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2024年11月1日
琳派展23 琳派の扇絵と涼の美/細見美術館
京都・平安神宮のほど近く、今年で25周年を迎える細見美術館。
細見家三代のコレクションを擁し、日本美術、特に伊藤若冲や琳派のコレクションは有名で「琳派美術館」と呼ばれるほどです。
そんな琳派の殿堂で、開館からほぼ毎年開催されている 「琳派展」が今年も始まりました。
23回目となる本展は、この季節にぴったりの涼を呼ぶ扇絵の特集です。
細見美術館外観
閑静な街並みに美術館らしからぬ外観。一見、大きな邸宅のようです。
館内に一歩入ると、開放感あふれる吹抜が、地上3階から地下2階まで広がっていました。
自然光を活かしたとてもモダンな空間です。
館内の吹抜
木目の美しい落ち着いた展示室は、立派なお屋敷のコレクションルームの趣。
ゆったりした気分で琳派の扇の世界に浸れます。
展示風景
実は「琳派」という通称が定着したのは実は50年ほど前のこと。だから琳派の絵師たちは、自分たちを「琳派」などとは思っていませんでした。
狩野派や土佐派などの日本画の流派と違って、「琳派」の絵師たちは師から指導を受けて伝統を継いだのではありません。
俵屋宗達(たわらや そうたつ)や尾形光琳(おがた こうりん)の意匠を手本としながら、自ら研究し学ぶ「私淑(ししゅく)」によって受け継がれていったのです。
琳派の絵師たちは扇絵を積極的に手掛けました。
扇の形状は琳派の特徴である大胆な構図とデザイン性に適し、個性や画力を示す絶好の題材だったのです。
それぞれの絵師の「扇絵」をじっくり観ていきましょう。
《月梅下絵和歌書扇面》本阿弥光悦書・俵屋宗達下絵 江戸前期
琳派の創始といわれる本阿弥光悦(ほんあみ こうえつ)、俵屋宗達合作の扇面です。
江戸時代初期、宗達は色紙や短冊を売る絵屋「俵屋」を営んでいて、扇は俵屋の主力商品でした。
そんな宗達の才能を見出したのが、書の名手で芸術プロデューサー的役割をしていた光悦。宗達の描いた大胆な図案の料紙に書をしたためて、人気をさらいます。
宗達は絵師としてみるみる頭角を現し、《風神雷神図屏風》などの傑作を次々と生み出しました。
《宇治橋図団扇》尾形光琳 江戸中期
宗達の活躍から100年後、宗達の絵に魅了されたのが尾形光琳。
光琳の時代は団扇が流行したようで、扇子絵よりも団扇絵が多く残されているそう。
光琳は宗達の作風を取り入れながらも、華やかなセンスで《燕子花図屏風》(根津美術館蔵)など、デザイン性の高い独自の世界を築き上げます。
《扇面貼交屏風》酒井抱一 江戸後期
金屏風一面に散らされた扇絵が圧巻です。
光琳から百年後、江戸の酒井抱一(さかい ほういつ)は、光琳作品を熱心に研究しました。
抱一は「江戸琳派」の租とされ、鈴木其一(すずき きいつ)らに引き継がれます。
《扇面貼交屏風》部分 酒井抱一
《扇面貼交屏風》部分 中村芳中 江戸後期
酒井抱一が江戸で活躍していた頃と同時期、大坂で光琳に私淑していた中村芳中(なかむら ほうちゅう)の扇絵。
几帳面に光琳を研究した正統派の抱一と対照的に、おおらかで大胆な芳中。
琳派の特徴である、滲みの技法「たらしこみ」をこれでもかと多用した画は、絵手紙のような温かみがあります。
《扇面画帖》中村芳中 江戸後期
※7/10の展示替えの際に頁替えを行い、現在は違う頁をご覧いただけます。
芳中の扇絵は、扇面の曲線を効果的に使ってモチーフをデフォルメしたデザイン性の高い画です。
人気の北欧デザイン、マリメッコの花柄を思い出しました。
《光琳百図》酒井抱一 明治27年刊(初版:文化12年頃)
※7/10の展示替えの際に頁替えを行い、現在は違う頁をご覧いただけます。
絵師たちが自由で個性豊かに描いた琳派。しかし、根底に流れるのは宗達や光琳へのリスペクトです。
酒井抱一が尾形光琳の画をまとめた《光琳百図》の百合図。前掲した中村芳中の百合の扇面は、光琳の図をもとにしているのがわかります。芳中流にアレンジしていますが、基本は光琳なのです。
琳派の絵師たちは、やまと絵ではあまり描かれない夏草を積極的にモチーフにしました。
やまと絵は和歌や物語に多く登場する「春と秋」が多く描かれ、「夏」や「夏と秋」の組合わせはほとんどありません。
琳派の絵師たちは文学から離れ、夏の草花を「夏の風物」として捉えました。
これまで描かれなかった主題へのチャレンジなのかも知れません。
《糸瓜に朝顔図》鈴木其一 江戸後期
酒井抱一の弟子・鈴木其一も、あまり描かれることのなかった朝顔と糸瓜の掛軸を描いています。
この頃の江戸は園芸ブーム。特に朝顔は品種改良が進み、観賞用に広く育てられていました。
江戸琳派の絵師は朝顔や糸瓜など「つる」の描写を得意とし、曲線を自在に走らせています。
《秋草図扇子》神坂雪佳 大正末期
こちらは明治から昭和初期に活躍した京都の図案家、神坂雪佳(かみさか せっか)作の桔梗の扇子。
雪佳は光悦、光琳の作風を手本としました。
銀色に光る扇面と桔梗の青い花がまさに涼を呼ぶ作品です。
ショップ風景
扇いで涼む実用品であり、観賞用、ファッションに、贈答にとさまざまな場面で江戸時代の人びとに親しまれた「扇」。琳派の絵師は、この小さな画面に思う存分、個性を発揮しました。
一括りに「琳派」といっても、画風はさまざま。
宗達、光琳を手本としながらも、絵師ひとりひとり違った表現になるのが琳派の面白いところです。
観賞後はミュージアムショップに立ち寄ってみてください。かわいいオリジナルグッズが豊富で、目移りすること必至!
館内には雰囲気抜群のカフェもあって、オリジナルメニューが楽しめますよ。
【おまけ】
《仔犬図扇面》中村芳中 江戸後期
まんまるの仔犬の扇絵。現代に繋がる『カワイイ』文化のはしりでしょうか。
小さな扇に広がる琳派の世界を、細見美術館でぜひご鑑賞ください。
現在は展示替えを行い、ご紹介した一部作品はご覧いただけません。