琳派展23 琳派の扇絵と涼の美/細見美術館

個性豊かな絵師たちの扇絵 琳派 夏の競演【細見美術館】

2023年7月20日

琳派展23「琳派の扇絵 涼の美」/細見美術館

京都・平安神宮のほど近く、今年で25周年を迎える細見美術館

細見家三代のコレクションを擁し、日本美術、特に伊藤若冲や琳派のコレクションは有名で「琳派美術館」と呼ばれるほどです。

そんな琳派の殿堂で、開館からほぼ毎年開催されている 「琳派展」が今年も始まりました。

23回目となる本展は、この季節にぴったりの涼を呼ぶ扇絵の特集です。

邸宅のコレクションルームのような空間で琳派の夏を楽しむ


細見美術館外観

閑静な街並みに美術館らしからぬ外観。一見、大きな邸宅のようです。

館内に一歩入ると、開放感あふれる吹抜が、地上3階から地下2階まで広がっていました。

自然光を活かしたとてもモダンな空間です。


館内の吹抜

木目の美しい落ち着いた展示室は、立派なお屋敷のコレクションルームの趣。

ゆったりした気分で琳派の扇の世界に浸れます。


展示風景

そもそも琳派って?

実は「琳派」という通称が定着したのは実は50年ほど前のこと。だから琳派の絵師たちは、自分たちを「琳派」などとは思っていませんでした。

狩野派や土佐派などの日本画の流派と違って、「琳派」の絵師たちは師から指導を受けて伝統を継いだのではありません。

俵屋宗達(たわらや そうたつ)や尾形光琳(おがた こうりん)の意匠を手本としながら、自ら研究し学ぶ「私淑(ししゅく)」によって受け継がれていったのです。

個性豊かな琳派の扇絵

琳派の絵師たちは扇絵を積極的に手掛けました。

扇の形状は琳派の特徴である大胆な構図とデザイン性に適し、個性や画力を示す絶好の題材だったのです。

それぞれの絵師の「扇絵」をじっくり観ていきましょう。


《月梅下絵和歌書扇面》本阿弥光悦書・俵屋宗達下絵 江戸前期

琳派の創始といわれる本阿弥光悦(ほんあみ こうえつ)、俵屋宗達合作の扇面です。

江戸時代初期、宗達は色紙や短冊を売る絵屋「俵屋」を営んでいて、扇は俵屋の主力商品でした。

そんな宗達の才能を見出したのが、書の名手で芸術プロデューサー的役割をしていた光悦。宗達の描いた大胆な図案の料紙に書をしたためて、人気をさらいます。

宗達は絵師としてみるみる頭角を現し、《風神雷神図屏風》などの傑作を次々と生み出しました。


《宇治橋図団扇》尾形光琳 江戸中期

宗達の活躍から100年後、宗達の絵に魅了されたのが尾形光琳。

光琳の時代は団扇が流行したようで、扇子絵よりも団扇絵が多く残されているそう。

光琳は宗達の作風を取り入れながらも、華やかなセンスで《燕子花図屏風》(根津美術館蔵)など、デザイン性の高い独自の世界を築き上げます。


《扇面貼交屏風》酒井抱一 江戸後期

金屏風一面に散らされた扇絵が圧巻です。

光琳から百年後、江戸の酒井抱一(さかい ほういつ)は、光琳作品を熱心に研究しました。

抱一は「江戸琳派」の租とされ、鈴木其一(すずき きいつ)らに引き継がれます。


《扇面貼交屏風》部分 酒井抱一

屏風の中にかわいいウサギを発見!


《扇面貼交屏風》部分 中村芳中 江戸後期

酒井抱一が江戸で活躍していた頃と同時期、大坂で光琳に私淑していた中村芳中(なかむら ほうちゅう)の扇絵。

几帳面に光琳を研究した正統派の抱一と対照的に、おおらかで大胆な芳中。

琳派の特徴である、滲みの技法「たらしこみ」をこれでもかと多用した画は、絵手紙のような温かみがあります。


《扇面画帖》中村芳中 江戸後期
※7/10の展示替えの際に頁替えを行い、現在は違う頁をご覧いただけます。

芳中の扇絵は、扇面の曲線を効果的に使ってモチーフをデフォルメしたデザイン性の高い画です。

人気の北欧デザイン、マリメッコの花柄を思い出しました。


《光琳百図》酒井抱一 明治27年刊(初版:文化12年頃)
※7/10の展示替えの際に頁替えを行い、現在は違う頁をご覧いただけます。

絵師たちが自由で個性豊かに描いた琳派。しかし、根底に流れるのは宗達や光琳へのリスペクトです。

酒井抱一が尾形光琳の画をまとめた《光琳百図》の百合図。前掲した中村芳中の百合の扇面は、光琳の図をもとにしているのがわかります。芳中流にアレンジしていますが、基本は光琳なのです。

涼を呼ぶ琳派の夏秋の草花図

琳派の絵師たちは、やまと絵ではあまり描かれない夏草を積極的にモチーフにしました。

やまと絵は和歌や物語に多く登場する「春と秋」が多く描かれ、「夏」や「夏と秋」の組合わせはほとんどありません。

琳派の絵師たちは文学から離れ、夏の草花を「夏の風物」として捉えました。

これまで描かれなかった主題へのチャレンジなのかも知れません。


《糸瓜に朝顔図》鈴木其一 江戸後期

酒井抱一の弟子・鈴木其一も、あまり描かれることのなかった朝顔と糸瓜の掛軸を描いています。

この頃の江戸は園芸ブーム。特に朝顔は品種改良が進み、観賞用に広く育てられていました。

江戸琳派の絵師は朝顔や糸瓜など「つる」の描写を得意とし、曲線を自在に走らせています。


《秋草図扇子》神坂雪佳 大正末期

こちらは明治から昭和初期に活躍した京都の図案家、神坂雪佳(かみさか せっか)作の桔梗の扇子。

雪佳は光悦、光琳の作風を手本としました。

銀色に光る扇面と桔梗の青い花がまさに涼を呼ぶ作品です。


ショップ風景

扇いで涼む実用品であり、観賞用、ファッションに、贈答にとさまざまな場面で江戸時代の人びとに親しまれた「扇」。琳派の絵師は、この小さな画面に思う存分、個性を発揮しました。

一括りに「琳派」といっても、画風はさまざま。
宗達、光琳を手本としながらも、絵師ひとりひとり違った表現になるのが琳派の面白いところです。

観賞後はミュージアムショップに立ち寄ってみてください。かわいいオリジナルグッズが豊富で、目移りすること必至!
館内には雰囲気抜群のカフェもあって、オリジナルメニューが楽しめますよ。

【おまけ】


《仔犬図扇面》中村芳中 江戸後期

まんまるの仔犬の扇絵。現代に繋がる『カワイイ』文化のはしりでしょうか。
小さな扇に広がる琳派の世界を、細見美術館でぜひご鑑賞ください。

現在は展示替えを行い、ご紹介した一部作品はご覧いただけません。

Exhibition Information

展覧会名
琳派展23 琳派の扇絵と涼の美
開催期間
2023年6月10日~8月20日 終了しました
会場
細見美術館
公式サイト
https://www.emuseum.or.jp/
注意事項

※一部展示替えあり