特徴は花々が写実的であるばかりか、抒情的にも描かれている点にあります。アルプスに咲くオーリキュラやエジプトのハスなどといった花々が幻想的に描かれています。
19世紀に近付くにつれて、自然への想像力に基づいた見方や主観的な見方は迷信的になっていきます。
しかし、こうした流れの中でも、子どもの世界やファンタジーでは自然への想像力は生き続けます。
18世紀において植物が子どもと重ねて表現されることは珍しくありませんでした。
例えば、ウィリアム・ブレイクによって手掛けられたエドワード・ヤングによる『夜想』(1797)の挿絵には教育を受ける子どもと、植物と一体化したような椅子に座る老婆の姿があります。
また、19世紀にはエドワード・バーン=ジョーンズによる『フラワー・ブック』(1905)が出版されました。この作品には花の名前から想像した神話や聖書の物語が描かれています。
エドワード・バーン=ジョーンズ『フラワーブック』より「悲しみの樹(ヨルソケイ)」 (原画1882-98年) リトグラフ(多色)・手彩色 郡山市立美術館
15世紀から19世紀にかけてのナチュラルヒストリーを系譜的にたどる本展。
本展の鑑賞後は「喫茶けやき」で展示内容について振り返ってみてはいかがでしょうか。
喫茶けやきでは現在、本展オリジナルメニューの「ほうれん草のパスタ〜緑の物語〜」を提供しています。
町田市立国際版画美術館は都心部から少々離れた場所に所在しますが、だからこそ日々の喧騒から離れて落ち着いた時間を過ごせるはずです。
前期:3月18日~4月16日
後期:4月18日~5月21日
※前・後期で一部の展示替えと書籍のページ替えをおこないます。
※適宜ページ替えをおこなう書籍があります。